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長文置き場

金カム243話「上等兵たち」感想

突然待ちに待った展開を20pにこれでもかと詰め込まれて頭が壊れました。

・想像より10倍仲良さげな上等兵たち

本人同士はお互いを「宇佐美」「百之助」って呼び合ってたのかな?カワイイカワイイ!!
同じ上等兵同士、他には言わないことを言い合える、けっこう気の置けない間柄だった模様。
特に尾形は珍しく宇佐美相手には素直に第三者的な意見を乞い、一応“正しさ”について他人の意見も参考にしていたことが判明。
しかし完全に相談相手を間違えている。宇佐美で常識を測るなよ。まあそもそも類が同じ人間だからこそ相談できるほど近くなれたんでしょうけど…。宇佐美は元から“そう”だからね。二人の世界においては問題なくコモンセンスが形成されてしまっていたんですね。
孤独のなか理屈だけで辿り着いた倫理観、他者から保証されてないがゆえに脆いそれを、力強く保証する宇佐美の存在が尾形のそばに居たことは幸福なのか不幸なのか。
ただ宇佐美が尾形の問いをナチュラルに肯定できる人格であることは確かですが、宇佐美にとってはそんな理屈すらどうでもよく、考えるにすら値せず、にこやかに尾形の問いを肯定したのは全て「新しい鶴見中尉のお気に入りが増えそうで邪魔」だから規定通り尾形に殺させたいというその一念のみでしょうね。返事の全てから「殺せ殺せ殺せ」という宇佐美の念が見えるようだ。
そしてそんなどうでもいいことに囚われてずっと悩んでる尾形を宇佐美は心底バカにしているし、こんな奴全然大したことないやっぱり鶴見中尉にふさわしいのは俺だと優越感感じて見下げているし、しかしズリネタに出来るぐらいには愛憎を抱いている。
実際何言っても素直に自分の言ったことを聞くし、かといって従順というわけでもない尾形って、宇佐美にとって(見下すこと前提で)結構カワイイ存在だったのでは。生意気な雛鳥のようで。

・甘えん坊のハナタレ小僧

勇作は確かに無神経で、でも尾形はそれを態度に出して嫌がれるほど自分が明確じゃなくて、それでもあいまいな感情でも思うところは色々あって、そういう思いを一気に噴出させるスイッチを勇作が押してしまった、そして思いを遂げたのだけど、でも夢に見て名を呼び魘されるほど、その影に囚われている…そういう未確定な剥き出しの心の動揺、言葉にならないけど確かにそこにある強くて繊細な感情を、164・165話で発現したあの一人だけの地獄を、客観的に把握している第三者がいる…
そして唯一のその第三者が、己の唆した行為の結果でそんな風に尾形が苦しんでることを「カワイイ」と嘲笑混じりに形容して悦ってフィニッシュしてしまうこの現実。ヤバすぎて真顔で正座してしまう。百之助の情緒がめちゃめちゃになる様を思いっきり性的に愛でてるじゃないですか…児ポですよそんなの…(?)
尾形という男の核はやっぱりあの小さいころの百之助ちゃんのままで、坊主姿だとそれが更に顕著なんですが、そういう「大人しいから分かんないだけで実は子供そのもの」っていう尾形の本質を自明なこととして理解しているほど近付いた存在がいたという事実に衝撃を受けました。
子供といっても私の解釈ではそれは状態のことを指しているんであって性質を指しているのではないというようなことを以前グダグダ捏ねてましたが↓

子供の時点で自発的に状況を改善しようと毎日鴨を獲ってきたり、求めるよりは与える方を行動的に選ぶ大人びた子でした。常に「鳥があれば母親は」「葬式ならば父上は、そしたら母親も」と、行動における目的語が自分ではない。そういうエゴの育ちきらない幼い時分で犯してしまった取り返しのつかない過ちにより、バグってフリーズしたままの百之助ちゃんの心。

だから尾形は満たされなかった己の内なる子供の気持ちを充足させることが目的で動いているというわけでもないし、そうした願望も持っていないと思う。持てる段階にないというか。
勇作を殺して父上に愛されるかどうかというあの問いも、要するに“目的”ではなくて“手段”だったという事なんですよね。両親から愛されること=生誕を祝福されること、という条件が満たされているか欠けているかで、人間の性質は決定づけられるものなのかどうかという事を確かめるための。

そもそも勇作殿との問答前は、「人間なんて生まれ関係なく皆同じで、一皮むけば俺と同じようなもん」と思っていた。
実際は環境さえ許せば一番善良に生きられそうな男だと思うんですが(欲深くないから)、だからこそ環境そのものに価値はないと思いたかった、というより思わなければ立ち行かなかったのでしょう。でなければ犯した罪に対する心の行き場が無いから…。
だから好青年代表みたいな勇作にウッソやろお前と反感を持っていたし、遊郭で化けの皮剥がそうとしたのに勇作に脱童貞を拒否られて鶴見に「高貴なお生まれだから」とか煽られたのもモヤッてたし、流石に戦場出たら皆と同じく野蛮に殺し合うだろと思ってそれとなく注目して待ってたのに勇作殿だけ周りの旗手と違って抜刀すらしないし。
証明したくて痺れを切らし手を汚すことを乞うたら、汚さないばかりかあなたはそんな人ではないし尾形の言うような人間は存在してはいけないとまで言い切られ、それを拒絶ではなく涙と抱擁と憐れみによって完全に清い上位存在として宣われる始末。完全にブチ切れた母殺し済みの罪深い尾形はもはや鶴見の命令関係なく勇作を殺すことに。
しかし尾形は感情を理由にできない可哀想な子なので、殺す理由として採ったプランBが「勇作が俺と完全に違う清い人間であることは分かった、誰もそれを覆すことは出来ない、しかしそれを決定付けたのが親の愛情の有無だと言うのなら、親の愛情が可変ならば勇作の清廉潔白さもまた可変であったということになるのでは」という前提条件への介入を試みることだったんですねえ。(もっとエモい言い方出来ないの?)
でもそんな理屈は言い訳で、本当はただただ勇作の言葉でめちゃくちゃ傷ついてどうしようもなくなっちゃっただけなんでしょう。
どうしても生まれのせいにしようとしてしまうのは、生まれのせいでずうっと差別されてきたからなんでしょうね。
あんこう鍋で父上に語り掛ける沈静で飾らない様子からも、こんなやり方で代わりに父上に愛される筈なんかないことは尾形自身も百も承知だったんだろうことが哀しい。だからあのやりとりはもう“試している”んですらなくて、ただただ“確認”なんですよね。どうしようもないことの。
己が愛されるかどうかではなく、己は愛されないこと、そして己がこうなってしまったことは必然であって変えようがないということの確認。そして父上と話すことでそこについては納得出来たんだけど、でも尾形の心には己と違う清い存在のままで永遠に時を止めた勇作殿が永久に残ってしまった。

言っていることから考えるに宇佐美は、死んだ勇作を尾形が夢に見るほど忘れられないのは「(花沢閣下を巡って)永遠に勝てないライバルになってしまったから悔しい」のだと推察しているっぽい。
「勇作を殺したのに親父は愛してくれなくて」と、勇作を父上に愛してもらうための駒にしようとしたのに、それに失敗したという構図ですね。
でも尾形の夢に滲むのはただただ後悔と罪悪感です。その関係性に父親の存在の介入は最早ない。
二人きりの世界、夢に見る勇作殿はいつも笑顔でやさしい、記憶の中の勇作殿のままで…恨み言など何一つ言うこともなく…。
勇作殿を一番美化しているのは尾形だったというね。第三者から見るとマジでめちゃくちゃ付きまとわれてるしめちゃくちゃ顔が近いじゃん。嫌なら嫌って言いな?
殺しちゃう前に「自分は花沢勇作を嫌いじゃない」って、どうやったら気付けたのかな。やっぱ親の愛情かな…。(またそうやって救いのない話をする)

・脱走したきっかけお前だったんかい

病院着のまま手近にあったもので傍にいる人間を殴り倒し逃走するのが得意なオガタにゃん。猫は大体病院がキライですよね。
殺意満々で軍刀振り下ろしてきてる宇佐美に汗一つかかず無言で殴りぬける(おまるで)尾形のこの、動揺ひとつない、いたいけな表情…!
多分小っちゃい百之助ちゃんも危ない目に遭ったりしたらこれと同じ表情で躊躇なく殴ってきそう、すごい尖った石とかで。
初登場即退場のまだキャラデザが定まっていなかった登場シーンから療養期間を挟んで、脱走しました報告→コタン出没からようやく尾形が本格的に本筋に絡むようになるわけですが、あの「谷垣一等卒…」とコタンに現れた時点で尾形は既に勇作殿の夢に魘されていたのだと考えるとクるものがありますね。マジでこれなんですよね↓

宇佐美は尾形の行動動機をすべて“自分を”愛してほしいがためのものだと分析し、己の齎した満鉄の情報が尾形の鶴見への気持ちを心変わりさせた原因だと思っていますが、その前から既に尾形は鶴見の甘やかしを「たらしめが…」と内心で拒絶しているんですよね。
密会を傍で見ていて口を出せずキーッとなってるコマでちゃんと尾形が「たらしめが」の時の薄笑いを浮かべているので、この宇佐美が指摘した動機と実際の反応との不一致は故意だと思います。

尾形が宇佐美の言う通り甘ったれの、例えば癇癪を起こして蟻を踏み潰すように友人の喉を踏み潰しても全て許して秘密にしてくれるような甘やかし方をしてくれる存在を求めている人間だとして、その相手は鶴見以外いないだろうし、実際鶴見はその受け皿になる気満々で尾形に甘い嘘を言った。宇佐美はそれが羨ましく、(自分がそれを求めているように)尾形もそれを求めていて、今盾突いているのも水を差した己の情報に拗ねているだけの甘えの延長だとみなしている。
でも尾形が求めているのは、今も昔も自分のためになるものではない。自分がためになること…。その辺が尾形の一筋縄ではいかないところ。
オガタにゃんって複雑だなあ…。

・御者の正体と満鉄情報の出処お前だったんかい

あんな超極秘の場に居合わせている御者は何者なんだろう?月島?でも月島は自刃関係に関しては事実だけ聞いて自己解釈してるって感じの雰囲気だったしな…という諸々の疑問の答え合わせが!!
何やら異様にいやらしかった鶴見と尾形の馬車内密談シーンですが、一番見てはいけない人間がその現場を見てしまっていたのですね。
こないだギャグでシライシが排水溝の中からハァイジョージィするITネタやってましたが、今回暗がりの中から顔を覗かせるよく似た宇佐美のシーン見て、宇佐美の顔ってもしかしてピエロがモチーフなのかなって思いました。
キャラ的な位置づけ、そしてこの神出鬼没さ。鶴見から勇作暗殺中止命令が出てからあの問答に至るまでの尾形、師団が動き出す発端である鶴見との自刃工作後の尾形、鶴見の元から脱走した時の尾形。尾形自身は何も語らないがゆえに欠けていたすべてのキーポイントに第三者として存在し、新たな視点を齎すことで物語のミッシングリンクを解消する存在。
正直どれもこれも藪の中のまま終わると思っていたのでビビりました。トモハルくんへの所業にドン引きしていたけど事こうなっては宇佐美という存在を神に感謝するほかない。
尾形のことをこの世で一番知ってるのは鶴見だと思っていたけどフツーに宇佐美なのでは? この一話で開示された事実だけで宇佐美が尾形のことを知り過ぎてて尾形を取り巻く人間関係ヒエラルキー地殻変動がえらいことになってる。
尾形を殺す相手として有力株のトップに躍り出れるほど尾形を知り尾形に影響を与え尾形に近い人間じゃん。(同時に尾形が殺す相手の有力株トップにも躍り出たが)
現在エントリーしているのはただならぬ関係ということだけは当初からずっとムンムンしている鶴見、知っている情報はそこまででなくともお互いに「お前を感じた」と言い合うテレパシー相手の杉元、お前のために全て捨ててきたロシア産の運命の男ヴァシリ…ここにド変態宇佐美が加わるわけですか…他にもいたっけ?

しかしどうなんだろう、元々そこまで宇佐美が言うほど鶴見中尉に懐いてなかったとしても、具体的な造反への行動を起こさせた契機はやはり宇佐美が齎した満鉄の情報だったのだろうか?
だとしたらそれを尾形に漏らした宇佐美はお叱りどころでは済まないのでは。まあ鶴見は尾形が満鉄のことを知っているということを現状は知らないんでしょうけど。でも造反の理由を推測はしているだろうから、可能性のひとつとして考えてはいるかな?情報を漏らした人間が居るとしたら誰かって…
茨戸の時に遠い目をして、逃げちゃった尾形のことを惜しそうに評価する鶴見の横顔が思い出されます。
叱られるの大好きな宇佐美もさすがに尾形にバラしてしまったことは報告してないんじゃないかと思うんですが。それが露見した時がもしかしたら宇佐美のピンチかもしれませんね。どちらがより鶴見にとって特別な存在かがハッキリしてしまう。
しかし自分たちは駒に過ぎないと知りながらそこに甘んじることを選択した約二名のことを考えると、自分だけは駒じゃないと信じる宇佐美は向上心があっていいですね。自分が愛するからにはそれと見合うだけの愛が相手にも欲しいのね。
たらしめが=お前の駒なんて真っ平だと尾形は逃げ出したわけですが、俺は駒じゃないと言い張る宇佐美が駒だと思い知らされてしまうようなことがあったら宇佐美はどうするんでしょうか。何かお考えがあるんだ前向きに信じようなんて健康的な反応にはならないと思うんですが。宇佐美は鶴見の目的や能力ではなく、己への鶴見の扱いに価値を見出していますからね。
トモハルくんのことは宇佐美の方では別に全然好きそうじゃなかったけど、キレさせたのが好きな相手だった場合の宇佐美の行動って予想つかないな。やっぱ殺そうとしちゃうのかな?

それにしても鶴見中尉、オガタにゃんのことめっちゃお触りしてる…。膝を撫で回す仕草だけでもいやらしかったですが胸とかめっちゃ触ってるじゃないですか!!何ですかその怪しい効果線は!?
元々死んだ男の腹を執拗にナデナデしたり、刺青人皮に頬擦りしてうっとりしたり、江渡貝くぅんの人皮手袋気に入ったり、とにかく人肌の感触がやけに好きそうな印象はありますが。この分だと尾形めっちゃ触られてそう。どこまで触られたんだろう。
でも自分から鶴見が触りに行く肌って思い返せば死体の肌ばっかりだな。尾形は特別なの?青白いから?死体の分類なの?それとも心が死んでいるから?
何にせよ撫でられている尾形は常に無表情!!全然嬉しくなさそう!!でも不快ですらなさそう!!無!! あっそう考えると勇作殿をものすごい傾いてまで避けていたのは、勇作殿が特別だったことの裏返しなのでは…?もうやだつらい。

「…いや 最後にいろいろ話したかったから」
もうこの台詞につきますよ。この台詞が聞けただけで今回の話は神回です。本当にありがとうございました。
多分父上とちゃんと話せたの、この時が最初で最後だったんだろうな。もうこの言葉のまま、それ以上でもそれ以下でもないんだよ多分。月島の言ったように殺せて満足とか、宇佐美の言ったように今後鶴見に寵愛されるためとか、そういうんじゃないの。最後にいろいろ話したかったの父上と。それだけなんだよ…。

・山猫は語らない

鳥が撃てなくなっちゃったよお~~やっぱり利き目を失っちゃ終わりなんだよお~~~もう尾形の神業スナイプ技術は戻ってこないんだあ~~~ヴァシリが再戦を望んでももうあの時の神の如き狙撃手の腕は失われてしまったんだあ~~ガッカリさせちゃうよお~~~…そんなふうに考えていた時期が俺にもありました
えっ…この不屈の精神を高潔と呼ばずしてなんと呼ぶの…? 己の放った銃弾が何を変える事もなく飛んでいく鳥を見送ったあの失意から毎日練習して練習して練習して再び鴨を捕まえてくるまでに戻してきたこの努力を…!?
表情は変わらないけどやってやったぜと鼻息でドヤる尾形のいじらしさ!!えらいわ~!!百之助ちゃんえらいわ~!!今夜は鴨鍋だわ~!!
樺太から帰ってきて「俺もこのざまだ」と本人はあっさり片付けたけど、白鳥とかしか獲ってこないこととか毎日練習に出かけてることとかでやっぱ皆気付くよね。射撃の腕が落ちたんだと。
そこについて土方あたりはズバッと話題に出しそうかな。皆の前で聞いたのか二人きりの時聞いたのかは知りませんが。いや牛山の反応からして二人の時に話したっぽい。トシさんはそういう気遣いは出来る男だと思う(は?)
「では狙撃兵は完全復活したわけか」
やっと、の裏に隠れた執念と努力を語らずに、戦力を取り戻してきたことだけを端的に述べる尾形へ、土方もそれを理解した粋な問いかけ。
それを「いいや…」と否定し、銃を構え不敵な笑みを浮かべながら一言。
「狙撃兵は『人間を撃ってこそ』だ」
カッコイイ~~~~~!!!!
善や悪、清さや穢れ、祝福と呪い、そうした葛藤や苦悩に翻弄されて後の、やはり俺にはこの道しかないと覚悟して、そこを一人で歩き切る唯一の相棒を自らの努力で取り戻した今、この結論を改めて口にする気高さ…孤高~!!
この何もかもを吹っ切ったような軽やかな笑顔の尊さ…!!
毎日めちゃくちゃ努力しまくってたの知ってる中でこんな小気味いい発言されたらたまりませんね、私が土方なら撫で回してるよ。
さて狙撃兵は札幌にて完全復活を果たすのか。狙う数より狙われてる数の方が多そうだから気を付けてね!!