8番倉庫

長文置き場

金カム203話「似顔絵」感想

「どうやら杉元が行ったようだぞ」
何だかんだ旧くからの付き合いの尾形が、今度こそ死んだかもしれん…という事態にあって、月島の内心は相変わらず読めない。一ミリ程度の感慨はあるんだろうか?
そして尾形(?)に杉元が接触したらしいと分かった途端、「杉元…!!」と走り出すアシリパ。その脳裏に浮かんでいた光景とは何だったのか。

尾形部

めっちゃ描いてる…
前回の精巧に描きすぎてる似顔絵は、100歩譲って探すためには正面顔の方が分かりやすいし、双眼鏡で見た姿じゃなくてあの外套ルックだったのも最後に見た姿が目に焼き付いたからなのかなって納得出来なくはなかったけど…。
双眼鏡から見た時のモフモフ帽子被った姿も当然のように描いてあった…不敵な微笑みつきで…でもやっぱり外套ルックがお気に入りなのか、見てないはずのアングルやポーズをあらゆる構図で…横顔…カメラ目線…銃を構えた姿…
夢中か?
国境警備の一環で通る人間の顔覚えなきゃいけなくて、必要に応じて記憶を頼りに似顔絵を描くスキルもあって、それで絵がめちゃくちゃ上手とかなんだろうか。
持てる絵心を全て注いで描かれた、渾身の尾形コレクション。すごい…ぜんぶ想像じゃん…どうしてこんなに何枚もイマジネーションをフル動員してカッコよく描く必要があったの…うっとりする用でしかないじゃん…他の三人の絵と作画の気合の入り具合がまるで違うじゃん…

しかし何枚も同じ男の様々な似姿を持ち歩くこの異様な執着も、もっと異様な執着を同じ男に抱いている杉元には当然のごとく受け入れられる。
尾形からの刺客か!?という当ても外れた杉元は、ヴァシリの動機を理解すると何だよお前も尾形殺したいの〜?とすっかり警戒がとけてしまった様子。
「悪いのはこいつだッ(ドンッ)」「(ドンッ)」「そうだいいぞ」
何の訓練なの?尾形部???

尾形とは、という説明に熱が入った杉元も筆をとるが、その凄まじい画伯っぷりにしょうこお姉さんの絵を目撃した時の我々と同じ顔で「え?蜘蛛?」と理解を試みるヴァシリ。
そのままヘッタクソな"悪役"の絵を描きながら、相手に伝わらないのもお構いなしにこれまでの経緯を語って聞かせる杉元。まるで子供のような拙い口調、拙い絵、拙い話。
ここの子供っぽさが何だかすごく見てて悲しくなった。アシリパの悲しみはその比じゃないんだろうけど…
アシリパは多分、杉元が尾形を殺している図を想像しながら急いで走ってここまで来たんだろうな。それに対してどうすべきなのか、どういう感情を抱けばいいのか分からないまま、ただ焦って。

そのままオタク中学生の放課後みたいな感じで二人寝っ転がり尾形似顔絵大会を開催している所を他の先遣隊に発見される。すげえくつろいでる…
やっぱりどう見ても「お前も尾形…好きなの?」とかそういう盛り上がり方だよな。殺意だけど。
到着した月島によってようやくヴァシリにまともな状況説明がなされるが、その手に持ってるのが一番キメキメで描かれてる尾形の似顔絵でじわじわくる。
ヴァシリん単純に尾形の見た目を好きすぎるでしょ…彼のためにもリニューアル眼帯尾形がカッコいいビジュアルでありますように☆
「なんか言うことねえのかよ!! ロシア語に謝罪の言葉は無いのかねぇ」
この白石のキレ方がすごい親近感覚えるキレ方でツボった(どういうこと?)しかし無言でマスクの下を見せ一発で黙らせるヴァシリ。ヘルシングのハインケルみたくなってるのかな…
ていうかヴァシリって肉声で喋ったこと一回も無くない? 私心はおしゃべりだわ? 尾形はモノローグの四角い吹き出しを使った事すら無いというのに(一人になるとむしろ喋る男)
早くロシアに帰れバカアホと置いていかれるが、馬を盗んで無言でついてくる。なかまになりたそうにこっちをみている!
犬みたいだな…「あの犬まだついてきてるよ」とかそういうアレじゃん…
「皇帝殺しの仲間だってまだ疑ってんのかな?」
「いやあいつもうキロランケニシパに興味がない。あの似顔絵…手配書の裏に描かれていた」
オイッ!!!!! 愛国心なんて端からヴァシリんには無かったんだ。でもそれにしたって落書き帳にするなよ。
「どちらかが死ぬまでやり合うつもりなんだろ? 『死んでないなら負けてない』って」
尾形を求めるヴァシリの動機についてさらっと語る杉元。それお前のことだろッ!

杉元の尾形への執着が異様に強まった理由は、最終結果が負け越しているから、というのが一番大きいのかなって思うんですよね。杉元は二階堂の仕込み散弾すら咄嗟に回避してみせた男。そういう動物的直観も総動員して、結果として“不死身であること、死んでいないこと”が杉元の強さの何よりの証明であり、最強の証だった。
しかし幸運な治療なしには死んでいたギリギリの状況、おそらくこれまでの人生で最も死に近い所まで尾形の手によって追い込まれた。あの暗闇、あの距離で尾形が杉元を狙撃出来たのは完全に実力によるもの。あの時確かに戦闘能力で杉元は尾形に敗北を喫した。
強さだけで不死身と呼ばれ、「俺は死に損なっただけだ」と言いながらここまで生き延びてきた杉元にとって、自分を一度死の淵に追いやった人間をそのままにしておくことは最早アイデンティティに関わる問題…。誰よりも強かったから誰よりも生きている、そのシンプルな公式を揺るがす存在を倒さなければならない。最強であることだけが物理的な生存の大義名分であるのだから。
しかし無数の敵を殺して生き延びたことを杉元は負い目に感じてもいる。そのアンビバレンツを解消するためにも「悪いのはこいつだッ(ドンッ)」と、尾形という存在からのハッキリした善性の剥奪が、手続きとして必要になる…

だが尾形が死にそうな時に「動機が金塊目当てであって欲しい、気兼ねなく殺せる」と言っていた杉元は、今この時、改めて真正面から尾形の動機に対する杉元なりの予想を立てる。
「引っ掻き回して遊んでるだけかもしれねえな」
ね…猫ちゃん…(画面に気を取られる)わりとやっぱ、憎めないイメージなんだなっていう印象の発言。
もう考えることすら放棄して、金塊目当てならありがたいとかいう投げやりな保留に止まるのではなく、曲がりなりにも尾形のことを考えて善悪に関わらない理由を想像した。つまりあの時のように一方的な“始末”をつけるために、相手を殺しても構わないケチな悪党だと無理に思い込む必要がなくなった。
杉元は、もう尾形と心中するつもりでいるのかなあってちょっと思いました。結果どちらが死ぬかは分からないけど、とにかく杉元は尾形を待っている。殺し合うために。
「私は死ねなかったぞ、あの時の続きをしよう」は杉元の言葉でもあるのかもしれない。あの時撃たれたあと意識を失う杉元の顔が、眠るように安らかだったのが印象的でした。
相手を殺したいと願いながら、心のどこかで自分の死も待っている。そして相手以外に、それを運んでくる者は居ないとも思っている…。
尾形部の闇は深い。

この世の光

アシリパさんの毒矢が尾形の目を射ったんだ アシリパさんは射る気はなかったと思うよ 俺は目をえぐって助けた あの子を尾形の死で汚したくないから…」
アシリパさんが見ている世界に俺もいると思うと なにか綺麗なものになった気がして 救われる」
…………。
そしてアシリパのこの表情である。
昨日18巻が発売されたじゃないですか。読みました? 読んでて加筆の部分で一番印象的だったのが、目の描写なんですよ。まだ神の祝福を信じていた綺麗な関谷だった時のキラキラした目。そのあと空を見上げる真っ黒な目。より闇が濃くなったような、写真館をあとにする長谷川の目。
思えば杉元はずっとアシリパの目を綺麗だと言っていました。六巻で家永に食われそうになった時は「アシリパさんの綺麗な目にかじり付く気だったのか?」とブチ切れ、切腹を覚悟してまでサーカスに臨んだ事は「いまこの瞬間にアシリパさんの綺麗な青い目に 俺が生きてる証拠が映っていますように…」という願いのためだけにすべてチャラになった。
そしてアシリパの光に溢れた青い目の対極のような、子供の頃からずっと変わらぬ、尾形の闇のような漆黒の目。それは前者の綺麗さを守るために抉られた。

樺太を旅するあいだ杉元が思い返す記憶の中のアシリパの目がはっきりと映らなかったのは、目の前で実際見つめられていないから、今の自分がその目に映れる自分であるのか独りだけでは確信が持てなかったんだなと。
何故アシリパの目に映っているということが杉元をこれほどまでに救うのか。それは梅ちゃんが戦争から帰ってきた杉元を目に映してくれなかったから。自分がかつての自分だと、わかってもらえなかったから。変わり果てた自分…罪に穢れた自分…あの再会が杉元のトラウマになった。しかしアシリパさん、人を殺さず正しい、綺麗なアシリパさんの目が俺を真っ直ぐに映している限りは、俺はまだ…。
重い。
“この人に存在を許されている俺は許される存在”。救済のトートロジー。自己存在の規定に他者の在りようを不可分条件に加えてしまう構図を俗に依存と呼ぶ。

この目の話で思い出されるのは、意識を失っている尾形を背景に、昔話の教訓として言ったアシリパの言葉。「悪いことをするやつは…自分を見られるのが怖い」
そして勇作が齎された、花沢幸次郎の言葉。「敵を殺さないことでお前は“偶像”となり勇気を与える」
尾形は勇作の目が思い出せない。幽霊も目元が見えない。見られるのが怖い…悪いことをしたから。
でも、杉元はアシリパに見つめられているとむしろ生きる勇気が湧く。綺麗なものになった気がして救われるから。悪いことをしていたとしても。
どうやったら偶像は手に入るのか? それは人を選り分けること。差別化して、きれいなものと、きたないものを作る。どちらかが規定されればもう片方も決まる。悪人は汚い。善人は綺麗。でも、きれいな善人が、或るきたない悪人の存在を認めてくれるならば、許してくれるならば、その穢れは最早穢れではなく…。

この罪悪階級差別については『旗手』以来キレ散らかしてきた歴史があるので、今あるのはとうとう明確に言葉にされたか…という感慨のみなんですが、杉元の正直な吐露によって杉元と姉畑の思考の類似性が浮上してて笑った。さすが杉元が最後には「先生」と呼んだだけあってシトン先生は偉大だった。
確かに自分の醜さを別の存在で浄化する、という構図が似ている…そうなると、尾形に執着し悪の象徴として斃そうとする心理はシトン先生の滅多刺し行為に該当するのかな。
アシリパさんに救われる、綺麗なものになった気がする→しかし本当はいけないことだと分かっているので、救われたいなんて全然思ってない!と絶対に殺す予定を尾形に立てて、自分の救われたい欲望を汚らわしいっと切り刻む…ということを繰り返している印象。
でも姉畑編読み返して一番おっと思ったのは「熊に殺された人間は熊に好かれて結婚相手に神の国へ貰われていったのだという話もあるけど…」というくだりです。
完全に忘れてた。こないだのエンゲージってこれかあ~と膝を打ちました。ウェンカムイ杉元の、地獄の花嫁ってことなんですね…尾形は。
だから杉元にとって光のアシリパ・闇の尾形で二人は拮抗する対の存在であり、つまり二人は金カムのダブルヒロインってことなんだ。いやマジだから、マジで言ってるからこれは。
そしてアシリパにとっても清さを求める杉元・穢れをつきつける尾形で二人は今や拮抗する対の存在になろうとしている。
凄まじい三角関係だ…マクロスでも見ないようなガッチガチのトライアングルだ。
でも完全な正三角形になるには、尾形にとっての杉元とアシリパのバランスで杉元がだいぶ弱くない? アシリパとの道理をかけた対立関係に比べて尾形にとっての杉元はゴリラでしかなくない? としばらく考えてたんですが、杉元の考え方がまんま花沢幸次郎であるってことを思い出してリアルに頭を抱えました。
そうだった。お前が(尾形の)パパになるんだよとかこないだ杉元を指して言ってたのに忘れてた。杉元全然拮抗できる。というか幸次郎が絡んだ時点で天秤なんか意味ないよ…浮かんでた杉元の皿なんてガッターン落ちちゃうよ…。
私はそれだけ尾形をファザコンだと思っている。こないだの鯉登過去編でさらにその認識が強化された。尾形にゃんは父上のことを…ずっと…ずっと…ッ
まあ自分の偶像を守るのに躍起になってる杉元と違って、幸次郎が勇作に課した不殺はあくまで兵士の偶像にするためであって、求めることは同じでも受け取るものが違うんですが。後者はより多くの偶像にして将としての利益を得るためだけど、杉元は自分にとっての偶像としてしか想定してないからね。
まだ尾形が杉元に幸次郎を見出した描写がないから何とも言えないけど…もし今後そういう展開が来たら、尾形の天秤は一気に杉元に傾いていくことになるだろう。クソ親父だろうと関係ないの。だって尾形はずっと待ってたの…。
私は尾形に対して、パパとけっこんする!と幼い頃は言っていたのに思春期を迎えてパパキモいになって異性へ関心が向くという真っ当なプロセスを踏むはずが思春期前にバグが起こりそのままずっと来てしまった幼女、というような印象を持っているんですよ。あんまり言うと頭がおかしいと思われそうなので控えていますが(手遅れだよ)
アシリパよりよっぽどロリだよ。(?)だから杉元はどっちを選ぼうとロリコンだよ(???)

試される大地

実際“この人に存在を許されている俺は許される存在”っていうのを勇作相手に尾形の立場でやるのは無理だったよな。きれいなもの・きたないものに差別化されることを受け入れて降るか、いや同じ人間だろって抵抗するか、見捨てられた異母兄弟としてどっちを選ぶかったら断然後者でしょ…俺だってそーする。
杉元の胸に手当てて心臓の鼓動聞くアシリパっていうあのエンディングを、尾形と勇作でやれるか?って話なんですよ。絵面が濃すぎるでしょ…(そういう話か?)
そして自分がきれいなものになれると思うほど尾形はツイてる人間ではなかったので、勇作殿に皆が負ってる汚れを負ってもらって平等を期そうとした。
そしたら“私は殺さないが、殺すお前を許す”というアシリパさんのような度量が勇作には無かったので「いて良いはずがない」と言われてしまい。
まあでもそこを度量って言っちゃうのは勇作に厳しいかな。優柔不断さ、と言った方がいいか。勇作殿はより潔癖だったというだけだ。
私は殺さないが他の奴が殺すのは可っていう態度は確かに“戦場においては”不誠実っちゃ不誠実で…責任逃れというか。そこが自分でも許せなかったからこそ勇作には葛藤があって、あの場でそういう“許されない言葉”を言ってしまった。“偶像の才能”は勇作よりもアシリパの方があるということなんでしょう。
でもそういう勇作の潔癖さが、もう遅いけど、尾形としてはわりと好きなんだろうと思う。だから“高潔”という言い回しで素直に勇作の人格を讃えた。それとも殺した後だからこそ素直にそう思えるようになったのか。

ただ、戦場と娑婆は違うからなー。これまでのアシリパのスタンスを勇作と単純に対置することはその点において出来ない。殺人罪のない戦場ではないんだから、殺しまくってる“心が戦場にいる奴ら”があくまでおかしいのであって、殺すのは無論ダメなのよな。
普通の一般人としてのアシリパの倫理のスタンスを批判するということは、暴力を用いた問題解決手段を警察・裁判所・自衛隊等の暴力装置に委託して無辜の民を自称していられる我々法治国民にそのまま関わってくることでもある。尾形がヘイト集めがちなのってそれもあるのかな。批判しちゃいけない領域に踏み込んできてるから(我々の正義に関わるという点で)
しかしそこで考えなきゃいけないのは、この話で提示された金塊の使い道が悉く独立戦争の資金源だってことなんですよ。
鶴見、土方、キロランケ。第七師団の、アイヌの、少数民族のクーデターのために使われる金塊二万貫。
そしてアシリパにその自覚は無かったかもしれないが、樺太の旅で“成長”したアシリパは既に独立戦争を起こすルートに乗っていた。キロランケの思想に触発され、「もしその人達の協力で金塊を見つけたとして本当にアイヌのためになるのか?」と使うことに前向きな態度を示した。それを尾形は見ていた。
だから「時間切れ」になったあのタイミングでアシリパに戦場理論を持ち出す尾形の理屈もわかる。アシリパは旅の途中「金塊は本当に見つけるべきか、それとも闇に葬り去るべきなのか」と考えていたが、鍵を持っていたからといってアシリパに葬るかどうかを選べる自由があるとは限らない。
キロランケのいる所に戻ろうとした時点で…そして金塊がないと故郷に帰れないと考えている杉元の、故郷に帰りたい動機の錯誤が決め手になって尾形の手を振り払った時点で、アシリパはもう“金塊を欲しがる人たち”に絆されている。そこにあるお金を杉元にあげないという選択が出来るとは思えない。
そしてあの怪我で杉元が無事ということは、鶴見が生かした、つまり杉元と鶴見が協力関係になったと尾形は察しただろう。もう自分が先んじて聞き出せなかった時点で詰んでいる。見つかった金塊で必ずまた戦争になる。
そして“偶像”を問い、清いままの手を汚せと命を差し出し、銃を向けた。勇作という偶像を許さなかったのに、アシリパという偶像を許す道理はない。女という退路はソフィアが断っている。

だからつまり、私は今回「でも私を殺す素振りも見せた。本当に金塊が欲しいんだろうか…」とアシリパが疑問を提示したことで、これまでの流れも踏まえ、尾形の目的について明確な予想を立てました。
尾形の目的は“金塊を闇に葬り去ること”だと思う。正確に言うと“金塊によって戦争が起きるのを回避すること”
金塊を探す杉元にとっては、金塊が欲しいわけでもないのに争奪戦をウロチョロする尾形は「引っ掻き回して遊んでるだけ」と言って間違いではない。
しかし尾形にとっては「どれだけ危険な博打に手を出しているか分かっておらんのだ」と初めて会った時に言ったように、金塊見つける=自ずと戦争になるということに自覚の薄い杉元の方が事態を引っ掻き回していると言えなくもない。両者の主張は平行する。
もう賭けるぜ、私はこの線で…外したらそうだな…別になにもしないけど…(カス)

まだそうしたいと思うに至った本当のところってのは分からないですけどね。あんだけ優秀な兵士だしさあ。私が尾形の立場なら北海道が戦場になろうと知ったこっちゃないような気もするけど…よくないなって思ったのかなあ。
元よりいちゃいけないと言われてしまった身だし、どうせなら命を使おうと思ったのがそこだったのか?
「やっぱり俺では駄目か。うまくいかんもんだな」って静かに笑った時のやるせなさが思い出されるよ。尾形が出し抜かなければならなかったのは、鶴見とかキロランケとか土方だったんだよな。
金塊使って戦争を起こそうとしてる鶴見の所から離れて、転がり込んだ先の土方も戦争を起こそうとしてて。キロランケと一緒に樺太の内情を見て、女傑のソフィアとも会って。
そういう革命家、指導者…妻子持ったり投獄経験あったり人生色々あった40代以上のカリスマたちが上に控えててさ。尾形もかなり苦労してきてるけど、どうしても年の功っていうかさ、鈍感力っていうかさ…苦労だけじゃ辿り着けない、持てない“芯”みたいなものがあるわけ。能力がどんなにあってもダメなんだ…。勇作殿の時もたらしこんでみせましょうとかイキッてたけど結局うまくできなかったんだもん…。
正攻法じゃ無理だ。特に長いこと師事(?)していた鶴見には、対面じゃ勝てねーって尾形が誰よりも分かってる。幽霊見てうなされてるような、ちっぽけな、後ろ盾のない若造には…それこそ山猫みたいに、目を離した隙に掠めとるくらいしか…。
ううっ。つれえよ。大体同じくらいの歳だからすごい同情してしまう。尾形は色んな陣営に潜ってよく頑張ったよ…。もう杉元くんとかヴァシリくん、身の丈にあったおともだちと戦って適当に死のうぜ。多分金塊は鶴見が手にするけどいいじゃないかそれで。十勝平野を芥子畑にしよう。(具体名を出さないで)
はあ…ソフィアさん闘魂注入してください…。いやそれで死にそうだな。
「キロランケニシパとソフィアは大陸で仲間を集めたら日本へ渡る計画だった」
そうだっけ?(素)それならアシリパがソフィアを追わなかったのも納得ですが。
「私達の希望と復讐のために北海道へ」
希望、はアシリパのことかなという感じですが、復讐が何を指すのか。キロランケのことかなとも思うし、ちょっと思ったのはウイルクをのっぺら坊にした誰かのことなのかなって。この金塊騒動のそもそもの発端はそこから始まっていますから。
キロランケの長い長い手紙に、どれだけのことが書かれていたのかまだ分かりませんが…。
アシリパさんが金塊の暗号を解く鍵ならまた来る可能性はある」
ただ、金塊が欲しいにしろ葬りたいにしろ、アシリパが鍵である以上は再び接触しなければいけない…と、今はもう言えなくなってきてるんですよね。
何故なら鶴見はもう、アシリパなしで暗号解読に着手している。やはり杉元の集めた大量の人皮がその手に渡ってしまったのはまずかった。しかも鶴見には自分だけが見分け方を知っている偽人皮という切り札がある。もし自力での暗号解読に成功すれば、鍵を知るアシリパよりも優位に立つ事になる。
最早アシリパを葬るだけでは金塊は葬れないということに、尾形が気付いているかどうか。
今他のどの陣営とも共有していない人皮を持ってるのは土方陣営だけだし…。多分これから金塊が近づくごとに泥沼のデッドヒートになっていくんでしょう。
尾形がどうすればいいのか見当もつかないな。地味に杉元一行にヴァシリが加わったの痛くない? あいつ狙撃能力はそのままだから遠距離から殺せるじゃん。もう杉元一行には近づかない方がいいだろうな。
ヴァシリはまず近くで話したいかもしんないけど…。自身の能力が触れ合いを阻むなんて悲しいね。ヤマアラシのジレンマね…(そうか?)