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長文置き場

金カム189話『血痕』感想

怪我人続出

杉元アシリパ再会の数分前…とわざわざ時間を交錯させるということは、こっちの一団とあの悪夢の再会(偏った見方)がこれからクロスするんでしょうか?
ボコられて起き上がれない谷垣は、未だ怒り冷めやらぬ様子。「あの野郎…ッ」って言ってる形相普通にチンピラみたい。レタラの毛皮を「欲しい…!」とか言ってた谷垣が戻ってきた感じですね。キロランケは刺されて銃だけ奪って逃走ですか。あま〜い。
コイト少尉は月島と血痕を追跡中に打ち棄てられた村田銃を発見、相変わらず不用意にものを触ってえらい事になってしまう。落ち着きない奴と行動してると命がいくつあっても足りないなあ…(冷たいコメント)
月島軍曹は爆弾から上官を庇う呪いかなんかかけられているので? 首というのが気がかりですね。頸椎とか、運動機能に関わってくるイメージありますけど…。
怒りのコイト、感情のまま駆け出す。今のところ指揮官的な行動はゼロ。しかし気持ちだけは一丁前に備わっていた様子。
「おぉおのれよくも…私の部下たちをッ」
きっと指揮能力ないけど何だかんだ人望つくタイプの上司だ…。コイト見てるとエリートの眩しさというか、生まれながらの祝福感じて目がしぱしぱする。
対してキロさんは本当に運がないですね;; どうしてこんなに不運なの;; ドラクエ的なステータスがあったらヒュンケル並にうんのよさ無いでしょ絶対。
皇帝暗殺失敗に始まり、インカラマッの想定外の殺傷から今回の谷垣の襲撃に繋がる失敗…そして今回、罠を張って掴んだチャンスをなんと見知らぬアザラシに邪魔される間の悪さ…!
まあそこでビビって見ちゃう時点で、覚悟が決まってないという事なのかもしれませんが。何だかんだ設置式の爆弾とか機関銃以外で殺せたこと無いよね。ウイルクも尾形に撃たせなかったら絶対自分じゃ撃てなかったでしょ。いやそもそも暗闇であんな遠距離で狙撃出来んの尾形だけだろってのは置いといて、精神的な可不可という話で…あっやめよう、尾形の失われた狙撃能力の話はもうやめよう、胃がもたれてきた(情緒不安定)
それにしても村田銃もここで退場なのでしょうか…。ずっと二瓶の形見が拠り所だったリュウはこれからどうすれば? リュウくん…尾形っていうニンゲンがいるんですけど…(スカウト)
しかしマジでキロランケかわいそう。尾形の惨状に落ち込んでたけどキロランケの四面楚歌っぷりにそんな場合じゃねえという気分になってきました。腹だけでも大分なのに首ですよ…もうこれ絶対しんじゃうじゃん(絶望)
でもなんか…カメラワーク的な問題で、致命傷ではギリギリ無いみたいな、そんな感じで辛うじて生き延びないかな…杉元も「キロランケを追わないと」って言ってたし、色々聞きたいことがあるんだと思うんですが。あっ、既に満身創痍なんで追い討ちはナシでお願いします杉元さん。放っとけば死ぬ尾形をわざわざ生かした杉元さんならキロランケのことも理性的に対処してくれますよね…(地を這うような怨嗟の声)
今まで私コイトというキャラの存在について「ついてきてるな」くらいの認識だったんですが、今回初めて彼自身の思想みたいなものが見えて、ようやく付属物ではなく正義の一角を担う登場人物として物語に絡んで見れそうな気がしてきました。
怒りで周りが見えなくなるキエエな激情家であることは分かっています。その彼が初めて鶴見のシンパとしてではなく、曲がりなりにも部下を持つ将としての怒りを見せた。人の上に立つ者だというプライドをしっかり自身のものとして持っている鯉登少尉は、部下を救済するための鶴見の計画が、そもそも落とす所から自分で計略していたマッチポンプだったと知った時どう思うんでしょうね?
今回の話を読んでから、鶴見の最期はコイトに殺されるのかなあ~という想像が浮かんできてならない。親殺しは巣立ちのための通過儀礼だぜ。(幻聴)

トラを殺すな

キロランケのこの“殺人に対する忌避”っていうのは、もちろん本来の彼が甘い性格ってこともあるでしょうが、例の皇帝暗殺事件の時に自分がミスったせいでウイルクに大怪我させたトラウマってのもあるんでしょうかね。
また失敗するんじゃないか…という恐怖心が彼の手を躊躇わせる。それがさらに命取りになってゆく…。
回想や言動から、キロランケはかつてのウイルクに強いあこがれを抱いていたんだなという様子があちこちに見て取れます。大きな目的のために手段を選ばず、必要であれば仲間すら即座に切り捨てられる非情なリーダー。
そんなウイルクを信頼し愛していたと怖い顔で回顧する彼は、真逆の性情を持った気の弱い男で…。インカラマッを刺してしまい、刺すつもりは…と呆然としていた顔が本来の姿。そのあと合流した白石に厳しく「連れてくわけにはいかん」と断じた昏い顔が、なりたかった姿、なんでしょう。
どうして非情に徹し切れないのか。彼は善人だから。どうして非情に徹したいのか。それは、彼が己の正義のために生きたいと願っているから。大きな正義=個人の善行ではないからです。
なすすべなく国という大きな力に翻弄されるだけの、信じた宗教すらも都合のいいように変えられてしまう、あまりにもちっぽけな民族…その中で生きている命。
ひとつの正義が他の正義を圧し潰そうと迫ってくる時、潰される側に残された選択肢は、服従か抵抗か殉教しかない。
島原の乱は国内最大の一揆ですが、厳しい年貢の取り立てという生活上の迫害と、キリシタンへの宗教上の迫害という複数の要因が絡んで非常に複雑な様相を呈していると聞きます。判明しているのは、多くのキリシタンを抱えた無辜の民、老若男女問わず三万人以上が皆殺しにされたということ。
そんなにもの死者数に上った大きな要因は、追い詰められた彼らの多くが投降せず“殉教”という姿勢を見せたことにあるそうです。
裏切りという名の転向も悪。暴力という名の抵抗も悪。自殺という名の殉教も悪…しかしそのどれかしか選べない時、どれを選び取り、正義と称するのか。そこに優劣があるとは思いません。正義とは主観的なものです。どれも選ばずに済むなら、それが一番いい。でもそうはならなかった。先に存在する外圧なしに、そんな問いに人間が晒されることはない。
キロランケは自分の他に守りたいものがあり、それは文化であったり同族であったり家族であったり思い出であったりしたんでしょうけど、そのためには死ぬわけにはいかないし捨てるわけにはいかない、戦わなければ守れない。そう決意した段になって、しかし自分の甘さにどうしても足をとられてしまう。そんな中で、生まれついてのソルジャーみたいな冷徹さを備えたウイルクがどれほど頼もしく、眩しく見えたことでしょう。
命がけで自分の失敗をフォローしてくれた負い目も手伝って、彼がいれば大丈夫だ、彼の野望に俺はついていくと信頼するその気持ちは信仰に近いものですらあったのではないでしょうか。そんな彼と袂を分かつ…キロランケの葛藤はどれほどのものだったか。
多分キロランケは基本的に嘘をついていないと思うんです。彼は正義のために動いている(と彼自身信じている)ので嘘をつく必要がないから。だから、キロランケから見てウイルクが“変わってしまった”のはきっと本当のことなんでしょう。誰よりもウイルクを信じたい男でしょうしね。
とはいっても一体、変わった部分とはどこなのか?
アシリパは実際に“私にしか解けない鍵”を持っていた、そしてそれを精神的ショックにより忘却していた不甲斐なさで泣いたわけですが…鍵を持っていた以上、ウイルクは本当にアシリパに金塊を託すつもりがあったということになる。だとして、何故その使い道について、何の指導も与えていた様子が無いのだろう。
この樺太の旅で、オロチックウラーとかメコオヤシとかホホチリとか、樺太アイヌ文化をちょくちょくアシリパに教えていたことは判明しました。しかしそのどれもが思い出話のような他愛のないもので、その文化への愛着を持たせようとするような切迫さは感じられない。実際アシリパは旅をするまで樺太アイヌの存在はまったく頭になく、樺太アイヌに紐づかない個々のエピソードだけを断片的に覚えていた。
アシリパは金塊の鍵を持っているとキロランケは確信している様子でした。その上で、ウイルクが与えなかったその“使い道”の導き手を引き継ぐような態度でここまで来た。成長したら彼女の方から鍵を教えてくれるはずだと。それが自然なことだと言うような調子で…だから金塊をアシリパに託したことそのものは問題なく、そのまま一緒に授けるべきだった使い道をアシリパに託さなかったこと、が問題なのではないでしょうか。
どうしてウイルクは殺されなければならなかったのかと聞いたインカラマッに、キロランケは「あいつが変わってしまったんだ。金塊の情報を古い仲間たちに伝えにゆくはずだったのに…」と言いました。古い仲間たち、は今回助けたソフィアとその仲間たちのことでしょう。金塊の情報がアシリパの思い出し待ちだったこと以外は、当初の予定を引き継いでいるということになります。
だとしたらやはり、キロランケに“ウイルクが変わってしまった”と確信させたのは、土方の存在だったのでは?
目的の一致する私にだけ金塊の本当の量を明かしてきたという土方。土方の目的とはブラキストン線で日本を分断する蝦夷共和国ですが、ここで以前160話時点で考えていた問いにもう一度立ち戻ってみたいと思います。つまり、土方と鶴見とキロランケの目的ってわりと被ってない?という疑問。
答えとしては「場所だけ被ってるけど主体が違う」という事になるんじゃないでしょうか。つまり、極東連邦国家少数民族蝦夷共和国⇒北海道アイヌ、軍事政権⇒和人(第七師団)…が北海道で各主権を守る独立した国家を築くための計画であるので、北方の守り手として独自に蝦夷地を運営する国民が欲しいだけの蝦夷共和国思想は、移民を募るといっても極東の少数民族文化の保護という意図にはそぐわない…。
で、ウイルクがアシリパに伝えていた、「お前はアイヌの未来」という言葉。アイヌを導く存在になってくれるよう、山で潜伏し戦えるよう育てたと。回想見てもとにかくウイルクは父親になってからというもの、アイヌのことしか言ってないんですよね。「アイヌだけじゃなくウイルタやニヴフのためにも…」と、あくまでロシア極東の少数民族全体の保護のために昔の仲間と金塊見つけようと主張するキロランケとはこの点で合わない。
なんかどうも、言動を見てるとウイルクって“転んだ”のでは?という気がしてくるんですが。北海道に渡り、金塊のため北海道アイヌに近づいて結婚して、しかしそこで、こう…途中から、山で鹿とってチタタプしてヒンナヒンナしてんのが一番だなみたいなミニマルな思想に染まったのでは?(外れてたらマジごめん)
だって口では戦えるように育てたなんて言いつつ、アシリパは人とゲリラ戦出来るようには仕込まれてないよね。結局、モスパパが言ったような、自分の子供を率先して戦わせるような育て方をウイルクは出来なかったんじゃないのかなあ。
そして「父親から人間の殺し方は教わらなかったのか?」と訊いた尾形は、その裏切りのようなエゴの愛を察したんじゃないのかな…ウッまた悲しくなるのに尾形の話しちゃった(情緒不安定)
話を戻すと、北海道アイヌ主体の計画を企む土方に計画の核心を明かしたことを知って、ウイルクのそういう心変わりをキロランケは知ったのでは。
ただ、土方はのっぺらぼうが元パルチザンで、樺太経由で金塊を持ち出し外部の仲間と接触しようとして捕まったんだとも言っていた。アシリパがずっと着ていた服も実は樺太アイヌのものだったということも判明した。
加えて、網走にて土方がアシリパに逃げられた後、アシリパと二人で映った写真を取り出して「これで信じさせるしかないか…」と言った理由。
つまりウイルクが仮にそういうミニマリズムに染まったとして、それでも極東連邦国家計画を捨てたというわけでもないんじゃないか。ウイルクは、アシリパに選ばせようとしていたのでは?
名前だけをキーワードとして伝えて、土方とキロランケを接触させ、アシリパの前に候補として並ばせる…古巣のパルチザン樺太アイヌ含む少数民族の独立を選ぶか…土方が提示する北海道アイヌ独立を選ぶか…あるいはそのどちらでもないか?
「山で戦えるよう」と言いつつ、“何と”戦えるよう育てたのかは言ってないとこがミソなんですよね。それは日本なのかロシアなのかヒグマなのか。
金塊のこと知りたければアシリパを連れてこいと言っていたし、土方は決して他の陣営よりもリードしていたとか、のっぺらぼうから一定の信頼を得ていたとかではなくて、本当に単なる候補の一人だったのではと。そう考えると、もしあそこでキロランケがアシリパを連れて行ったら、キロランケに金塊のこと喋ったような気もするんだけどなあ。
とすると、堂々と話しに行けない理由があった。それはなにか?…「アイヌを殺したのは私じゃない」と関わってくるのかな、やっぱ?
もしかして殺しに抵抗があるのもその辺が関わってきたりして。外れてたらマジごめん(二度目)
まあでも、ずっと極東連邦国家というでっかい理想を共有してやってきた唯一無二の同志に、いきなりやっぱあの話無しねって梯子外された(と感じた)なら、殺したくもなるかもなって話ですよ。目的のためなら手段を選ばなかった非情な男なのに女が出来た途端丸くなったみたいな…人斬り抜刀斎が今は不殺の流浪人でござるみたいな…奇しくも十字傷だし…(明治金塊浪漫譚)
ところでアシリパに選ばせるという話、軍事政権つくって芥子畑と武器工場で資金繰りもバッチリ☆という鶴見一派の出る幕は、網走で問答無用の制圧&確保に走ったように無いわけなんですけどもね。ウイルクとしても和人の内紛とか知らんわという感じだろうし。
ただその和人による北海道入手ルートの陣営に、杉元が加わっちゃったことで今は最有力候補に躍り出てしまっているんですよね…二百円欲しがる杉元&残りは好きにしていい鶴見陣営のイケイケ和人派閥が誕生してしまった。ウイルクもこれにはビックリだと思うよ。しかも実は鶴見中尉ってあの時の(略)

とにかくキロランケはキロランケで初志貫徹で頑張ってきたのに、色んな人間によくもよくもって言われてこんなにズタボロになってしまって…かわいそす。
尾形がキロランケにくっついてきたのは勿論自分の目的のためで、メインの目論見はアシリパの思い出した鍵を横からネコババすることだったわけだけど、それとは別に尾形ってけっこうキロランケのこと嫌いじゃなかったんじゃないかな。
キロランケって向いてないのに手を汚そうと頑張る人間じゃないですか。手を汚さずに良い感じに収まるのを待つだけの坊ちゃん嬢ちゃんとは真逆の頑張りがありますよね。
こんなありさまでは確実にキロランケ本人では殺せなかったであろうウイルクを代わりに殺してあげた、その協力をする気になった理由…殆どは合理的な理由だとしても、その内の一ミリくらいは、キロランケが尾形の苦手なタイプの人間ではなかったからっていうのもあるのかなって。
こないだ馴鹿見た時の、「アイツも何かに追われて大陸から渡ってきたのかもな…」っておそらくキロランケに向けて言った独り言のような台詞が、今となってはどことなくある種の親しみを感じさせるものだった気がする。他人事だけど、大変だな、みたいな。皮肉気にだけど、その苦労を理解はするみたいな。
麝香の匂いを手ずから嗅いでたとことか、わりと警戒してないんだなという感じがしましたしね。考えてみれば杉元はキロランケを特に警戒していましたが、杉元が警戒する相手と尾形が警戒する相手って真逆な気がするな。まあいいかこの二人のことは…(なんで言ったの)
今の所まだセーフですけど、今後ぶつかり合う正義のうち“正しい正義”が決められちゃって、圧し潰された方の正義が抵抗でも殉教でもなく“転向”させられちゃったら、私はもういい読むのやめようやめよう!って大人しくヒグマの巣穴にドーンしてベローンしたいと思います。
今回のキロランケの表紙しみじみ好きだよ。めちゃくちゃ頑張ってるもん…ていうかキロランケのこと今回ですごい好きになった。煌めいてるんだもん…。せめて何か、報われて欲しいなって思います。