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長文置き場

金カム211話「怒りのシライシ」感想

アシリパの考えが最早自分が恐れていた方向に固まりつつある事実を目の当たりにし、朝焼けの中立ち尽くす杉元。そんな杉元へ、遊女と朝帰りの白石がここにきてオッどうしたどうしたとビックリするほど痛い所を突く説教をかましまくる。
よくよく思い返すとヴァシリに撃たれた時も「はなから助けなんか借りるつもりはねえよッ」と突っぱねてたし、基本彼は第七師団のことを全然快く思ってないんでしょうね。前に捕まったし、それに網走監獄の現役徒刑囚が第七師団によって皆殺しにされるのを目の当たりにした経験はやはり白石にとって大きかったり? 刺青入れなきゃ自分も殺される立場だったかもしれないし。
そんな第七師団と手を組んだまま、全然切る素振りも見せずに鶴見中尉と顔合わせ前夜まで来てしまった杉元にメチャクチャうっぷんが溜まってたんでしょう。
そして説教の内容が杉元をdisりキロランケをフォローするものだったのは、ただただ単純に、ウイルクを実は殺していたことやそれをアシリパに黙って少数民族の味方になってくれるようあれこれ教えていた事実を“加味しても”なお、それでも白石の中ではキロランケの方が杉元より“まし”だからかなと思いました。
実際瑕疵はありますが、そこを甘く採点して良いように言っちゃいたくなる程度にはキロランケは白石に親切だったし、何よりもうキロランケは死んじゃいましたからね。非業の死を遂げた人間の生前の人物評価はそりゃあ多少美化されるでしょう。
あとキロランケやべえっつって一度逃げようとした時にキロランケが言い逃れをせずアシリパの判断に委ね、アシリパが残ると言い、逃げたがった白石だけ逃げていいとキロランケが気遣った一連の流れが効いてるのかなと思う。あそこでもうアシリパは村人Aには戻れない人間なんだなと悟ったんじゃないかな。
だからあの後ソフィアを脱獄させて本格的にパルチザンと合流する後戻りのできない運びになっても、もう白石は異を唱えなかったし。金塊が見つかったとして、それが独立戦争のために使われるとして、白石はそこからおこぼれをもらう…というプランであの時は一旦納得していたんだと思う。それが先遣隊到着&キロランケの死によりひとまずご破算になって、また本来のBet先である杉元&アシリパコンビが金塊を手に入れる線に戻ろうとしたものの、は?それ悪手じゃねえの?という方向に二人が突き進むので、この瀬戸際に酔った勢いを借りて腑抜けた不死身の杉元に一言物申してやったと。
「夫婦喧嘩は犬も食わねえからほっとくけどよ、うまい鍋食って仲直りしようぜ」と気を利かせたあの時からずっと、シライシは二人の仲人おじさんですね…「おじゃま虫だぜ」とかね…白石にしか見えないものがあるんだろうな…恋のために脱獄王になった男だからな…

個人的に白石がキロランケを「真面目」と称したのは土方と比較しているのもあると思う。土方が新聞を使ってアシリパアイヌの偶像に仕立てようとしている目論見を、情報として啄木から掴んだのは白石だったじゃないですか。本人の与り知らぬところでそんな話を進めてる恐ろしいジイさんよりは、本人の意思がそこに向くように焦らず成長を促し実際効果を上げたキロランケの方針は十分真面目、あるいは誠実と称するに足るものだったんじゃないか。
まあ私はこういう考えだったんですが↓

実際鶴見を拒否って金塊を見つけたところで、現状土方かソフィアか、どっちかと組まない限りはアイヌの役に立つことも出来ないと思う。金だけあっても使わないと意味が無い、そして大きなお金であればあるほど動かすには組織が必要でしょう。
それが分かっているからアシリパ樺太に連れていかれても土方陣営は余裕があり、マイペースに刺青人皮探しを続行していたのでは? 鍵を思い出す=セットで父の遺志を知る事になるのだから、アイヌのためを考えれば必ずそこで八方塞がりになり、契約の隙が出来るはずと。

まあその辺は今後の話だから一旦置いておきましょう。私今回の話読んで非常にモヤったんですよ。テンション上がんないし今週の感想はスルーするか…と思ってたんですが今日仕事がたまたまメチャクチャ暇だったので、何がこんなにモヤるんだろう?と真面目に考えて結論が出たのでせっかくだからこうして書いてます。
で、考えたところやはり杉元が気持ち悪いという結論に至りました。いやだからダメだとかそういう話ではないんです。尾形が逃げた!!と目を爛々と輝かせてる所とか元々気持ち悪かったし、気持ち悪い主人公なんて新しい!と以前肯定した気持ちは変わってないんですよ。これでキャラクター全員が気持ち悪かったら作品の問題ですが、そんなことは無いから。
ただ今回の杉元の気持ち悪さというのはこれまで見せてきたものとまた違う、新しい気持ち悪さだったんで、その新しさを言語化しとかないとモヤりが取れないなと…そういう今週の感想と捉えて頂きたい。

アシリパの「どんな男かはひと目見ればわかる」という発言も結構「ま~~~~たwwwwww^^」って感じでしたけどね。これまでのあれこれを思い浮かべて失笑してしまいました。でもまあ鶴見中尉がヤバいのは確かだし、“ひと目見てわかった”アシリパに対し鶴見一派に下ることを「アシリパさんのためになる選択だ」と本気で前向きに考えていた杉元の手前、自分の目で一度は判断して、勧めてきた杉元の顔を立てたと考えれば、わざわざ面通し→逃げろーッ!という茶番を演じる必要性があったこともまあ納得がいく。
鶴見と会ったら“杉元は”どうするんだ?と前日までアシリパは繰り返し尋ね、目的が異なるようなら(ここで道が分かれても)仕方がないという態度を一応示してはいましたしね。
そして杉元は、「私のことは私が決める」と鶴見をひと目見て下したアシリパの判断に、“迷わず”ついてきた。

でも杉元は結局さ、アシリパの今の考え方、目的、思想にまだちっとも納得してないじゃん?
冷たい表情で矢を引き出したアシリパに、杉元がかつてない恐怖の表情を浮かべたのは、覚悟を決めて遠くに行ってしまったようなアシリパが目の前の第七師団を“殺す”んじゃないかとビビったんでしょ?
でも矢じりに毒が付いていないことを目視して、「『逃げる気だ』ってすぐにピンときたぜ」=殺意はない、とホッとしたんだ。
何ホッとしてんの?
偶像問題何も解決してねえ。逃げるアシリパに並走しながら、アシリパの意思が攻撃ではなかったことに言及して、とっても嬉しそうな杉元さん。よかったアシリパさんはやっぱりそんなことする人じゃない、って安心したんだよね?
気持ち悪いんだよ!
この気持ち悪さっていうのは碌に話した事もないのに告白してくる知らない人間の得体の知れなさに似ている。そんな大胆な行動に出るほど思い詰めるまでの理想的なイメージを、会話すら交わさないまま“完全に個人の中だけで”創り上げたのだ、目の前の本人の生の姿はその偶像を証明するための後発的な実在に過ぎない!

アシリパが人に矢を向けて戦うことは依然として受け入れられない、「北海道をどうたら」って計画なんぞ知ったこっちゃない、でも杉元は他の選択肢などまるで無いかのようにアシリパについてきた。
そこには“選択の主体者がアシリパだから”という理由以外の理由は一切存在しない。アシリパの思想と杉元自身の考え方との合致、とか欠片も無い。アシリパがそう選ぶのなら、“無条件に”共に行動することを杉元は選択する。
その無批判性、非自立性を、私は肯定的に見ることが出来ない。その盲目さは“愛”とか“絆”とかいう言葉で形容できる、理屈不要の動機の形態なのかもしれないが、私にとってはそれは“依存”と呼べるものに過ぎないっ…!

金塊を見つけるとしたら鶴見よりアシリパだと思っていて、アシリパが鶴見と別の道を選ぶなら、金塊を狙う杉元個人としてもアシリパにつくのが道理…それは理屈としてわかるよ。
アシリパにはアシリパの意思がある、止められないと今回で実感した。守るなんておこがましかったって気付いた。「よし、“俺たちだけで”金塊を見つけよう」この“とりあえずの”結論は、久しぶりに杉元を心からの晴れやかな笑顔にした。それなら梅ちゃんや寅次を裏切ることにもならないし、そもそも杉元は誰のことも信用してないのは変わらない、自分しか信用してないから、結局誰とも心からの協力なんて出来ない。(杉元が鶴見に拾われたのは不可抗力であるから、背いてもそれは恩を仇で返すだけだとして)
だから“絶対に信じられるアシリパさん”と“不死身である俺”の二人きり、この相棒関係だけが安心できるコミュニティのすべて。
俺だけはアシリパさんを裏切らないから。その誓約の役割を改めて果たすものが、今回の“俺たちだけで”という結論だった。
でも迷いを吹っ切ったきっかけは“アシリパが戦わずに逃げた”からなんだよね。やっぱりアシリパさんは平和的な人だと信じられた、その清さを今後損なわなければならない道へアシリパが進もうとしていること、そこに対する杉元の拒絶反応っていうのは、本能レベルでまだ全く変化せずあるわけじゃないですか。
アシリパはもう北海道アイヌのために行動するつもりで、金塊を見つけることはアシリパ自身の目的に力を与えることで、アシリパさんがそう決めたなら、よし一緒に金塊を見つけよう。でも杉元はアシリパの矢じりに毒が付いてなかったことを喜んでるんだ。欺瞞だ!(頭を抱える)
まだ頭に心がついていってないだけ、というとそれはそうかもしれないですが…
このエゴだよそれは!という感覚に既視感があると思ったらアレだ、アシリパが金塊の鍵を思い出したが尾形には渡さないと決めた理由が“故郷に帰りたいという杉元の遺言の内容に疑わしい点があったため”だった時だ。
アシリパは杉元が“戦場から帰れない”ことをとても痛ましく思っていて、故郷に帰って好物の干し柿を食べたら戻れるのかなという他愛ない思い付きはアシリパの中で最早“祈り”になっており、だからこそそこをハズした尾形に即刻NOを突き付けたのであるが、しかし帰れないまま杉元が現在進行形で手を汚し続けているのは「二百円(=金塊)という免罪符があれば帰れる」という自己暗示があるからであり、それを叶えたいという“想いの強さ”を信じられるものの支柱に据える心理が、金塊争奪戦の相棒として結果的に杉元に手を汚させている立場であるアシリパにあることは、自家撞着でありエゴである…というあの時感じた気持ちと似ている(長いわ)似た者夫婦ということなのか?

私の考えは私が決める、そう宣言して攪乱のための矢を放ち走り出した横を、杉元は迷わずについてきた。
アシリパは「“杉元は”どうするんだ?」と曲がりなりにも聞いていた以上は付いてこない選択肢も与えているつもりだったのではないか。真正面から金塊争奪戦から下りて欲しいと言われ、それに応えられない代わりに離れる自由を作ろうとした。
でもやっぱりついてくるのかと、それならば、相棒でいる気ならば「するな」と言うな、何かを「一緒にしよう!」って前向きな言葉が私は聞きたいんだ。
お前は金が欲しい、私はアイヌのために金塊を見つける気でいる、ならばお前は自分のことだけ考えていればいいんだ、お互いの目的に役立ちあう、それが一緒に何かをするってことだ。ああ、言う事はわかるさ。
でも杉元にはその“自分”がないんだよ! 谷垣もそうだけど“女”のために奴らの“役目”はブレブレよ!
何がギラギラした一匹狼だよシライシィ…! あっでも一匹でいる狼は問題のある個体だって作中で解説が成されていたんだった。そういうこと? “群れる”という行為に適応した個体であればあるほど美しいという通底した価値観? なんてこった、もうお前のかつて目にしたギラギラした一匹狼は戻ってこないの? それは善なの? いいことなの? この「先のことや、難しいことは分かんないけど、ふたり一緒なら!」みたいな、ハッピーに愚かになっていく感じが…
そこまで依存するならさあ、せめて何かになれって話じゃないですか? 白石が言ったように恋人でも嫁でも娘でもねえのに…“相棒”って言葉便利すぎない? 排他的だけど将来を定義しないじゃん。後先を考えろよ。天気の子か? いやでもこれからなるのか? 金カムはラブストーリー?
先週ヒェ~wwwwってはしゃぎまくってさ、今回の方が私にはよっぽど地獄だったよ。でも何より残念なのはこの構図を気持ち悪いと思ってしまう私の価値観だよお! やめろォ! 私を照らさないでくれぇ!