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長文置き場

金カム213話「樺太脱出」感想

えっ、待ってください、白石はやっぱり確変期なだけだったんですか?
復活した定期船の情報を聞きながら、「俺たちには専用の船の迎えが来るのよ特別待遇だから」と、言葉の上では鶴見一派に確保されて北海道に帰ることに前向きな様子。しかし(そう見えないが)白石にとってこれは半ば皮肉であり、内心は初めて知った定期船の存在に「え、それで帰ればよくね?」とちょっと気持ちが傾いたから、杉元を試すように絡んだ?
ただしアシリパに直接「アシリパちゃんは本当にこれでいいの?」とか改めて問うことは全くせずに?
まるで読者の代弁者のように杉元にかました説教はアシリパが逃げるつもりであることを知った上での助言などではなくて、本当にただイチ傍観者としてのやたら鋭いコメント?
アシリパが逃げる隙を作ってみせたあのゲロも、打ち合わせの上とかではなく本当にただ偶然タイミングよくゲロっただけ?
そしてアシリパは定期船があるということを偶然知り、「私はそれに乗って帰ろう」と杉元にも白石にも一言も言わずに決め、一人で船乗り場と経路を事前に確認し、誰にも相談しなかった以上は、最悪独りで定期船に乗り込み帰るつもりでいた?
そっかあ…(失望)
師団…ナメられすぎでは…? そして三人も、お互いがお互いをある意味ナメている。というより、軽んじている?
というかマジでお互い話し合わなさ過ぎでしょ。一応杉元・アシリパ・白石の三人はこれまでやってきた関係上ホームと呼んで差し支えない括りのはずだよね!?
なんで一言でも「自分は今こう思ってるんだけどそっちはどう思ってる?」という確認をしないの!? 結論出すのはその後でいいはずでしょ!? 確認したことで意図がバレて阻止されるとかそこまでの警戒を敷かなければならない間柄では少なくとも無いと思っていたんだけど!?
実際一人では絶対逃げれてなかったし、何も打ち合わせなく行動したせいで杉元死ぬとこだったじゃん!?
わかってもらえないということがわかった、もういい何も言わずに一人で帰る!って、手のかかる子供の思考以外の何物でもないぞ!?
相手の言うことも一理あると思ったからこそ自分の考えを押し付けることを遠慮した、そう言えば聞こえは良いが、それは言われた言葉に真っ向から反論する意気地が無かった事と同義では? 結局鶴見からだけじゃなく“父親”の杉元からも、“巻き込まれただけ”の白石からも逃げ出そうとしただけだ。それでよくも前向きだの何だの語れたもんだなァ!?オォ!?(柄の悪い読者)

船上で杉元が「俺は俺の事情で金塊が必要だから戦うんだ。全部覚悟の上だろ?」と自ら泥を被る道理を繰り返したことに、やはり沈黙で返すアシリパ。答えられる言葉は依然としてまだ持たないが、それではダメなのではないかという葛藤はある様子。
しかし殺傷能力のない矢による“逃げ”を選択したアシリパの姿に心の奥底で求めている“清さ”を見出した杉元は、自身の状態などどうでも良いのだと言わんばかりの完全に吹っ切れたキメ顔を見せて「アシリパさんなら自分の信じるやり方でアイヌを守る道を探してくれると、俺は信じることにした」とあれほど決然と告げたはずの懸念を引っ込める。お前は本当に気持ち悪いなあ!!!(ぶり返す)
そしてその杉元の心変わりにひどく嬉しそうな顔をするアシリパ。頼れる相棒が何も言わなくても勝手に自分とぶつからない考えに変わってくれたことがそんなに嬉しいか? 説得も対話も避けて何が人を殺さない戦いだ!? 何がリーダーシップだ!? 何も言わなくても分かってくれる、そんな男しか求めない女になるつもりなのかキミは!?(飛躍的悲観)
白石も威勢よく発破かけた割には「それはいいけどどうやって俺らだけで金塊を見つけんのよ?」とか妙にシビアなとこはシビアだしよお。何なんだお前は。酔って気が大きくなってただけか? 素面だと実現性が先に立つのか。

以前からこの三人を中心としてよく描かれる、引きの画で「アハハ…ウフフ…」と表現される“団欒”感、海に来たら必ず手をつないでジャンプする等の仲良しなノリが個人的に“上辺”という感じがずっとしていて、空気を軽くするためのそういうコミュニケーションは積極的にとるけど本当に大事なことは話し合わない…というウェイ系の大人数リア充グループみたいな印象を持っていたんですが、そしてこれは完全に陰キャマインドだなと自覚していたんですが、でもやっぱ“腹を割って話せる仲間”と言うにはどっか歪ですよね。この三人ですらも。
誰かが本当の“素”を言葉や態度に出したら途端に周りは引いて黙るみたいな。そういう本質的な部分の共有を全く出来てないのに、表層的な友好と、信頼ではなく信じたいという願望だけが肥大化して事実だけ積み上がっていく…というイメージ。
正直全然微笑ましくない。今回アシリパが誰にも言わずに単独で逃げようとしたみたいに、何かあればすぐに離れてしまえる距離がある。関係に、事実以上の“芯”がない…ような。いざという時はまた「巻き込めない」だの何だの言ってアッサリ誰かが誰かを置いていくと思う。そしてそれを100%善意のつもりでやる。自分がやられたら怒る行為だとしても…

そういえば白石、足撃ち抜かれてたけど走れるくらいには回復したんですね。よかったね。(優しい世界)
この車三人乗りなんだと置いていかれる谷垣がシュール。ちょっとかわいそう。仲間に入れてもらえないのね…もう末席はお絵かきロシア人で埋まってしまったからね…
「私が…フチにまた会う夢を見たと伝えて!! フチは信じて安心するかもしれないから」ナメてんのかフチを?(どうしてすぐそういう話になるの)
谷垣も頑張ってここまで来たんだぞ。それを碌に話も聞いてやらずにメッセンジャー扱いで済ますとは不義理な…まあいいか…勝手にやってることだし…(冷)
この役目さえ果たせばマタギに戻れる、というような通過儀礼としてアシリパをフチの元へ帰すことを捉えていた節があった谷垣。しかしアシリパにインカラマッのところに戻れと言われ、自分は自分にしか出来ない役があるという境地まで辿り着いたという事なのかどうなのか。
「俺はマタギです。マタギの谷垣です」なんて清々しい表情だ…。免罪符がなくても、もう戻れたんですね。戦場から帰ってこれたんだ。
でもインカラマッに会ったら確実に彼女が伝えた情報によるキロランケへの仇討ちの話になりますよね。その時に谷垣の復讐の話が再浮上しないわけはないと思う。大丈夫なのか谷垣お前…

ヴァシリは本格的に仲間入りですかー。頭巾ちゃんって呼ばれてるんだぁ~へぇ~~(半笑い)
敷香に居た時点で国境の問題はクリアしているのか? しかしマジで何もかも捨てて尾形を追ってきたな。「私は死ねなかったぞ、あの時の続きをしよう」だし、死ぬ以上のことはないわけだからまあ端からそのつもりなんだろうけど…もう結婚する気じゃんこんなん。どうすんだよ尾形(殺すか殺されるかだが尾形は既にあの時の戦闘力ではないし)
多分ヴァシリは獲物の生殺与奪を己が一方的に握る圧倒的支配者の側にしかあの勝負まで立ったことが無くて、だからこそキロランケの「撃ってみろ」と言わんばかりの態度すら気に食わず従うことを拒否したわけだから、獲物には絶対服従を望んでるんですよね。獲物が生きるも死ぬも俺のもの。
だから勝負に負けて支配される側になった、つまり自分が獲物側になった以上は、これまで自分が獲物に求めてきた全てを捧げる態度を尾形に捧げないわけにはいかないという道理なのではないかと。狙撃手に好かれるってたいへんだな。

それにしても追手に気付かれてヴァシリに「足だぞ!! 足を狙え」と何度もジェスチャーで注文するがおかまいなしにヴァシリはヘッドショットし(「獲物の生き死にを決めるのは狙撃手の私だ」の男)不安げにアシリパが「足に当てたか?」と真実を確認出来ないまま、なあなあに過ぎ去っていくシーンは今回のハイライトですね。
もう、アシリパの不殺を実行力を伴わない格好だけの茶番として描いている。
杉元はアシリパ自身の手が殺しさえしなければ周りの奴の殺人を結果的に止められようが止められまいがどうでもよく、白石は元々その辺の問題は傍観一方で我関せず。
死という絶対的な結果を前に欺瞞でしかないこの一連の流れをわざわざ描いたということは、作者はアシリパの不殺を尊いものとして扱う気はさらさらない、という事なのでは。
えっ怖い…。いや私も完全に考えとしては尾形派なんだけども。「ところでよぉ…」ってキレながら「(周りにばっか戦わせて)自分は清いままやり過ごすおつもりか?」と煽る方に属する人間なんだけども。
でも主人公でそういう、えっお前それは傲慢なんじゃない?と突き付けられる感じの構図を“正論”として完遂するつもりなんだとしたら、その思い切りの良さが怖い。
言うても主人公って特別ですからね。感情移入度が違うから。あとやっぱ作中で正義側っぽい扱いをされているキャラは、本当に正当性があるかどうかをしばしば問わずして実際に“偶像化”しがちだし。尾形をdisるのとアシリパ、勇作あたりをdisるのとでは返ってくる反感のガチさが段違いですからね。
人を殺すべきではないってのは“正義”ですが、他人に殺させて自分は清く正しいまま居ようなんて虫が良い話だってのは“正論”です。
正義と正論は異なるものですが、大きな違いとして正義ってのは相対的なものだけど正論ってのは絶対的なもんです。何故かというと対外的な正義というのは理屈でしか証明され得ないため。だから世の中は最終的には正論で動くし、戦争ってのは無くならないんですけども…
ゴールデンカムイはどちらに着地するんでしょうね。子供の綺麗事を大人の義務感がぶち壊すのか、大人の諦めを子供の万能感がぶち壊すのか?