8番倉庫

長文置き場

金カム223話「二階堂 元気になる」感想

久しぶりの有坂閣下が登場で嬉しい&相変わらず元気よくヤバいもの持ってきてて草。
麻黄からエフェドリン発見→エフェドリンからメタンフェタミンの合成に成功、どっちも長井博士の功績なんですよね。偉大すぎる。
モルヒネといい、それ自体はとても素晴らしい発見で、乱用するのがいけないのですが…用法容量を守ってさえいれば…。
第二次大戦以降どこの国でもバンバカ投入されて、日本でも空軍パイロットの人が「ビタミン材だ」「暗視ホルモンだ」とか何とか言ってメタンフェタミンを投与されて出撃させられていたという証言が残っているそうですが。
というかもう現在に至るまで、登場以降覚醒剤はこの世の戦争そのものと切っても切り離せない存在になってしまっているんだなと…自衛隊も所持が認められてますしね。まあ、人為的に脳内麻薬を出しでもしなければ、大勢の人間が“正気で”殺し合いが出来るようにはならないのかもしれない。
しかし「この薬は売れるよ絶対!!」という閣下の台詞、自身の開発した兵器で大勢人が死ぬ!つくづく呪われた仕事だ!とか言っておきながら、相変わらず最高に業が深くて素晴らしい。後のヒロポンという大ヒット商品にも繋がりますからね!!

そんな有坂閣下に悪意なくどんどんモルモットにされる二階堂。面白いけど可哀想。複雑な気持ち…。
いや、欺く意思が無くても相手をどう扱っても構わないものとナチュラルに見下しているが故のあっけらかんとした所業なら、そこにはやっぱり悪意があるとみなすべきなのか? でもそれを言うなら有坂閣下はどんな相手でもあっけらかんとモルモットにしそう。見下してるんじゃない、研究者気質で頭のネジ(倫理方面のパーツ)が外れているだけなんだ、そしてそういう人間でなければ後世に残るような偉大な発明など出来ないんだ。(有坂閣下シンパ)
有坂閣下がステキなことと二階堂を可哀想に思う気持ちは矛盾せず両立する。ああ可哀想な二階堂…鶴見には耳削がれるし…土方には足斬られるし…杉元には手吹っ飛ばされるし…でもヤク漬けなのは本人がモルヒネ依存して際限なく欲しがった結果か。鶴見中尉は一応そこは止めてたもんな。そう考えると今回の有坂閣下は「そうかい! そんなに欲しいならもっとすごいのをあげようッ!」って本人のためにならない物をホイホイあげてしまうダメなあしながおじさんといったところか。
何にせよ二階堂は堕ちていく一方…殺された片割れの仇を取ったら静岡に帰りたい、という素朴な想いを知ってるだけにやるせない。ここまでの目に遭わなければならないどんな道理が彼にあるというんだ…

今後尾形と再会することあるのかなあ。ヤな奴だよね~と言ってたけど、二階堂に降りかかったこれまでの数々の事実の中で、尾形が二階堂を助けて「俺はここだぜ」と谷垣にヤケクソに身を晒した行動だけは打算も裏もない、ただ二階堂のためだけに存在した行為だったと思うんだよね。鼻歌歌いながら耳削ぐ中尉も、黙って従ってるだけで内心は抑圧されたコンプと歪んだ優越感でドロドロの月島も、中尉の命令でリンチすることに実益見出してる宇佐美も、二階堂の機能にしか興味がない有坂閣下も…みんな二階堂のことなんて考えてくれる人たちじゃないよ。二階堂が信用できる人間は、今の二階堂の周りには一人もいないよ。ファミリーじゃないのよ!(ボヘミアンラプソディか?)

まあもっと分からんのはコイトの方ですけどね。「おのれ…!!よくも私の部下をッ」と激昂するほど、悪い意味でなく自分の従属物…役割を果たしているその裏側なんて想定してもいないし、何かあれば将として守ってやらねばならないと信じ切っていた、それ以上でも以下でもない寡黙で勤勉で有能な部下でしかなかった筈の男に、リアクション不可能な激重カミングアウトされて鶴見中尉スゴ~イで切り抜けて、杉元に裏切られて、「もういい…」と意気消沈して父上と「情けんなか…」と会話した…そこまでは分かる。そっからの今のテンションが分からない。船上で父上と何か、ある程度気持ちの整理をつけられるような話が出来たのだろうか?
というのも、そういう明らかになった諸々を脇に置いて思考停止させて、それはそれとばかりに「キェェ~イ」とか月島を前にはしゃげるほど器用な奴かなあという疑問があるんですよね。でも仮に船内で“頭を切り替えられるような何か”を父上と話せたのだとしたら、鯉登少将は鶴見のただの傀儡ではなく何か目的がある可能性が高まるな。
そんな色々を考えさせる月島と鯉登の、家永を挟んだ据わりの悪い空間の背後で、二階堂と有坂閣下がめっちゃうるさくて気が散る。拍手しながら「元気」ってシンプルすぎる賞賛してるの超ツボる。

一方、若い血の供給に事欠かず美しいばかりの家永が画面を飾ったすぐ後だというのに「家永のジジイ」とはっきり呼称するデリカシーのない尾形。相変わらず火鉢の傍は譲らずっ…! 思えば8巻で火鉢をこうやって股の間に置いてた時も、同じように後ろ手に腕に体重かけてだらーんとしてましたね。あったかいとリラックスしちゃうんだね。
「この家を吐く前にとっくに殺されて、皮を剥がされて鶴見中尉の着替えになってるかも」女じゃない、目の前にもいないとなると牛山さんはドライですね。即物的の極みでイメージアップです!(クズ度と好感度が反比例しない)
「死神から逃げ続けるのは簡単じゃねえ」う、うつくしい…(単純に画の話)
この『死神』は鶴見という暗喩としての『死神』と、抽象的に“死を齎すもの(=齎される死)”としての『死神』のダブルミーニングかなあ。そう考えると死のうとしたが右目を抉られて生かされた尾形の、その包帯が目立つアングルで死神から逃げ続ける(=生き続ける)のは簡単じゃない、という言葉はものすごい自虐というか皮肉というか。ああ尾形。
そして鶴見を知る者として一人転地を主張する尾形に「尾形が正しい」と賛同してくれる土方さん。なんかじーんとしてしまった…基本正論を言う尾形だけど、今まで尾形にそんなこと言ってくれる人居ただろうか…ト、トシさん…(チョロい)
「用心し過ぎるということはない」土方さんも場所変えんと危ねーかなとは思ってたんでしょうか。土方組が元の場所にまだ居てよかったね尾形にゃん、無事合流できて。ハッ、まさか尾形も戻ってきたことだしもう移ってもいいか的な? ト、トシさぁ~~ん(放し飼いで行方不明になった猫が帰ってくるまで引っ越しを留まる飼い主の鑑)

そして優雅に飛ぶ、あんこう鍋のワンカットで強烈な印象を残しているマガモ
このコマの時点で不安な予感はしていた。

でも、ものすごく悲しいけど妙に美しさを感じるページで好き😭
絶好のスポットなのか、銃を撃つ尾形の背後にもいっぱい同じ鳥が飛んでるのがいいですね。沢山いることが逆に静けさを感じさせる。
子供の頃に幼い手で撃ち落とせていた鳥が、引き金を引いた後も変わらずに空を飛んでいる不条理。良かれ悪しかれ何かを変え続けてきた、それだけが何かを変える力としてのよすがだった銃弾が、何も変えられない鉄の塊に…。ああ尾形。黙した表情に宿る静かな翳りが哀しいです。

しかし寺へとアジトを移し、シニアたちが次なる囚人の情報交換を行う一方で、ガラッと威勢よく扉を開けてデカい獲物を手に堂々帰宅の尾形。え、えら~~~い!

心なしか嬉しそうな顔がかわいすぎる。ところで私はこの白鳥、このぐらいデカくて、キラウシ曰く飛べないノロい的なら“今の銃の腕前でも仕留められた”のかなあと思ったんですが。

今まで明確に銃で仕留められた鳥でも銃創がわざわざ描かれたことって無かったような気がするし。でも「もう銃はダメだ」とさっさと見限って「銃が無くったって獲れらぁ」と、“獲物を仕留められたこと”へのドヤ顔であるという解釈も、尾形はタフな性格してるんで十分それらしいですね。
まあ私は「わざわざ鉄砲使って獲らなくても簡単に捕まえられる鳥だったらしいけどそんな事は露知らず銃で仕留められたことに喜ぶ尾形」説を推すよ。あれならいける!いけた!やったー!ってハイパーイージーモードの獲物でも撃ち取れた事に喜んでる尾形にゃん、けなげでカワイイじゃないですか。あくまで銃で仕留めることに意義がある的な。いやでもやっぱ結果主義だから無いかな? でも銃は尾形にとって特別だしなー。まあ単行本で加筆でもされない限り答えの出ない問題ですが。
どちらにしろ結果を出して、役に立って初めてそこに自分の居場所を認められるこの性格は多分一生治らなそう。そのどうしようもなさ、それ故の哀れさが好き。俺じゃ駄目か(=やっぱり俺は結果を出せない役立たずか)って一度思っちゃったらマジで死んじゃうんだもんな。社会性のある人ならその考えは間違ってる、変えなきゃいけないって絶対に言うであろうその極端さがイイ。だってそういう自他への厳しさがあってこそ技術が磨かれていく面もあるわけだしね。弱者への救済は大事だけど、でもその救済は強者が居ないと実現出来ない。だから強者になろうとする志向それ自体を妨げることもまた悪ではないのだろうか?(何の話をしてるんですか?)

門倉さん、突然現れて火鉢に懐いたと思ったら周りから猫扱いされてて実際猫っぽい尾形のこと普通に猫だと思ってるでしょ。
そしてめちゃめちゃ気になっていた有古と尾形の顔合わせがついに。やっぱりお互いわりと知り合ってる仲の様子…!?
有古は見るからに実直そうだし、尾形が“有古が造反側についたことを意外に思っている”という態度を示すことは不自然ではないですよね。本当にそう思ってるのかは怪しいところですが。笑顔が気さくすぎて絶対裏あるもん。というか尾形の方が余程長いこと見てきて知ってる人間なのに、尾形の目を見れない有古側の気持ちになってこのシーンを見てしまう(=尾形の方を“弱みを見せてはいけない相手”という警戒対象に回してしまう)のすごくないですか? 根っから“向こう側”の男なんだな。
谷垣の時といい、すれ違いざまに何でもない“ついで”のように真偽を問うのが尾形上等兵の手管の様子。胸に労わるように置かれた手がなんだか妖しい…ていうかなんか…なんか雰囲気があやしい…いや有古は普通なの、尾形上等兵が…なんだこのなまめかしさは…
鶴見への警戒心(=手腕への評価)強いし、鶴見の間者かなって事には気がついてそう。とすると陣営を寺に移動までさせたが内部にいる怪しい有古を尾形はどう扱うか? まあ有古に関しては土方も、怪しく思った上で泳がせているわけだけど…土方にとっては尾形も同じことであって。尾形は土方と有古、どっちの方と踏み入った情報共有を行うのかな。

ところで白鳥っておいしいのかな。味が気になる…まあ鳥肉なんてどれも大きな違いはないと思うんですけど…(暴言)
白髪の話題でそれぞれの頭髪事情についてやいのやいの言い合う面々が微笑ましいです。

まあそもそも白髪なんて気にしないし、自分が獲ってきたんだし食うっていうのは自然な行動原理ですが。
尾形の獲ってきた白鳥を食いながら土方さん、鶴見について述べた尾形の意見に対するロングパス。
「誰にでも平等に死は訪れる。どうせ逃げ切れんのなら、ビクビクと待つより美味いものを食って楽しむ」
う~ん土方さんらしい回答。
あと百年生きるつもりだ、なんていうのは方便で、永倉にすらそうやって誤魔化した「ただ死に場所を探してるだけ(=短い余生を飾りたいだけ)」という自己満足を「あんたについていく人間がかわいそうじゃないか?」と指摘した尾形としては、やっぱりその言葉には「気楽なもんだ」とばかりに「はッ」と笑うしかない。態度としては。
でも一度敗れて死のうとして、予想外に生き永らえて元居た場所に再び戻ってきて、獲れるのが簡単な獲物ぐらいになってしまった今の尾形にとって…どっしり構えて「どうせ死ぬんだから慌てんな美味いもんでも食え」というような土方の理屈は決して悪いものではないんじゃないだろうか。
もう土方陣営に腰を据えなよ尾形にゃん!!(チョロい)
雑魚寝して皆でまだ白鳥の話で盛り上がる中、ひとり天井を眺めながら何を想う尾形…。
アイヌの二人が「そうだよな有古」「俺の地元でも~」と共通の話題で穏やかに話しているのがいい感じ。大変な立場になってしまいどうなってることかと思いましたが、有古くんが土方陣営で思いの外居心地悪くなさそうにやっててよかった。(体育座りはしていたが)
それにしても有古くん、隣に寝ててもなんかリラックスしてるし、尾形上等兵はそれほどヤバい人物と認識されてるわけではない模様。上官としては理性的そうだしな。
有古から見て「尾形が鶴見を裏切るとは思わなかった」っていうのは、尾形の「真面目なお前が裏切るとは」みたいな表面上の意外さよりも、もっと深いものがあるんでしょうね。あんな昔から一人だけ兵士なのに誘拐事件に協力したり、日露前も勇作殿のことに関して二人で話し合ったり…もちろん全部秘密裡でしょうけど、でも出自のことと併せて絶対噂されてたでしょ。兵卒が尉官に呼ばれるとか滅多にないらしいし、ただでさえ山猫の子は山猫…みたいな下衆な噂されるくらいだから、あいつ鶴見の何?みたいな話にならざるを得ないでしょ、ああいやらしい!(笑顔)

翌朝空になった鍋を囲む若い(?)面々に混じってる尾形に、おや輪の中にいるなんて珍しいと思ったら、目の前に火鉢があるぅ~😊 それでか~😊
でも皆の話を聞いて無言で永倉おじいさまの頭部に目線をやる。三人ともそんな真っ直ぐ目よりも上部に視線をやるなよ。
失礼な若造たちに渾身の唾吐きするラストページの永倉の迫力、アオリも含めて超笑いました。怖いおじいちゃんなんだから怒らせないで!!