8番倉庫

長文置き場

金カム163話「指名手配書」感想

先週の感想の締めくくりを引き継ぐと、
超がんばってた。めっちゃ考えてた。でも気を付けてなかった。
何を言ってるのかわからねーと思うが私にもわけがわからなかった。木化けだとか陽動だとかそんなチャチなものじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

尾形に心はない。
やばい。あいつやっぱり妖怪なんだよ。
恐怖…とか…ないんじゃない? 薄々思ってたけど…
尾形がよくサイコパスとかソシオパスとか言われてるけど違うと思いましゅ~!って長文感想の中で一生懸命ぼくちんが言ってた理由はここにあるんですよ。
谷垣狩りの時のシカと焚火とかさ、ヴァシリさんの「エサ(仲間)に食いつけ」とかさ、罠に仕掛けるものって色々あるよ。
でも自分しか居ないのに自分を餌にするとか何考えてんの?
利己、じゃないんですよ。そうですらないんですよ。一流の狙撃手は一流の狙撃手を見抜く…ヴァシリ殿が一流の狙撃手だと見抜いた尾形は、雑に隠れた己をすぐには狙撃せず様子見する慎重さを予測して罠を張った…
でもそれは“賭け”の域を絶対的に出ないものじゃないですか。フツーに死ぬかもしれないじゃないですか。そこに全部賭けれるこの、己の生死への無頓着さ。
“冷徹”ですわ。狩るという行為をただただ遂行するマシンなんすわコイツは…
私事ですがこの間ちょうど我が賃貸住宅におかあさんが来てて、暇潰しに一緒にゴールデンカムイのアニメ観てたんですけど、谷垣狩りの時の尾形を見て「この人は本当の軍人さん、って感じだね」というプロフェッショナルな印象を持ったようなんですが、もしかしてそうなんだろうか? 尾形とは“至高の軍人”そのものが追及された存在なんだろうか? そうなんですかおかあさん?(知らねえよ)
先週物議を醸した「良い狙撃手とは…冷血で、獲物の追跡と殺人に強い興味があるような人間である」というモノローグは、ヴァシリとイリヤは~という解説から始まっているので、やはりあくまでもヴァシリさんの話だったんじゃないでしょうか。仲間をエサにする冷血さ。憎しみもなしに彼にそこまでさせるものとは、獲物の追跡と殺人への強い興味だった。
あのコマの尾形があまりにも妖気を放ってるので引きずられますが、あれは“では…尾形は?”という問いかけの絵であり、いまヴァシリがその手にした銃で殺すことを渇望し強い興味を抱いている“獲物”の姿の提示だった。やだエロい…
しかしヴァシリは一流の狙撃手であったけれど、相手は人間ですらなかった。神のように生き死にを御する対象としては、規格外すぎた…
人の心は操れると言っていたカリスマ鶴見中尉が尾形だけはモノに出来なかったのを思い出します。相手が悪かったんだ。

ピクリとも動かない人影を撃たずに待つヴァシリ。妙だ、百戦錬磨の狙撃手がこれほど簡単に見つかる隠れ方をする筈がないと。私もそう思ってた。みんなそう思ってた。あれ絶対姉畑先生の時の案山子作戦だよ~~~!!でも尾形接近戦弱いじゃん大丈夫なの~~~~!!?と思ってた。
朝が来て明るくなり、ヴァシリは初めて雪上に足跡を消した形跡があることに気が付く。辿った先には…天葬の棺。
この場面、今までゴールデンカムイ読んでた中で一番ゾワッッとしました。静寂に包まれた不可侵の神域。そこから伸びる、神を持たぬ尾形の人生を象徴するような一筋の足跡…
闇の中一点を見つめながら静かに雪を口にする尾形の、この、目…!
ヒュッて息を呑んだ。化け物だ。こわすぎる。それでいて死ぬほどかっこいい。おぞましいほどに!

確信を得て、棺内の人間を確実に葬る弾数をぶち込むヴァシリさん。隙間からちょっと中身が見えてますう!!
ここで「どおりで動かないわけだ。あれは遺体を使ったカカシだ!」と彼が確信してしまったのは、それだけ彼の目から見ても、あの人影が生きている人間のものだとは到底信じられなかったということであり。
そうして、普通に起き上がり銃を構える…生きた人間。

怖いよおッ!!!!!!!!
もう読み終わってビエエエエンって泣きそうだった。オガタが怖いよたすけてえ~!!!って感じだった。
やばいですよ、唇カッサカサですやんか。微動だにせず見張ってたから目も充血していたの? 一晩中…すぐにでも撃たれる可能性と確実に監視されている気配に絶え間なく晒されながら…息を潜め、最低限の呼吸に留め、その際に白い呼気でバレないように、雪だけを外套の下でシャリシャリと口にし続けながら…!?
むりむりむりむり!!!!!!(発狂しながらiphoneを放り投げる)

人間業ではない。観測手のいないスナイパーはその瞬間を逃さないため例え虫が身体を這っても排泄の時が来ても微動だにせず標的を捕捉し続けた、という逸話がありますが、それは"隠れた狩猟者"としての態度ですよね。ヴァシリさんのような。"自分が既に捕捉された状況"とは、全く別の話です。見つからずに狙い続けるため微動だにしないのと、見られ続けても気取られないように微動だにしないのは全く、次元が、違う…
「尾形は心がないから木化けの必要すらないんですよ、もともと木なんですよ」ってこないだ書いたのは誇張表現だったんですが、マジだった。最早そういう生き物なんだ。自然物みたいな…狩猟装置なんだ…
恐怖、焦燥、生への渇望、動揺、不安、疲労、諦め…どれがあっても無理。湧いてくるそれらの感情、何か一つでもあったらこんな風には出来っこない。
何かが欠けている。(評・花沢幸次郎)

己の勘を信じているから出来た…というのとも少し違うような気がするんです。信仰なんて必要ない。そこに意味を見出せたら躊躇いなくやってのけるのが、尾形という男…
賭け、ではなくて、なんか…確かめている、という感じ。結果を。
思えば谷垣狩りの時に俺はここだぜ、と言って手を広げたのも「己に気づいた上で谷垣がどうするのか問うため」だった。もう撃ってしまったから。先週この時の精神状態を「ヤケクソ」と評しましたが改めます。そもそも自棄になるほどの最優先欲求が彼にはない。ひとつアクションを起こして、その結果を受けた次のアクションに決定されたのがあの振る舞いだったというだけのこと。
では改めて、何故あの時、まずいと分かっているのに二階堂を助けたのか?
先週は、エゴが欠けてるからこそ「どっちでもいい」ので撃った。と仮定しましたが、更に追加します。"二階堂が頼んだから"尾形はあのとき撃ったんじゃないでしょうか?
振り返れば尾形って、やってくれって"頼まれたこと"は大体やってくれる男じゃないですか?
あるいは頼まれなくても、それをその人間が欲していると見込まれた行為を。
エゴに欠ける尾形は、不測の事態が発生した時に判断する決め手にも欠けている。そういう時、他者からの要求を汲む。象徴的なのは釧路でピンチの谷垣に出くわして、尾形的には怪しいし別に死んでもいいけどどっちでもいいなって感じであろう谷垣に対し、「助けて下さいと頼めよ」と笑ったとことか。その後「お前の鼻を削ぐのは俺がやってもよかったんだぜ」と言いながら、アシリパが頼んだので谷垣を逃がしてやる行動とか。
雛鳥のようにアシリパさんに餌付けされてる場面も「クチ開けろ」って言われたからそれに従ってるだけ…
欠けているエゴを他者のエゴで補填しているんじゃないだろうか?
撃った鳥もプレゼントだし…父に会いたがってる母に「葬式には会いに来てくれるだろう」だし…父の面目に勇作どんの死が対外的に役立ってしまったことがモスッの人の話で描写されたし…キロランケに頼まれてウイルク撃っての今だし。
じゃあなんでチタタプとかヒンナ言わなかったんだよ、というと必要性が分かんなかったからでは。ヒンナは食べてる本人が感謝する言葉だから何とも思ってない尾形には論外の言葉だし、チタタプも単純になんで言うの?なんになるの?ってことが素朴に理解不能だった。言うもんなんだぞ、という説明では従う動機がないので言わない。尾形は何かに従うわけではない。従う、っていうのも意志だしね。「チタタプって言え」って尾形は直接言われてないし…まあこれは重箱の隅を突くような話ですけど。
あの時、現状最後の団欒の場で、満を持して小さくチタタプ言ったのは…あんなに人がいて、誰ももう尾形がそれを言うとは思ってなくて、なのに諦めずに再度チタタプ言うもんなんだぞ?これ本当のチタタプなんだぞ?って念を押した上で「みんなと気持ちをひとつにしておこうと思ったんだが」ってアシリパさんに言われて、やっと”自分に言って欲しいんだな”ってことが分かったんじゃないだろうか…
それは自分の意志をもって“我々”に参画するという本来のチタタプの意図からは外れているから、アシリパさんの喜びは半分は外れているわけだけれども…
でも「行こう、アシリパ…」と「一緒に行くか?アシリパ…」の、アシリパに意志を問う時のどうしたんだ尾形というようなあの柔らかい感じは、尾形は今後アシリパさんが何かを望めば聞いてくれるんだろうなというフラグに見える。アシリパさんは「私はこうしたい」「私がこうして欲しいんだ」とハッキリした意志を提示する人だし、その理由の裏に“慈愛”があるちゃんとした人なので尾形も素直に言うこときこうと思うのかな。「愛情があれば母を見捨てることはなかったと思います」と父の瑕疵を表現した男なので…そしてそういう親から生まれたから己には何かが欠けているのだと。
そういえば珍しく打算なしで「白石を助けたい」と言い切った杉元の第七師団本部潜入計画に、尾形は古巣で危険なのに顔隠しながら協力していたな…
キロランケが先約だから、アチャと杉元死んだってハッキリ言って出発急がせることに躊躇いないし、決してアシリパさんに優しいというわけではないんだけど。多分アシリパさんが「私はお前にこうして欲しい」って頼めば聞いてくれる。そして必要ならば容易く命も餌にする男。
鶴見中尉は高みから自分の意思で従わせるよう差し向ける人なので尾形とは相性最悪だったんじゃないかな。
そんな尾形が唯一?自分だけの意思で動いたように見えるのが茨戸の新平助けた時なんですけども。苛立ちという感情を珍しく滲ませた先にあるのは親との関係…
尾形が自分の成す行為じゃなくて、自分の存在そのものを「必要ですか?」って訊いたのは、きっと後にも先にも父上の今わの際一回きりなんだろうな…

しまった尾形が最高に怖くてカッコイイ回なのに湿っぽい話になってしまった。尾形のいいところは客観的には哀れでも主観が欠けてるから本人はいたって元気だしのんきな所だと思います。どうする来週「そういえば俺ロシア語わかんねえな」って言いだしたら? ありえなくもないですよ。あいつ割と雑だからな。
つまり何が言いたいかって、尾形っていうのはそういう妖怪なんじゃないかって話なんですよ。何でもできる(行為としてであって結果が必ずついてくるわけではない)狩りに特化した生物。正しく頼めば凄腕兵器だけど向き合い方を間違うと最凶の厄災になる。そういう怪談ってよくあるでしょ。
ウイルクさんが曇りなき眼で意思を完遂してみせるやべー奴だという事も明らかになり、アシリパさんはいよいよ父の闇へと迫っていく途上にあるわけですが。回想の中でキロランケはウイルクに比べると青二才な感じするし、「こんなことを出来るのはあの人しかいない…」って初対面の時ウイルクを指して言ってたから、ウイルクの方が年齢とか立場とかキロランケより上だったんでしょうね。
そんなウイルクとキロランケが袂を分かった以上、アシリパさんは今後アチャとキロランケどっちの思想を支持するか、という岐路に立たされることになるんでしょう。
「そりゃロシア人も怒るぜ」という素朴すぎる白石の感想がいい感じに緩衝材です。ていうか尾形ちゃんこの話聞いとかないとだめなやつじゃない??あとでちゃんと教えてもらうんだよ???いやでもべつに知ったところでふ~んっていう感じなんだろうか…
私はこの漫画で一番人間できてるのがアシリパさんだと思うんで、アシリパさんがどんな答えを出すのか興味があるな。尾形は振り切った“冷徹”ですけど、アシリパさんの強みっていうのもその冷静さにあると思う。冷徹妖怪尾形をうまく使って危難を避けつつアシリパさんなりの真実を見つけてほしい。尾形のいいところは何も気遣ってくれない代わりに何も求めてこないところだから…

はあ…なんか真面目な話になってしまいましたが、今週の尾形はとにかくなんか…エロい…ですよね…
恐怖と性的興奮というのはよく似ているらしいですが、尾形が怖くなればなるほど謎のエロスが漂う。先週から、いや先々週から既にエロかったですが…
雪食ってる(食ってない)場面がマジで動悸がするほどエロい。こんなにエロいと感じさせられるキャラクターかつてないかもしれない。それは同時にこんなに恐ろしいと感じさせるキャラクターもいないという事でもあるんですけど。
でもとにかく尾形はがんばってた。肉体的には疲労による衰弱の兆候が見られますが、精神的にもちょっとは疲れたなって思うだろうか。昂ぶりもクソもない、「ミッションコンプリート」という感じのラストページ…尾形は勃起とは言わない。凄い奴だよおまえは…。来週思う存分どんなもんだいしてくれ…。