8番倉庫

長文置き場

金カム14巻の感想

14巻、すばらしい完成度ですね…特に追加された2Pが最ッッッ高です。700人解き放った甲斐があるというもの…まさしく鶴見中尉の言っていた「阿鼻叫喚の地獄」。
そんな中尉の表情、「みんながあなたを巡って殺し合いになる!!」のところに変更が。本誌だと真っ赤に染まってギンギンにエンジョイしてましたが、尋ね人の行方を捜すようにギラギラ辺りを見回すシリアスな顔に。
作画が荒れていた部分のみならず、表情のニュアンスを演出意図に沿うようにわざわざ描き直すこのこだわり…言葉ひとつに拘る詩人のような完成への探求を、絵で遂行するというのは大変な労力だと思いますが…脱帽だ…

しかしつくづく尾形の見開き2Pはインパクトありますね。見るの初めてじゃないのに開いた時思わず深呼吸したもんね。
い、いきなり空気の違うところに出た…!?みたいな(そして空気中の毒で死ぬ)
憚りながら“美しい”としか形容できない…宇宙あるいは深海のような無だ…尾形の外套が「しにがみのマント」とかステータス上に表示される装備品に見えてきた…
そしてこの場面の尾形に台詞が追加!!すごい!答え合わせみたい!!一体尾形はこの時何を…

「もう少し左か?」
れ、冷静~~~~~~~~~~~~
マタギ野郎が邪魔をするな」
れれれ、冷静~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

すごい!!!!動かないこころ!!!!!!
ゴホゴホしながらの三島かな?を彷彿とさせる、もうなんていうかただの現象としての世界認識と存在!!!やばいよコイツ!!!!!!(知ってた)
「もしかしたら生きてるかもな」のにんまり顔で、本誌の時点でも「なんとしても殺しておきたい」と思っての狙撃ではなかったんだろうなとは思ってましたが、それにしてもキロランケに説明した理由だけではない何か他の理由もあったんじゃあ?という疑問があった…んですけど、ないのかも。
“ここであえて杉元を撃つ理由”があるのかどうかじゃなくて、“ここであえて杉元を撃たない理由”があるのかどうかという視点で考えなければならないのかもしれない。その上で、尾形から出た結果は“無”…
気付いたんですけど、尾形に対して「仲間になり一緒に旅をして共に戦った杉元を撃つとはなんてことするんだ」と思う読者の感情は「よくも前山を…ッよくも戦友を殺せたものだな尾形よ!!」という月島軍曹の怒りと同じ内容なんですよね。
それに対する尾形のアンサーは「仲間だの戦友だの…くさい台詞で若者を乗せるのがお上手ですね鶴見中尉殿」冷たあああああい!!!!!!
鶴見中尉今関係ないですけど。ただ鶴見中尉は実際第七師団の皆を謀ってますのでこの台詞はごもっともでした。同じように、欺瞞のある関係を指摘した台詞といえばこの網走監獄に突入する直前の会話。
盗み聞きする尾形に「お前のことを聞き出したぞ」と疑惑をぶつける土方へ、鼻で笑いながら「テメエらだってお互いに信頼があるとでも言うのかよ」と言い返した通り、直後に杉元は「監房にいるのっぺら坊の目は本当に青いのか?」と土方の話に対する疑念を口にし、実際土方は門倉とグルになって杉元達を騙していて、更にキロランケが裏切る腹積もりであることも尾形は既に知っていて、インカラマッも第七師団と内通して裏切っていたし、杉元も結局はアシリパさん以外の誰のことも端から信じ切ってなんていなかった。あんたらよくその顔ぶれで手が組めてるな(ブーメラン飛来)
裏切ってないのは白石と…いや白石もまだ言い切れないとこはありますけど…白石脱走騒動のシメである「白石は俺たちを裏切ってなかった」が白石の裏切りフラグを折った瞬間と仮定して…あとは谷垣だけですね。
マタギ野郎が邪魔をするな」って、完全に尾形の谷垣に対する扱いが「ただ居るマタギの男」でしかなくて笑った。うん…まあただ居るマタギの男だけど…
「女は恐ろしい…」が変更されて「女というのは恐ろしい…」になってましたね。本誌の台詞だと二瓶の言葉を思い出した谷垣のモノローグっぽく見えて、背後の二瓶の絵が頬膨らませて「だから言ったのに」的な顔に見えてちょっと面白かったんですが、変更によってあっ完全に真面目な回想だったんだなって。
谷垣はこの陰謀渦巻く金塊争奪戦の中に居るには朴訥すぎるんじゃないかな…ゲンジロちゃん化もやむなしですわ…一応鶴見中尉を裏切るつもりは一切ない、と思うほどには「鶴見中尉の背負っているものとは比べ物にならん」って金塊目指す中尉の言葉に同意していたのに、今はインカラマッの「アイヌの金塊を守りたいだけです」という言葉の方を信じる&優先する気持ちが上回っての「女というのは恐ろしい…」ですからね。しかしフチに癒され、オソマに絆され、インカラマッに惚れ、アシリパを追う谷垣は完全に精神的支柱を女の間に据えるヒモなのであった。秋田に帰れ谷垣一等卒。ダメですゲンジロちゃんは必要です(情緒不安定)
尾形…162話の感想ではもしかしたら深く考えてない気がして心配だなんて書きましたが、逆に今はやっぱり何もかも誰よりも知ってる男のような気もしてきて頭を抱える。百之助ちゃんと呼びたい気もすれば尾形さんと呼ばせて頂きたい気もする…頭がクラクラする…
相変わらず「愚かな父の面目を保ってくれた」のくだりも気になりますし。こないだの記事で書いたように勇作どん殺した動機そのものに関わってたとしてもアレだし、そうでなかったとしてもその手紙がもし本当に父上が書いたものなら、勇作どんの死の真相を知るまで父上が勇作どんの戦死に対しそういう風に感じていたことを尾形は知っているのか…知ってたらどういう反応を示すのか、とか考えたらもう…ザワザワするう…たすけてえ…
鳥の飛び交う中、アシリパを振り返り前へと誘う静かな顔も左右対称に修正されてより“無”に…こんなにも尾形の心は静止しているのに朝日はその輪郭を柔らかく照らし我々に生きている肉体の存在を浮かび上がらせる…(血文字ポエム)
この面子でこの状況で船に揺られながら夜を越したのかな?エモい…。傷付いて眠るアシリパ…焦燥に昏い水面を見つめる白石…所縁の地を見据えて沈黙するキロランケ…そして尾形は…尾形…起きているのか…眠っているのか…ウウッわからない…けど常に孤高なのは確かなんだ…
というわけで網走監獄内戦争、牛山さんのどっこいしょ、土方vs犬童と杉元vs二階堂の因縁デスマッチ、闇よりの使者といった風格の尾形…とハードな巻でした。カッコイイ場面がてんこもり。尾形に持ってかれてまた尾形の話ばっかりしてしまいましたが、この巻の鶴見中尉の輝きっぷりはすごい。楽しそうだなあ~~~