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長文置き場

金カム215話「流氷の天使」感想

逃げたアシリパの今後について話し合う鶴見・宇佐美・菊田の三名。三人寄らば文殊の知恵ってね。
「網走の看守たちを皆殺しにするのとはわけが違う…罪のない婆さんを見せしめで殺すなんて俺は反対ですね」
せ、節度のある意見…(看守はセーフなのか?)
登別では「また鶴見中尉にお供するには…」とか何とか言ってましたが、やはり明らかにシンパという感じではないですね。スパイだとしても中央側なのかな~?
しかし一番分からないのは、菊田がきな臭いことなど百も承知だろうに、すんなり手駒に加えた鶴見の思惑です。泳がせて何か得があるのか、それとも泳がせざるを得ないのか?

「分かってますようるさいな~」この失礼さ好き~~~。「下手くそだなぁ~」とか、こういう目の前の相手との迷いない距離の取り方、めっちゃ鉄砲玉向きという感じがする。
でも窘められずとも、心労と孤独で塞ぎ込んでしまったフチの許を「信頼できる所」として稲妻・蝮夫妻の赤子を置いていった鶴見の行動からは、積極的な加害行為を選択しそうな感じはしないんですよね。まあ(なるべく迷惑かけたくないけど)虚偽の死亡広告程度はしゃーないみたいな心情のため息なのかな?
勿論やるとなったら何だってやるでしょうけど、でもなんかフチは丁重に扱いたそうな印象を受ける。お銀への態度的にも別段フェミニストってわけでもない気がするんですけど、なんだろう、鶴見もバアちゃん子なのかな(まさか)

「…こうするしかなかった。鶴見中尉に金塊が渡ればアイヌのためには使われない。そもそもアイヌが自分たちのために集めたアイヌの金塊なのに…そうだろ?杉元…」
ようやくアシリパは今、金塊について「“アイヌ”のために“使われる”べき」と考えている立場であることが明言されてちょっとスッキリ。
少なくともフチやマカナックルのように、集められた金塊という存在そのものをタブー視する立場でも、また私は金塊などどうでもいいので誰が手に入れようと構わないという立場でもなく、アイヌに所有権があると考えておりそれを守ろうという立場にいる。
まあ集めちゃったもんはしゃあないですからね。親の遺志を継ぐと、そう覚悟を決めたのならば結構なことなんじゃないかと。
有古も鶴見に「土方に唆されたのだろう?」って言われてたけど、煽られて感化されたとかじゃなくて、あくまでアイヌとしての己の意思だったんじゃないかなあ。

「実は昨日の夜…シライシは月島軍曹たちの会話をこっそり聞いてたんだとよ」
ええ…白石あの会話聞いてたんですか。あの月島さんが秘めに秘めていた激重独白を関係ない第三者がちゃっかり聞いてたとかなんかやだな…
ていうか白石スパイとして優秀すぎでは? 既刊を読み返しても私、白石が怪しくしか見えないんですよね。ここまで来たら絶対に土壇場で金塊に目が眩んで二人を裏切って欲しい(絶対に…?)

「キロランケニシパは、アイヌでも和人でもないのにどうして戦争なんかいったんだろうか」
どういう問いなんだろうと一瞬考えましたが、白石の言葉に対する反応を見ると何となく理解。キロランケの民族的アイデンティティがどこにあるかとかそんな複雑な疑問から発せられた問いというわけではなくて、まず「戦争なんて好き好んで行きたがるものじゃ絶対ないのに」という忌避感が先にあった上で、「和人でもアイヌでも本来ないキロランケニシパなら戦争に行かないという選択肢もとれたんじゃないか」=「あえて行こうという理由がもしあるのなら私には全く理解ができない」という戦争に参画する人間心理への疑問?
それに対して想像で返した白石の回答に、抵抗感を呑み込むように眉を寄せる子供らしいアシリパの顔。
もう完全に“殺し合いで解決”という手段に染まってしまった立場から杉元は、しかしアシリパがこれから見出してくれると信じている、武力行使に頼らない闘争と解決を夢見る。

まあ、戦争に拠らない問題解決ってのは人類の夢ですよね…私も人類の端くれとしてそうなったらいいなという気持ちは持っていますが…。
有史以来実現しているとは言い難い人類の業からの脱却にアシリパなら近づけると夢想する杉元の期待の重さは、親バカ感を感じなくもない。
実際、方向は真逆に進んでいると言っていい…

アシリパさん。あのとき…キロランケになんて言ったの? ひょっとして 暗号を解く方法がわかったんじゃないのか?」
核心を尋ねる杉元。アシリパは肯定する。しかし鍵の内容を問われると口を閉ざす。杉元は「その時が来たら教えてくれ」と、その秘密を許した。
杉元を見つめながらアシリパは考える、もし教えてしまえば杉元はとても優しい男だから一人で探しに行ってしまうに違いないと。
“魂が抜けるまで”と形容して思い返すのは、初めて目の当たりにした“狂人”不死身の杉元の顔。
これまで通り私だけが鍵を持っていれば、杉元は私のそばから離れられず、私は戦う杉元の強力な盾となってその身を守ることができる。
そしていざとなれば…そう…「道理」があれば、私は杉元佐一と一緒に地獄へ落ちる覚悟だ――

ええ~~~!?(シンクロ)
そういう方向なんだ…という個人的に斜め上の結論でした。故郷に帰って干し柿を食べたいと杉元は最期に望むんじゃないかと、それこそが杉元の未練なのではないかというのが信頼の“核”だったアシリパの中の杉元の存在は、様々な葛藤を経て、もう違うものに変わってしまったのですね…
どっちみち杉元はもう地獄行きを免れないと、あの姿を見て悟ってしまったのだろうか。
「弾避けとなってこの男を守れるのは私だけだ」それは杉元の命を守ることではあるが、杉元の心を守ることではない。

杉元自身が戦うことは避けられない。その中で杉元の魂はああやって抜けていくのかもしれない。それでも、何があっても私だけはずっとそばにいて杉元の身を守る盾となる。いざという時は私もこの手を汚し、共に地獄に落ちてもいい――

そうですか…。(なんだその感想は)
いや、結論は出すということが大事だからね。まあ良いんじゃないかな…。もう戻れないと杉元自身が自負してしまっているのは事実だからな。
殺さない紛争解決の可能性をアシリパに見出し、あれほど喜ぶくらいだから、杉元も本当はやっぱり戦わずにいられる生き方を人間の理想としているわけで…かわいそうにも思うけど。

そんな中待望の尾形百之助が再登場!
ムイムイというやけにかわいいオノマトペと共に、撃たれた兵士の服をネコババ
「あとで荷物取りに戻ったら足跡いっぱいあって荷物ぜんぶ無いの。服も靴もぜ~んぶ」
メコオヤシのこの話が回収されるとは思わなかった…。浜っちゃ浜だし。
でも足を撃てよ!撃ったか!?実はヘッドショットでした~みたいな軽いノリで失われた名も無き兵士の命は、このままヴァシリの存在の暗示としての意義しか果たさず過ぎ去っていくのかな…と思ったらこうして尾形の再登板に「死体」として重要な役割を果たしたのでなんか良かったなって。
聯隊ってそんなに人数いないし多分尾形とも顔見知りだった筈ですよね。お前の服と銃、山猫が持ってったぞ…あの世で憤慨してくれ…(良いことじゃなくない?)

でさあ、「だってもう使わないだろ?」「この銃だって…自分がブッ壊れるまで人を撃ちたいはずだ」と、例の「ところでよぉ…」フォントで物騒な台詞とともに全身バーンと登場して、のっけから全開のヤバさに面白くなっちゃったんですが、最初は「満鉄の時はわりと冷静に見えたけど復活後のテンションはところでよぉ系なのかな~」とか思ってたんですよ。フォントのニュアンス的に。でもあのフォント使われた時に言ってた内容思い出しててハッと思い至ったんですが、この尾形の言葉の“銃”って、“杉元”にかかってるのかもしんないなって。
隈あるし一見してヤク中っぽいのも相まって「“俺だって”ブッ壊れてえからよォ…」みたいなニュアンスの“だって”に見えなくもないですが、もう戻れない杉元に対して「“最強の矛”として“ブッ壊れるまで”人を殺して、アシリパの役に立ちたいよなァ?」という、この歪な相棒関係に対する超絶皮肉なのでは…

いきなり絶好調か? 相変わらずなんて嫌な所を突く野郎だ…再登場本当に嬉しいな…お前を待ってたんだよ…(万感の思い)
いや同じ話の流れで載っててメタ的にそう解釈できる余地があるというだけですけどね。可能性があるということに意義がある。
それにしても右利きで明らかに右が利き目だったし、三八式も沈んじゃったし、もう尾形のスナイパー生命は断たれてしまったんだあ😭と嘆いていたことを申し訳なく思うほどの余裕の左構えスタイルが鬼カッコイイ。いけるのか!?そっちでもスナイプできるのか!?どんだけタフなんです!?(人生ハードモードの威厳)
でもアシリパに対する偶像地雷です的なスタンスははっきりしてきたけど、偶像によって人を殺させられる兵士側、つまり杉元に対する尾形のスタンスってまだ謎だな。偶像のために自分を助けようとする杉元の言葉に口元で嗤っていたけど、あれはどういう感情だったのか…尾形は勇作の時もアシリパの時も、あくまで偶像を問うた側で、そこに集う兵士側ではなかったからな。
なんとなく同情的なものを感じなくもないですが。兵士代表として問うてたみたいなところもありましたしね。

ところで、私今回の話、杉元がメチャクチャ怖くて…
「ひょっとして 暗号を解く方法がわかったんじゃないのか?」って、とうとう核心に触れた問いかけをする表情にもヒエッてなったし、それ以上に「…!! ホントかよ…それは……何だったの?」という瞳に光が入った表情が超怖かった。尾形が逃げた!!の時の爛々とした目といい、最近の杉元は目がキラキラしてる時の方が怖いんだよな…

なんかただの私の印象なんですけど、刺青人皮が絡んだ時の杉元って、アシリパさんとか自分の命がかかってバーサーカー状態になる時とは全く別種の狂気があると思うんですよ。サイコキラー系の…
剥がした辺見の皮を船の上でじっと見る昏い目、ダンさんの牧場で怪しい男に「へえ~~~~~」と銃を準備する静けさ、鈴川からの囚人の情報に「…ほお」と関心を示した時の死んだ目、都丹の情報を聞いた時の「来た…!!」という顔…
なんか梅ちゃんの事とかともまた違う、本能的な…なんかまだ得体の知れない何かがある気がしてならないんですよ。本当にそういう一面があるのかどうかは分からないんですけど。白石じゃないですけど何だかんだ「こいつが一番おっかねえ」んですよね私にとっては…

今回アシリパが内心で杉元のために考えていたことを、口にされていない以上、杉元は全く知らないわけじゃないですか。金塊の鍵が何だったのかを問われて言い淀んだアシリパの姿は、杉元から見て「杉元が信用し切れないから言い淀んだ姿」以外の何物でもないと思うんですよ。
それを全くおくびにも出さずに「いや…アシリパさんに任せるよ。その時が来たら教えてくれ」と爽やかに微笑んで、アシリパが一人で「地獄に落ちる覚悟だ」ってモノローグしてる向こう側の、無表情な杉元の口元がめちゃくちゃ怖い。どういう認識で、どう考えているのか、アシリパに向ける笑顔の下には本当に何もないのか、安心し切れない所がある。
ここ最近杉元がアシリパを信仰しすぎ的な話になりがちでしたが、今回はアシリパが杉元を信用しすぎなのではという得体の知れない不安をとにかく覚えた。金塊の鍵を思い出したけど内容は明かさない、っていう態度をそんなに無警戒に、アッサリと示していい相手なのか…杉元佐一という男は…?
この怯えがあったんで、再登場した尾形のヤベー感じがなんかバランス取れてて安心しました。やっぱ抑止力って必要ですよね…ところで流氷の天使って尾形のことじゃないですよね?(錯乱)