8番倉庫

長文置き場

金カム197話「ボンボン」感想

粉雪の降りしきる病院、粛々と行われる手術、医者が沈痛な表情で言う、「出来るだけのことはしたが呼吸も血圧も弱くなっている。明日の朝までもたないだろう」…
ええっ!? 今夜が峠!? そ、そんなに弱っていたのですか!? まさか尾形の末路がこんな…夜明けを待たず息を引き取るような静かな最期だなんて…心の準備が出来てないよ…。
「…なんとか助けられないか頼んでみる」
"何か"を取り出そうとしながら杉元は尾形の眠る病室へ。医者が言った結果を根性論でどうにか出来るとは流石に考えないと思うんだよな…お前絶対トドメ刺しに行っただろ。顔を上げたその表情は、尾形を死なせたのはアシリパの矢ではない、殺人鬼の己であるということにするための悲痛な覚悟を決めたものであったのだろうか? 最近安定して狂ってんな。
尾形もこれで終わりなのか…。

「尾形が逃げた!!」
エエエエエエエエ!!!?
MONSTER最終回かよ。詳しくないけど危篤の人間ってもうちょっと大人しいのでは!?
逃げたとアシリパに報せて尾形を探す杉元の目が爛々と輝いていてすげえキモい。その理由を想像すると…でもいいですねキモい主人公。新しくて。

活き活きと外へ捜索に向かう杉元、しかし大胆にもホシの隠れ場所は開いたドアの裏。裏をかいた密室トリックという感じの隠れ方しやがる…!
「Я ее зарежу! Ва ли его с ног!(この女を刺すぞ!その男を殴り倒せ!)」
ロシア語シャベッタアアアアア!!!?
ハンパねえ!!ハイスペック上等兵過ぎでしょ!? いやヴァシリ戦で「直接聞き出すさ」って言ってた所で確かに「ん?」と思ってたけど…その時の感想で私は確か「まさかロシア語も出来る?…いや可能性はあるけど、流石にそこまで有能なんてことありますう? 勝ってからそういや俺ロシア語喋れねえなって気づく感じじゃないっすかあ〜?」みたいな事を半笑いで言ってました。完全にナメてましたわ尾形上等兵のポテンシャルを。
スナイプ能力も無くなっちゃったしもう尾形はおしまいだあ~>< と悲観していたが、彼は決して狙撃能力だけの男ではなかったのだ…! 何の為に彼がロシア語を習得しているのかは現状全くの謎に包まれているが! しかしとにかく彼が金塊を手に入れたらやろうとしていた事というのは、やっぱり結構どでかい事だったのかもしれませんね。知らんけど。

ハサミ&人質とるのこれで二度目じゃないですか…一人でテロルするプロフェッショナルか? 立てこもりのプロだよ。
死にかけで装備は布一枚だけという状況から、そのへんにあったハサミとボンボンから奪ったチャカで一気呵成に事態を動かしてみせるこの行動力…大迷惑とは思いつつもある種の憧れのような感情を禁じ得ない。キレて壮大な悪足掻きを始めるランボーみたいな…。男のロマンの一形態という感じする。
まるで物扱いで生かすも殺すも他人に決められる屈辱的なこの状況に、エゴによる施しとしての治療が済んだ途端牙を剥くこのエネルギーよ。
彼はプライドのためなら気合いで笑って死ぬし、プライドのためなら気合いで死の淵から這い上がってみせるんだな。
もしかして尾形の行動というのは"逆ギレ"という言葉ですべて説明がつくのでは? じゃあ死んでやらあ!じゃあ生き延びてやらあ!じゃあ呪われてやらあ!!というね。健気な悪業は、世界から呪われた男の呪い返しなのかもしれない。
いやあ男らしいな。「かわいそうだがお前はゴミだ」って言われてそのままゴミ扱いに甘んじてたんじゃただのいじめられっ子で終わってしまう、この世はただ虐められるための場所でしかなくなってしまう。そこを「うるせーてめーらがゴミだ」と足掻くガッツ、生きるってそういう事なんすよね…!
かっこいい。漢だぜ尾形さん(思わずさん付け)
カッサカサの唇から「барчонок(ボンボンが)」とロシア語で吐き捨てる、伝えることが目的ではないその自己完結性…周囲に何も期待していないことのあらわれ。まあ私も正直「ボンボンが…」とは思っていたよね。尾形も思ってたんだろうね。それ以上でも以下でもないというこの醒めた感じ。言っとくけどお前の治療費払ったのそいつだからね!!(ちなみにロシア語は直訳すると『小さな男の子』になります。坊やだからさ…)
でもアシリパばっか気にして尾形を警戒するコイトの言葉に耳を貸さず、金まで出させてむざむざ危機に晒させたことを杉元はちょっと反省してほしい。案の定だよ。尾形をナメすぎ。妖怪なんだよ?

そしてこのタイミングでコイトの回想へ。何故彼が鶴見を信奉するようになったのか、そのルーツがとうとう明かされる模様。
ははあコイト少尉にもお兄さんが居たんですねえ。母上に似て色白の…兄さ…えっ尾形と被ってない?(ふざけんな)
いや「いつも顔色悪い」と色白確定したのは、この「母親に似て色白で」に被せてるのかなって…それにもし勇作にインタビューして尾形のこと語らせてもこのぐらい美しく尊いものとして語ってくれそうじゃないですか。「お母上に似て色白で…いつも私は規律を無視してまとわりついていたのですが、一度も怒らなかった。優しい兄様でした」って台詞と共に記憶の中のこちらを見下ろす尾形の目がめちゃくちゃ死んでるの。あれ?それ「ボンボンが」の顔では?(同列に語らないで)
まあそれは冗談として、“失った兄弟がどんな素晴らしい人間だったかを形容する”というこの構図、父上に語ったあの高潔な勇作メモリーと対なんじゃないかとは思っている。
そして褒めた後に「オイが死ねば良かった」と卑下するコイト少年と「俺が後頭部を撃ち抜きました」の尾形にゃんの差よ。尾形サイコーすぎるな(サイコとかけたシャレです)
ここの差が鶴見にたらし込まれるか込まれないかの差なんだろう。見せつける卑屈さは、埋めてもらいたい心の甘さと隙間のあらわれ…。悪魔はみな優しいのだっ…!
それにしても、色んな登場人物の人生に現れては多大な影響を与えている鶴見中尉がどんどん喪黒福造に見えてきた。あなたのココロのスキマお埋めします。
今回の隈すごくて毛逆立った鬼気迫る様子でドアの裏に潜む尾形の様子も完全にホラーだったから、鶴見中尉と尾形でホラー対決して欲しい。尾形は怪談的な怖さで鶴見は都市伝説的な怖さだよ。杉元もまあ洋画ホラー枠で加えていいかな…妖怪vs悪魔vs不死身のキチガイ(最後の凶悪さがひどい)

でも実際どうなんだろう、明日までもたないというのは誤診だったのか? 尾形は一晩中監視され続けてもピクリとも動かず案山子を演じ切ってみせた男なので、医者でもうっかり誤診してしまうほどの衰弱した演技をする事も不可能ではないという気もしますが…あるいは危篤状態というのは医者の協力による嘘だったのか。でもお医者さんたち殴られてるからな。
やはりマジで死にかけてはいるのか? この反逆は閃光のような散り際の足掻きに過ぎないのだろうか? ロシア語すら操ることが判明した今、レベルがちげえ!やっぱり鶴見を倒せるのはお前だけだ!という気持ちがひしひしと高まっているので何とかこの窮地を脱して欲しいところですが。
しかし脱出する手段なんてあるのか? 服も無いし…凍え死んじゃうじゃん。現状としては、これからどうするかは分からんがとりあえずここからずらかるのを当面の目標としている感じだろうか。
というか案外尾形の行動方針というのはずっとそういう「とりあえず向かいながら決める」みたいな超フレキシブルなのがデフォだったのかもしれん。土方に会ったのも偶然だったし。行動を追えば追うほど、“予定していた”行動というのは限りなく少なかったような気がする。雑だが対応力がすごいので何とかなるみたいな。
だとしたら根回し根回しの鶴見と気が合うわけがないんだよな…まどろっこしいことしやがってってなるんじゃないかな…まあまだまだ分かりませんけどね本当のところは。
とりあえずキロランケは尾形がロシア語分かることを知ってたのかということが気になるな。白石アシリパがお茶してるあいだ二人で聞き込みに行ってたという描写があったけど、尾形は隣で突っ立ってただけだったのだろうか。あと、ヴァシリさんと何か話したのかどうか?

何にせよ尾形は本当にかっこいいキャラだなと思いました。これからどうするんだよ…というここ最近の展開への絶望感を吹き飛ばすような強さが見られて嬉しゅうございます。
山猫は野良猫という意味もある…やっぱり生きようが死のうが、とにかく自由であるってことが大事だよな。曲がっていてもその根性は本物ですよ。自分で勝手に生きているその生きざまが、やっぱり魅力的だなと思います。