8番倉庫

長文置き場

金カム164話「悪兆」感想


あわわ…

あわわわわわ………(腰を抜かす)


読み終えて小一時間ほど言葉もなく、宇宙を前にした猫のような顔で固まっていました。頭がパンクしそう。この感情は…これは一体何…? 涙…?
先週あれだけ非人間じみた装置として敵を斃しておきながら、人間的、あまりに人間的だった今週の尾形。
寒い場所で震えも見せず一晩中微動だにしなかったし、胃に何もなく雪しか口にしていなかったから外側からも内側からも冷え切って、自然の生体反応として盛大に発熱。考えてみれば当たり前だよな…どれぐらい熱出せば取り戻せる無茶なのか想像もつかない。精神に肉体が付いてこれていない…
一人でここまで来るのも精一杯だっただろうに、とりあえず身を落ち着けるところまでは独りで完遂するところがいじらしい。
熱で朦朧とする尾形の表情がとにかく全編にわたってイイですね。自分が高熱でフラフラの時の感覚を思い出させられる。私の庇護欲も大変なことになっております。
「随分と顔色悪いな。いつも悪いけど…」
カラー集合絵とかで一人だけ異様に色白なことに本編で言及された!尾形は青白いっていうのはそういうしっかりした設定なんですね。やっぱアレじゃないですか、妖しげな…この世ならざるものみたいな…あるいは欠食児童的な、何かが足りてない感の演出なのか。それとも…はかなさ…?^^
前週であれだけ人外っぷりを見せつけておきながらの、このギャップは本当にずるい。極端なんじゃない? 人間は恒常性の生き物なんだよ? いくらがんばるって言ってもある程度手抜かないと壊れちゃうんだよ? わかる?(泣きながら)
手を当ててすごい熱だぞと気付いてくれるアシリパさん。「少し雪をくちにし過ぎただけだ…」などとわけのわからない供述をし、震え声で強がろうとした言葉が止まる。そうしてあまりに唐突に現れる彼の人。
マジで「!?」ってなりました。マガジンでよく見るやつ。コマにでっかく「!?」って書いてあるやつ。お前ら兄弟揃って怖いんだよォ!!
先週妖怪で今週幽霊とかバリエーション豊かすぎるでしょ…ていうか今更ですけどサトル先生ホラーもお好きなんでしょうね。江渡貝くぅんに死霊のなんちゃらのパロがあったり、親分と姫のとことかもわりとサスペンスしてますし…そしてとうとう幽霊とは。メインディッシュが来た感じ。外套の中に居るシーンとか呪怨で見たようなやつだよぉ!
この登場シーンがアシリパさんに被っているので、「アシリパさんが勇作さんに見えているのでは?」という感想をちらほら見かけてなるほど~と思ったのですが、自分が読んでそう思わなかった理由に「橇に乗る姿勢が勇ましすぎ」ということと、外套内が四次元だったところが初登場シーンの印象を打ち消していまして。
なので個人的に別の説を唱えるとすると、あのタイミングで現れた理由は「アシリパさんを前にして気が緩んだ」からじゃないかなと。ホッとしてしまったんすよ尾形は…緊張の糸が切れた瞬間現れてしまったんですよ…“彼”が…

朦朧とする意識の中で世界が尾形に見せたもの。幻覚なのか? 亡霊なのか? いずれにせよ尾形の視界に“それ”が居ることは紛れも無い現実…
少し前に「すべての出来事には理由がある」と言ってカムイレンカイネを否定した尾形が、こうしてその非現実的な姿をひとり目にしているのは皮肉な状況ですね。もしや罠に使った棺の中の人の祟りっ…?
体調絶不調でも問答無用で移動する事になり、雪路を橇で駆ける光景はもはや現実なのか夢なのかも分からない。皆一緒のはずなのに、この白銀の世界を死者と二人っきりで、トナカイに引かれ走るスノーファンタジー
「寒くありませんか、兄様?」やさしいッ。ハッキリ足あるし、異様なのは尾のように後を引く頭部からの出血だけなので、もうなんか強そう。守護神? 武闘派トゥレンペなの?
尾形の見る勇作さんがずうっと笑顔なんですよね。きっと生前も、尾形と話している時の勇作さんはいつも笑顔だったんでしょうけども。初っ端の完全ホラーな立ち姿も口元笑ってますからね。外套の中では笑ってないですけど、その表情は身を案じているようでもあるし。そしてこの「寒くないですか」という問いかけ…幻なんかじゃなくガチで魂ある幽霊なんじゃないかと思えてヒュ~ってなります。私は科学を信じきってないから幽霊も半分は信じています。
1から10まで幻覚だとしても、あれだけ現実主義の尾形の視界に、まるで本当にそこに居るかのように彼を登場させた“尾形の無意識”が描いた像が、ひたすら生前のままの、尾形の身を案じ優しく丁寧な花沢勇作少尉のままなのが…辛い。そこに逃れたいという願望がない。あったら行いを責めて、うらめしや~と化けてくるはず。恐れていることが悪夢となるのだから。でも違う…ただただどうしようもない何かが、尾形の奥底には横たわっている。
その行き着く先は“死への恐怖”ではなくて、“死”そのものでしかない。先週の感想で「尾形がエロい」と魘されていましたが、そのエロさの正体がなんか今週でわかった気がしました。“死”のイメージだ…。
まるで末期麻薬中毒患者の若い女のような、遅滞した崩壊への予感が最近の尾形には常に漂っている。今だけはその肉体はあまりにも鮮やかに生きていて、しかしそのことがこの先の破滅を担保する。
既にすべての分岐点は過ぎて、この先どうなるかも、今までどうだったかも全て分かっていながら、砂が落ち続ける…そういう静止したどうしようもなさが尾形の周囲を取り巻いているように感じられてならない。先週までのん気と形容した悲愴感のなさも、死にたくないという感情を抱く前に死んでしまいそうな、そういう感じの危うさでもある…

そして始まる回想。やっぱ勇作さんってガッチリしてますね。旗手の条件には長身も含まれるという事ですが…父上も並んだら尾形より身長高かったりしたのかな。尾形が小柄めなのは母親の方の遺伝とか。もしくはただ単に栄養環境の差…お、尾形は子供の時あんこう鍋ばっかりだったから…コラーゲンいっぱいで美肌だと思う…(悪意のあるフォロー)
「兵営では避けられてるような気がしていましたので」こいつメンタル強いな…? 持ち得るものの心の余裕ですわ。成功体験で彩られた人生が冷徹妖怪にもグイグイ付きまとえる押しの強さを育んだんすわ。
しかし尾形上等兵ほほえみがヘタクソ過ぎやしませんかね?? 細めりゃいいってもんじゃないんだよ??? この取り繕いの下手さ、見下してるとかじゃなくてすっごい素朴に勇作殿のことが“苦手”だったんだなという感じがしてカワイイ。遠目で勇作さんを発見したら迂回して回避する尾形上等兵は居たはず。
「処女は弾に当たらないとのゲン担ぎからその陰毛が」「“童貞”も同じ意味で」おっおおお尾形上等兵殿が猥語を!!!!!!????
突然の明け透けな話題と淫靡な空気に狼狽えて完全に勇作さんとシンクロしてしまった。勇作さん顔見えないのに「ヤベェ」という感じ伝わってきてうける。あぐらかいて遊女侍らして酒飲む尾形エッロォ…エロい雰囲気を着こなしている(?)
斜め下からの上目遣いもまた心の内を探るような仕草で。さっきの微笑みよりこういういやらしい微笑の方が百倍うまいってどうかと思います。
「旗手は最も死亡率が高い」=「生きて帰れる保証は無いんだから、悔いを残さないよう一発ヤッとけ」ということですね。
「男兄弟というのは 一緒に悪さもするものなんでしょう?」
ワアアアアアアアアアア!!!!!!!(モザイク処理)
ひっひえええええ!!!!!!これはほんとにあのゴールデンカムイなのォ!!!?るろ剣の志々雄みたいな構図キメやがってよお!!!!
鎖骨と胸元といやらしい微笑みを交互にチラチラ見てしまってもうだめれす。いやらしすぎるでしょ。普段カッチリ軍服着てるのに、ここぞという時に着崩すイベントが来るのずるい。色気の何たるかを教えてくれすぎ。
ていうか尾形にゃん、お姉さんたちに触られまくってる…太ももとか胸元とか…尾形からは指一本触ってないけど…さすがラッコ鍋をマグロで乗り切った男は違うな。
遊女と尾形ワンセットで誘惑してる感じで大変エロティック。こういうの似合いすぎなんだよなあ~~軍人のくせになあ~~~
しかし勇作さんは童貞をつらぬく決意なのであった。童貞を…つらぬく?(矛盾について考え中)
それにしても避けてたくせに急にめっちゃ赤裸々な付き合い方してくる百之助ちゃん、なんかこう…雑…では?
人を騙すのがヘタクソなのでは? 例えば中尉のたらしテクニックは江渡貝くぅん回で最も味わえると思うんですけど、「俺が正しい」という自信に満ちた態度とセットで相手を肯定してみせるんですよね。こうしようよ、という"誘惑"ではなくて君はこうするべきなんだという"託宣"。それでいて、まあ中尉自身人の皮とか好きなシュミの人ではありますが、江渡貝くんにアピールするとことか"あえて"よりノッてみせて信用させている。子供の言うことに大げさに感心してみせる大人のように。
尾形はやろうと思えば何でも出来るタブーのなさは強みだけど、虚飾の才能が皆無という感じ。でも「兄弟ってよくわかんないけどこういう感じのことすればいいんでしょう…?」って迫るのはいいアプローチの気がしますね。エロい。これはグッときますよ。もっと他愛なくて責任の関わらないことだったらイチコロでしょうけどね…別に尾形は馴れ合いたいわけではないのは分かっていますが、しかし鶴見中尉は利用するために馴れ合ってみせる男なのであった。
まあでも半分はお試しだったとしても、これでいけるんじゃないかと思ってしまうほどには、今まで尾形の周りにはそう思わせる男ばかりだったんでしょう。その筆頭が父上ってね。ハハハ!

血まみれの弟との地獄のトナカイランデブーが終わってフラフラの尾形。かわいそう。
回想のと同列に語るつもりはありませんがアシリパさんが甲斐甲斐しく看病してくれるため、回想・現在ともに動かないまま女性に触られまくる尾形の回であった。
それにしてもマジで尾形の方がアシリパさんにお世話されているな。猟猫ですわ。リュウと同じポジだよ、どっちも銃があると安心するしね。…と冗談で書いていたら公式ツイッターがこのシーンを「借りてきた山猫」と称してうpしていた。やっぱりねこなんだあ…(笑顔)
されるがままで力なく汗だくになる尾形のエロさがとんでもない。こんな…こんな弱々しい姿を先週から連続した流れで見せてくる尾形…おお尾形よ…
とうとうシャーマンまで登場し、謎の儀式が始まってしまう。高熱の中一人バーニャさせられるし横ではドンドコ太鼓叩かれるしもう大変。尾形のHPがどんどん減っていくう!
ところでシャーマンという言葉は、元々このツングース系民族の呼称が由来だそうですね。
ウイルタ民族を登場させるにあたりシャーマニズム文化を描こうとなり、霊的なものといえば…と勇作さんに白羽の矢が立ったということなんでしょうか。それとも幽作さんが先で、そこにシャーマニズム文化を絡めたのが後なのか。すごい漫画ですわほんと。
幽作さんもシャーマンもマジだと仮定して、ウイルタのシャーマンがいわゆる脱魂エクスタシー型なのか憑依ポゼッション型なのか気になるところです。脱魂型ならトランスした親戚のおじさんが幽作さんと交信するし、憑依型なら親戚のおじさんに幽作さんが降りてくることに。
それともあくまで「神と人間の間を取り次ぐ」と称されているから、亡霊たる幽作さんとではなくあくまで神的存在と交信した結果の「あいつやばいの憑いとる」というお告げだったのか。
外套の中で朦朧として視線を落とす尾形がここ一番のエロさと切なさと儚さ。そしてそんな兄様を近くで見過ぎの幽作さん。呪怨でトシオが布団の中に入ってたシーンを思い出します。あの描写を見て以来、怖い時の布団の中が安息の地では無くなってしまったんですよね(知らんがな)
でもトシオは中身が猫だからあの行動も納得ですけど、幽作さんがガチだとしたらこの近さは一体どういったお気持ちで? 僭越ながら霊体をエンジョイし過ぎでは??
こんなに間近に亡霊を感じながら、何もかも諦めているような衰弱した尾形の表情を見てると泣けてくるな。閉じた世界、尾形に救いはない。つらいのか…つらいのか尾形…

そして回想の続き、勇作さん陥落作戦が失敗した直後…現れていた鶴見中尉。
黙って遊女に腕を抱かれるに任せていたけど、上官が来て「もう結構です」と腕を取り返して乱された襟元も正すこのシーン超ツボる。あんだけ淫らに弟を誘っといて、実際は遊女に対して「なんか触ってくるけど気にしない」みたいなフラットすぎる態度の尾形にゃん。おとなしい猫かなにか???
「中尉殿と大事な話がありますので」敬語ですよ。なんかもう根本的にこういう場所に向いてないんだなという感じです。
これは良い悪いの話ではないんですが、こういった風俗的なサービスの本質的な楽しみ方って"女をモノのように扱うこと"だと思うんですよ。知り合いでもないのに、まるで関係性をある程度築いた相手のように馴れ馴れしく振る舞い、所有物のように恥部を晒し合って欲望を叶えさせる。そういうことが許されるという状況を買っている。時間制の性奴隷契約で、普通は許されることではないことを金で叶える。その相手が美女で上玉であるほど非実現性は高まり価値は増す。
楽しみ方の模範例が啄木と白石の遊郭遊びです。乳房に顔を埋めもっと酒持ってこいブスと笑いながら罵り、備品であろう三味線をご機嫌に弾いて好き勝手に振る舞う。それでも怒られない。そういうことが許される状況を買っているから。繰り返しますがこれは良い悪いの話ではなくて、肉欲とはそういうもので、それを叶えることを許される商売というものが成立しているというだけの話です。双方合意のモラルからの解放であり、働いてる女の人もそういうもんだと理解しているから、啄木を胸に抱いている女性とかめっちゃ“無”の顔。
その点尾形の態度というのは“そういう商売を生業としている女の人”に普通の他人として接している、肉欲云々の欠片もないもので、これじゃハマりようがない。相当お高い遊郭だろうに、女の人も戸惑ってます。啄木と白石が見たら勿体ないと血涙を流しそうな光景。
あんな誘い方するくらいですから、童貞ではないと思うんですよね。軍隊にいれば自ずと機会はあるだろうし、性的なことを嫌悪するほど過敏というイメージはない。肉体感覚は普通にあるし、可もなく不可もなく快楽はあるという感じじゃないでしょうか。そうして深層意識ではこうした行為を、嫌悪というより“汚いもの”とは思っていそう。それでいて自分が汚れることに抵抗を感じるほど自己愛がなさそう。
まあ尾形の詳しい性事情なんかを考えた所で意味はないんですが。ただラッコ鍋により「マグロ」という確固たるイメージがあるのでそれは大事にしていきたい。(何を言ってるんだ)

突然メタな話しますけど、ある漫画家の人が「ゴールデンカムイも変態ばっかで女性読者を想定してなさそうなのに女性にウケてるのはホモか。ホモがいいのか。無理だ。」と酒に酔った勢いでツイートしてちょっと炎上してましたが、金カムが女性にウケてる理由ってのは厳密にはそこではないと思うんですよね。欲という矢印がどこに向いてるかという問題ではなくて、その前段階として矢印を女性に向ける状況をすごい回避してる、というのがこの作品の特徴としてある。
男性について回る女への肉欲というものを直接描写することを避けまくった結果、昇華という過程を経て変態性癖の男どもが集まる図式。
健全な男は一人で足ろうとして、何かを達成した時の昂奮を「勃起」と称するし、他人に向ける変態達も個々の持つ特別な事柄によって“歪まされた”性欲を満たそうとして行動する。辺見とか家永とか江渡貝とか姉畑とかね。どれも対象を若い女、とかに置き換え可能ですが、置き換えれば辺見はリョナだし江渡貝はネクロフィリアだし姉畑は強姦殺人魔になってしまう。家永は若い女も食ってるけど自分がそうなる為のカニバリズムだから男も女も関係ないので、これも“女”を“男”として対象にしているのとは少し違う。
多分サトル先生自身が、女を無条件に“対象”に落とし込んで向ける男性性への疑問みたいなものを持ってる人なんじゃないでしょうか。フェミニストというより、もっと素朴に“倫理”というものについて色々立ち止まって考える人で、その一環として男性の剥き出しの肉欲というものに何かしらの抵抗を持ってる人なんだと思います。
アシリパさんは“そういう目で見ちゃいけない存在”だし、インカラマッを人格の尊重すっ飛ばしてそういう目で見るのは子供のチカパシだけだし、エロい未亡人の女将として初対面から迫られまくる家永は実はジジイだし、お銀は身も心も慶さんのものだし、遊郭のシーンで実際相手になってる女は絶妙に芋っぽく描かれている。徹底してます。
青年漫画だというのに主役の杉元が作中で他人にムラムラした描写はラッコ鍋のせいで野郎ども相手にした一回きりしかない。そして今回初めて単なる“男性”としてエロい女と絡むシーンを担当した尾形は、そのラッコ鍋ですら気絶したイノセント野郎なわけです。逆にエロい。(駄目な発言)
倫理というのは道徳とは違って、正しいか正しくないかを“判断”するのではなくて“問題提起”すること。つまり別に、女性をエロい目で見ないことが良いことなんて言うつもりは全くなく、ただこの作品はそういうのを当たり前のこととして描かない作品で、そこが狙ったんでないにしろ女性にウケてるんだろうという話。
女にも確実に性欲はあるんですが、男性のそれと女性のそれというのは向きが違う。男性は肉への欲なので、その欲を叶えるためいかに不都合な部分を排除するかという方向に働く。逆に女の欲というのは肉そのものではなくて、肉のある状況とかそうなる関係性とかに向く。
その差異っていうのは結局お互いの合意形成のための機構なんでしょう。男から見て性欲の対象になんかなりようもない男が女とデキてるとして、それは女の主観からならその肉体が“男から見た女体のように”見えているためではなく、別のところに欲求を満たす要因があるから。
BLが流行るのも、それが男女の構造をとっぱらい人間関係そのものを抽出したメロドラマだからでしょう。男同士の構造というより、男女の型に嵌った関係からの脱構造にその基点がある。
ただ某漫画の台詞のように「ホモが嫌いな女子なんていません!!」が事実かというと全くそんなことはなく、構造に適応した人から見ればわけわからん世界だし、逆に肉欲の作用である“不都合な部分を排除しようとする”部分に抵抗があるが故の脱構造を欲する人々は、性そのものを嫌悪するので性欲丸出しで男性同士の妄想に勤しむ女性もまた嫌悪の対象となる。
で、金カムは“適応した女”もアシリパさんという少女と杉元との関係とかにときめくし、“腐に走る女”も欲求を昇華したがゆえに充実しているホモソーシャルな関係にときめくし、“拒否する女”も男根至上主義的な構図が極力排除されているがゆえにストレスを感じることなく物語を追えるし、件のツイートの意図である“男性性との不一致によって逃げていく女の顧客”が発生しにくい構造になっている。まあ実際はそんなハッキリ区切られるほど単純な問題ではないんでしょうけども。
欲求やエネルギーを去勢するのではなくてあくまで昇華しているから、青年漫画としての“濃さ”もちゃんとある。万人向けを狙って薄めるということをせずに老若男女取り込む“闇鍋”を実現しているのは、ひとえに作者のセンスの妙だなあと感心してます。
まあでも牛山先生が遊女投げ飛ばしても紳士なとことか、親分と姫の扱いとか、引っかかる所がある人も割といるみたいなので“男”とか“女”を主語に据えた話はデリケート過ぎて私の語っていい領域ではないのかもしれない。
それに例のツイートの人の漫画は、ちゃんと女という存在が“理不尽”にエロい目に遭ったり酷い目に遭ったりするので、それはそれで芸術としてすばらしいと私の中では評判。“嫌がっている女”という人格を無視して都合よく運ぶエロの方がどちらかといえば邪悪だと思うんですよ。その先生の漫画は罪もない女が、女であるという理不尽により様々な要因から恥辱と絶望に塗れるのでうわあ~~~サドだなあ~~~~^^と思いつつ謎の安定感を感じる。
現実の同性愛に至る心理って、二者択一でそっちの方がいいとかそんな単純な問題ではなく、むしろ選ばなかった方を“選べない”という事の方が肝なのかなあと三島由紀夫とか読んでると思ったりしますし。どういう点で「ホモがいいのか」「(俺には)無理だ」と形容したのかは分かりませんが。
肉欲の方向というものに自覚的でありながら真逆の作品を描いているからこそ関心に引っかかってしてしまった失言だったのかと思うと興味深いな…と思います(失言を面白がるモラル)

今話したくだりまるごと削除してもいいような気がしますが、なんでこんな男とか女とか倫理とかの話をしたかというと、それはアシリパさんの物語中の立ち位置ということにも関わってくるかなと。
男でもなく、まだ女の役目に就く手前の少女でもあり、アイヌとしてその文化の中に生きながらも、新しい役目を期待されたアシリパさんはどこまでも境界線上に配置された人物です。
おそらくアシリパさんの選択がこの物語そのものの結論であり、裁定者としての役割を付与されたアシリパさんこそが、ゴールデンカムイの本当の主人公だと思って私は読んでいます。杉元は新八的なそれ。
アシリパさんが信用できるなあ~と思うのは、とにかく冷静なところ。杉元の殺人スイッチがガバガバな部分も、静観しながらちゃんと問いかけ続けている。
ダンさんの所で「じゃあどうするつもりだったんだ? アメリカ人を殺して服も奪うのか?」「あの服はせめて血で穢したくない」と、血を流させることが穢れだと言い切り…偽コタンの虐殺を見た上で、鈴川の死に対する考えと戦場に赴いた兵士の話を聞いて「杉元も干し柿を食べれば、戦争に行く前の杉元に戻れるのかな」「すべてが終わったら…杉元の故郷へ連れていけ。私も干し柿を食べてみたい。いいな? 杉元」と、杉元に“いつか戻らなければならないこと”と“戻れるまで付き合うこと”を告げるアシリパさんの度量。
自分に優しいから好き、なわけではないんだよね。アイヌの己を飼い犬と呼んだ白石に杉元はブチ切れたけど、鈴川を“使おう”と形容し、その結果死んでも「悪人は人の心が欠けてるから痛みも大して感じないはずだから同情しなくていい」と言った杉元は決してすべての差別許さないマンではない。
だから己のことも同情しなくていいという自己否定と、それゆえにいくらでも手を汚せてしまう悪循環で、杉元は地獄行きの一等席から逃れられない。そういう部分をアシリパさんは冷静に見ている。
でも杉元は誰よりも生きたいという本能が強い男。肉体からして。アシリパさんが杉元を最初に好ましく思ったのは、アチャと似ていたからなんだと思います。熊の巣穴に飛び込むような、アチャ以外では聞いたこともない行動を生きるために起こせる勇気。どこか似ている顔の傷。純粋な親しみと、生きて欲しいという気持ちがある。
しかしアシリパさんは、憧れていたアチャのその“勇気”で、皇帝は殺されたのだと知った。すべてのことには理由がある…。
そうして白石の逃走の誘いを断り、金塊の鍵が本当に自分だけに託されたものなのか、アチャの真意はどこにあるのか、知って確かめる必要があると…そして金塊を闇に葬るべきかどうかも、決めなければならないと決意するアシリパさん。
気高いお人ですわ。アチャを失った寂しさに囚われ、探し求め、今その知らなかった部分を知り、本当の意味で“巣立ち”を迎えようとしている。ひとりの人間としてひとつの判断を下そうとしている。これが…成長…
アシリパさんの境遇が“まだ小さな女の子”なのに辛すぎる、重すぎるんじゃないかという感想もわりとよく見かけるんですが、私はザンボット3がアリならこれもアリなんじゃないかと思います。えっ比較対象が重すぎる?
善悪を判断する立場に男も女も無いですしね。それに、大人だからって子供より賢いとは限らないですし。昔の方が明らかに今よりもちゃんとした人間だったなと思うような人間なんてゴロゴロ居ますから…
曇りなき眼で見定め、決める。アシリパさんはアシタカさんなんですよ。

今まで明らかに様子見の笑顔を浮かべて従順に装っていた白石が、今がチャンスだとアシリパさんに逃亡を持ちかけるクレバーさも魅力的です。ほとぼり冷めるまで樺太居よう、でもあいつら怪しいしな~とずっと警戒して旅してたんですね。尾形がエゾシカだっつって馴鹿撃った時のビクッとした白石見ると胸が痛んだんですよ。キロランケと話しててアシリパから一瞬目を離してたし、ビビッたんだろうなと思って。
「尾形がああなってる今しかねえ」…たしかに尾形は2000M俺から逃げ切れるか試してみるか?の男。思いがけず訪れた絶好の好機だったんだなあ。しかしキロランケさんの方が一枚上手だった。
国家と国家の間で翻弄され迫害される民族。白石にとっては他人事でも、アシリパは“こっち側”の筈だと、この正義と無関係ではない筈だと語りかけるキロランケ。
しかしアシリパさんはそもそも人と人が殺し合うことを良い事と思っていない。それを避けるため、今はまだアイヌを殺した犯人と思っている父の思想が納得出来るものかそうでないか知るため、まだ逃げるわけにはいかないアシリパさん。
三つ巴ですね…アシリパさんは“私は”残る、と言っていますから、シライシだけ逃げたければ逃げても構わないというスタンスです。次週白石がどう出るのか。
「俺は博打が好きだ。おまえらに張ってやる」と握手を交わしたあの時から思えば随分遠くまで…。白石とアシリパさんは一番対等という感じがして、好きなコンビです。杉元はどちらかといえば舎弟という感じだからな。尾形は猟猫だしな。

ところで対等な関係といえば、鶴見中尉と尾形の関係について、下記のようなことからただならぬ関係だと感じていたのですが。

なんか今週のを読むと“師弟関係”のようにも見えてきましたね。どう誑かすか話し合う図は、野心の強いキャバ嬢とその諜報能力を利用する大物政治家という雰囲気でもありますけど。
最初から鶴見を疑っていたのではなく、お互い利害が一致して信用し合っていた“蜜月”の時期も二人にはあったのではないかと思わされ大変ドキドキします。
可愛さ余って憎さ百倍で「よ~しよ~し。頭をぶち抜いてよし」というあの憎たらし気な顔だったんでしょうか。この二人が組むと相当凶悪そうなコンビが出来上がりますけども…
回想の話に戻りますが、訪れた鶴見中尉を前に、美しい正座で居住まいを正し敬語で話す尾形にめちゃくちゃグッときます。そういえばこの男上等兵だったわ…こういうキチッとした態度も見せられるのだわ…
「たらしこんでみせましょう」これ悪のボスにエロい女部下が「私めにおまかせを」って言って主人公サイドに刺客として送られるやつだ~!
「正義感が強ければこちらに引き込んで操るのは難しいぞ なにせ…高貴な血統のお生まれだからな」
こ、言葉責めだあ~~~~!!!同じ血統のはずなのに捨てられた尾形にゃんのコンプレックスを煽る高度なテクニックだ。絶対これ焚き付けてるとかじゃなくて愉しんでるでしょ? 言葉責めを? 腹違いの弟に付きまとわれてそれを利用して誘惑しようとする尾形の哀れさを愛でてるでしょ??
“正義感が強ければ”ということは、わりとゲスい目論見まで二人は共有して動いていたということでしょうか。難しいぞ、と笑ってアドバイスしているあたり、勇作さんがこちら側につくかどうかは中尉的には然程重要ではない模様。尾形の方からやっぱ私めにおまかせをって提言したのかな?

でもさ、なんか兄弟のやりとりを見てると、勇作さんの方が精神的に尾形より落ち着いてて強そうだなって思って、思った後に死にたくなった。
鯉登少将が「勇作どん」って呼んでましたが、少将は父上の親友だしきっと生前面識があったんですよね。そうやって小さい頃から花沢家の嫡男として父上ゆかりの立派な人たちと接してさ、期待を受けつつ恵まれた環境で他では出来ないような経験を積んでさ、特別な人間として特別な教育を受け、高貴な家柄で高貴な振る舞いを身に着けていって、今の花沢勇作が出来上がったんですよ。
屈託ない笑顔でさ…きっと周りからの信頼も厚くてさ…使命に誇りを持っててさ…必ず果たしてみせますって父上に毅然と言ったりさ…きっとしてるわけ…
方や尾形はさぞやヒソヒソされたでしょう…土方がお前のことを聞き出したぞ、って相手にキロランケも含まれてたってことは、尾形が第七師団長の妾の子ってことが他の聯隊にも伝わってるほど有名な話だったってことでしょ…上等兵ってさ、兵卒より偉いけど、だからって年功序列の考えが無くなったわけじゃないから古参の兵卒にいじめられたりする事も珍しくなかったんでしょ…そんだけ有名人でさ…でも後ろ盾が無くてさ…絶対色々あったじゃん…師団長の息子だよ…でも苗字も違うし会って話をする素振りなんてないの…なんかあるなってすぐ気づくでしょ…
こういう遊び知ってますよみたいな顔して弟を誘ってさ…でも本心ではちっとも楽しいなんて思ってない…きっと尾形が勇作さんの立場なら断るのなんて余裕なわけ…でも行くのが当然みたいな環境だし、上等兵として部下を連れてったりとかあるんでしょう…世界からして違うわけ…純潔を求められる立場の気持ちなんて想像もつかないわけ…
そんな勇作さんが捨てられた存在である自分に対して付きまとってくる気持ちなんてきっともっと分からないわけ…最初は馬鹿だと思ってたんじゃないかな…兄弟という言葉に浮かれる無神経なお坊ちゃんだと…
でも今回の読んでたら、多分勇作さんは単に兄の存在に浮かれてるだけじゃなくて、普通に百之助兄様が人間として好きなわけ…頬染めちゃってさ…仲良くなりたいなあって思ってたわけ…仕方ないよな…尾形かわいいもんな…
そして今はきっと、尾形もそれを分かってる…寒くないですか、って訊いてくる勇作さんが、本当に自分のことを好いていたことを分かってる…
でも…でも…尾形はどうすればよかったの? この世には変えようもない理不尽ってあるわけじゃん?(むせび泣く)

まさかここで、こういう形で勇作さんが再登場するとはまったく露ほども思ってなかったんですよ。尾形だけが持つ過去の記憶で明かされた、誰とも共有していなかった大きな罪。それが再び物語に深く関わってくる機会が、この極限の中で、このタイミングでということが、胸が締め付けられるように重い。
すべての始まり、稚拙な発想なりに望みを叶えてあげるようにしてその手にかけた母親でもない。尾形の人生で一番大きな存在でありながら常に遠く不在の、焦がれた父親の影でもない。己の頼みにする銃で…尾形が唯一持っているもので屠り続けた無辜の鳥と比較するように描かれた、罪なき弟。
尾形のことをファザコンだとは思ってましたが、勇作さんについてはただただ光として己の陰を浮き彫りにする存在でしかなかったんだと思っていました。妬みからでも憎しみでもなく、父へ向かう儀礼として葬ったのだとしか…
それで、死ぬ間際に目の前に勇作さんの亡霊が現れて、尾形は初めて心の底から素直に「悪かったな」って話しかけるんだお…的な妄想をしていたんですけど…
既に…既になの? ふとした瞬間にいつでも現れ得るほど尾形の中には、あるいは尾形の傍には、いつも彼がいたの? 死んだ瞬間のまま鮮やかに血を流して? それでいて“高潔”と称した彼自身の人格は少しも損なわれることが無いままに?
地獄…地獄じゃないですか…尾形が生きているこの世は糊付けされた地獄の瓶底じゃないですか…

「すべてのことには理由がある」が、今まで尾形の周りに起こってきた全てのこと、自分がしてきたことにすらも「そうならざるを得なかった」と感じているということだとしたら、あまりにも尾形の人生は悲しい…いや、虚しい。
今週のタイトルは“悪兆”。それはシャーマンが告げた「悪いものが憑いている」という兆しのことか。確かにその存在は、その姿は、尾形に絶望しか齎さないもの。
次週の予告が「尾形。」だけで、今回の展開も合わせて、もしかして死んじゃうんじゃないかって思ってウワアアア!!って頭を抱えました。
やめてくれえ!まだ連れてかないでくれえ!尾形にはまだ役目が、やることがきっと何かあるはずなんだあ!待ってくれえ!と夜明けに向かって走り出しそうになりましたが、最近の予告欄が全然予告してないことを思い出しちょっと落ち着きを取り戻しました。
とにかく今は肉体的な苦しみからだけでも解放されてほし…えっ死ねば楽になる?うるせえ!!そういうんじゃねえんだ!!そういうんじゃねえんだよお!!桃缶とポカリ買ってくるからよお!!元気を出すんだ!!行こうオガタ…えっ?ちげえよ逝こうじゃねえよお!!!(情緒不安定)