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長文置き場

金カム208話「限りなく黒に近い灰色」感想

迫害

有古かわいそす;;
アシリパは首謀者の娘だし、基本差別しない人間(というより別の要因で差別されている側の人間)としか作中で絡む機会は無く、他の登場したアイヌも皆集団で登場していたので、せいぜい“違う地域の人”くらいのコミュニケーションしか発生していなかった。
しかし和人側に一人で混じった頑健な若い成人男性のアイヌである有古、ここにきてかなり厳しい立場に追いやられる。生まれた故郷と先祖の遺志を尊んだ、ただそれだけで犯した裏切りの、これが報いか…
土方歳三とわたしの大きな違いを教えてやろう。土方歳三の北海道独立計画にはアイヌからの信頼と支持が必要だ。したがってお前の裏切りに対しては徹底的な報復が出来ない。しかし私は和人もアイヌも区別なく同胞として、平等に制裁を加える」
恐怖による支配ッ!!! “こちらに付いて得るもの”ではなく“あちらに付いて失うもの”を提示して従わせる悪魔。
その人間の一番大事な他者への情までもを利用して掌握…かつて谷垣や月島にも行ったことを思えば、確かにこれが27聯隊式の平等なのかもしれないが…(白目)
改めてフチの存在が完全に監視下に置かれていることが恐ろしいですね。目を付けられた時点で、一族郎党すべて鶴見の掌の上か…。
ていうかマジで宇佐美怖すぎだよォ! 現実に軍隊(特に昭和の)では上官や古参兵からの理不尽な暴力が珍しくなかったそうですが、宇佐美いつも絶対えげつない制裁してるでしょ…半分趣味で半殺しとかにするでしょ…宇佐美上等兵と同じ小隊になりたくなさすぎる;; ド正論の嫌味&容赦がないが手段としての範囲を逸脱しない暴力に留まる尾形上等兵のいる隊に配属されたい;;
バレると分かっていて餌にする土方、アイヌをとると分かっていて逃げられなくなるまで泳がせていた鶴見、どちらからも良いように利用されて、顔の形が変わるほどの執拗なリンチまで加えられて…鶴見勢からも土方勢からも孤立したまま一人座り込む有古の姿が、哀れで哀れで;; 口下手そうで自分の想いを雄弁に語れるタイプの青年ではなさそうなところがさらに哀れを誘う;;
こちらとは真逆の庇護欲から来るものとはいえ、人生の先輩たる“大人”として有無を言わさずアシリパの行く末を“戦わないという選択しかとれないように追い込もうとしている”ダディ杉元といい、アイヌの二人はじわじわと、その意思すらも操作対象な“囲いの中の従属物”にされようとしている。何よりエグいのはその顕在化した支配関係が“発生した”というよりは“表出した”ように思えること。導く強者、従う弱者へと何処かで分かれるのではなく、初めから実は決まっていたかのような突然さと自然さで…。
しかしやはり鶴見と土方はこの争奪戦において一際“強い”ですね。双璧ですわ。
感情でやってるわけではなく有効な手段としてやってるだけだから悪びれもしないし冷静。新平への「私たちはお前が臆病者だとは言わん」とか、偶然舞い込んだ殺した夫婦の子供を“人質”の手元に置いていったりするような度量、心の余裕を見て、つい大人物だとか情けがあるとか思わされてしまうが、それは無害な弱い相手だからこそかけてもらえている温情、お目こぼしに過ぎない。そういう相手によって器用に態度を切り替えられる奴が一番信じちゃいけない奴なんだ。意気地なしムカつくと言いながら何の益も無いのに実際助けてくれた尾形みたいな奴の方がよほど信用できるんだ(※個人の感想です)
改めて尾形の信用チャレンジってめちゃくちゃ対等だったんだよね。教えてくれないのか?(直球)からの“お前が俺に教えたほうがいい理由”のプレゼン大会だよ。穏便すぎる…
「バアちゃんに元気な顔を見せてやれ」だもんな。人質? 何ですかそれは? そんなひどいことしていいはずがないじゃないですか…!!(顔を覆う)
でも非情になり切れないからといって俺じゃ駄目かなんて、そんな風に諦めるのは…悪ければ悪いほど生き残るなんてそんな…それが事実だとしても、そんなのは間違っていると思いたいっすよ…!
大事なものをタテに利用する側とされる側に分かたれる人間たちの中で、人質になり得る存在を全部自分で消してる手遅れな尾形にゃんはやはり異端のオンリーワンなんだ。
「若者を乗せるのがお上手ですね」鶴見が尾形を乗せるには、尾形には“元々持ってるものが無さ過ぎた”のではないだろうか? まさに孤高。鶴見に立ち向かえるのはやはり尾形だけなのではッ…!!

灰色

菊田は「残念だよ…」と言いつつ、まんまと有古を罠に嵌める仲介人として鶴見中尉のお供に返り咲いたわけですが。こいつこそ二重スパイでは?という気がしなくもないんですよね。
あと偽物の存在を今回初めて知ったってことで、現在進行形で尾形とグルという線も無いと見ていいんじゃないかなと思った。グルだとしたらもう少し密に情報共有してるんじゃないだろうか?
月島が尾形を「本部の飼い猫」と罵っていたけど、本部とつながってるとしたら菊田の方がそれっぽい気がする。根拠はないけど、出世欲とかありそうだし。
有古に持たせた五枚はすべて偽物だ、あちらに渡った偽物はきっと効果を発揮する時が来ると告げる鶴見。
こちらに渡った五枚は偽物の可能性が非常に高い、早いうちに厄介な偽物をまとめておきたかったから有古を利用した、これこそが欲しかったのだと告げる土方。
え? 江渡貝くんが作ったのは六枚で? 鶴見に渡った偽物は五枚で? しかし油問屋で夏太郎が入手したやつは? と戸惑う我々。
独断と偏見で推理すると、今回鶴見が土方に渡したのは実は全部本物説を推す。
まず土方の「手に入れた刺青人皮6枚は限りなく黒に近い灰色」という発言は、本当の“色”のことではない。ホシが白だとか黒だとかグレーだとか、そういう概念上の話をしていると思う。しかし鶴見が「偽物だ」と言った後なので、一見して“土方の手元に来た偽物はよく見ると黒に近い灰色(=本物と見分けがつく)”という意味に聞こえる。
でも多分江渡貝くぅんの作った偽物は“完璧”なはずだ。アーティストである彼自身がそう言ったのだし、そうでなければ判別方法をわざわざ用意する必要がない。
つまり土方の言い回しは読者へのミスリードで、ミスリードを使うということは実は偽物ではないんじゃないかなって。“本物の偽物”はまだ鶴見の手元で温存されているのでは。
では何故偽物を渡したと言ったのか?というと、それを言った相手、つまり菊田を攪乱するためではないかなと。菊田は二重スパイで、鶴見はそれを勘付いていて、刺青の情報を探っている菊田に“偽物の在り処”を偽って伝えることで後々有利に運ぼうとしているのではないだろうか。
そう思った理由はもう一つあって、油問屋で偽物を使ったのが本当だとしたら鶴見の手元に残っているのは四枚、偽物の数の計算が合わないこと。
あの計画で“偽物を使った”ことを知っている月島と鯉登の二人は、今樺太に行って不在。つまり今ここに居る人間は「鶴見の手元に偽物が五枚ない」ことを知らない。そして今居ない人間は「鶴見が偽物を五枚渡したと言った」ことを知らない。そうして偽物がどこに何枚あるのか、鶴見以外は誰にも分からなくすることが狙いなのでは?
「自分ひとりで作ったから私はこの紙を信じられる」鶴見は自分以外の誰も信用していないのではないだろうか。
しかし鶴見にはひとつ誤算があって、おそらく鶴見は「偽物が本当は六枚作られていた」つまり「江渡貝邸に置き忘れられた六枚目」があることを知らないのでは?ということ。
そしてもう一つ気になるのは、土方は夏太郎が掴まされた油問屋の刺青を「おそらく偽物だろう」とかつて自身で言っていたのに、今回“江渡貝邸に置き去られた一枚+今回渡ってきた五枚”で計算が合う、という発言をしたこと。
勿論「油問屋の一枚を忘れている」という残念な考え方も出来なくも無いが、今回久々に出てきた夏太郎の存在が私には少し怪しく思える。
夏太郎が持ってきた油問屋の皮はおそらく偽物だろう、と言った土方の言葉を、夏太郎自身は聞いていないのだ。だから少なくとも夏太郎にとって、今回土方が言った「江渡貝邸にあった皮一枚+今回の五枚で偽物六枚」という言葉に違和感を抱く要素は無い。自分が持ってきたものは本物だったと思っていればいいのだから。
つまり、土方の言葉は夏太郎に聞かせるためのものなのではないか。土方は土方で、夏太郎を疑っているのでは?
あの駅逓所関連の夏太郎の行動における描写が、あれで終わるにしてはどこか引っかかるものがあったんですよね。夏太郎が白だったにしても土方は黒だと思っているとかいう事もあり得そう。そして五枚すべてが偽物の可能性は低いと分かっていつつもあえて言い切ったとか。
まっ一番あり得るのは普通に言葉通り今回偽物が土方勢に渡ったっていう素直な解釈なんですけど~!
あと江渡貝邸の忘れ物が本物だった可能性もまだ残っているからな。江渡貝邸には津山の皮と江渡貝くんが持ってた皮、二枚の本物があったのだから。津山の皮を資料のために江渡貝くんちに置いていったことを思うと、今回永倉が言った「鶴見は常に一枚着ているはず」という情報も微妙に古いような気もしなくもないんですよね。多分火事の時に着てるのを目撃した白石経由の情報ですよね? 確かにあの後江渡貝くんにお披露目した時も着てたけど、杉元から皮受け取った時は着て楽しんだ後普通に脱いでる描写が見受けられるしな。まあ一度見た本物がその後手元に来てないことを気付かないとも思えないから、やっぱりあの鞄で鶴見の元に届いたのは本物二枚+偽物五枚だったと考えてますが…。
うーん考えれば考えるほどドツボだな。何より“作られたのは六枚”だという情報を第一発見者として土方勢+杉元勢に情報共有したのは尾形だったんだよな。あの江渡貝邸で尾形に会った事をおそらく鶴見に報告してない月島といい、誘拐事件の主犯だった鶴見の元側近三人組は、全員妙にきな臭い部分がある。そして鶴見も彼らを信用し切ってはいないし…うーん灰色ですわ~~~~