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長文置き場

金カム184話「流氷源」&16巻感想

「おまえさっき何かとても重要なことを」

もうすっごい!尾形大好き!話が早くて最高!
やっぱ伊達に不死身予備軍で生き残ってないっすね。戦場じゃ即座に判断・行動しないと生き残れないですもんね。異変を自分以外に気付かれぬようさりげなく隠し、一対一で話す場へ持っていく鮮やかな手際。こええ~ッ
でもわりと安心した。タイミング逃さないようにずっと見張ってたわけですけど、いざその時が訪れた今、勝手に判断して勝手に姦計巡らすんじゃなくて"アシリパが気付いたことに尾形が気付いたこと"を「思い出しただろ」とサシで本人に迷わず告げるこの行動に、ある種の信用が持てる。アシリパ本人の話を聞く気があるんだなって。
アシリパがインカラマッに話聞いた直後に直球で「キロランケニシパがアチャを殺したのか?」と本人へ尋ねた場面を思い出しました。こういう部分が少し二人は似てるのかもしれません。他者に委ねない個の判断に秀でてるがゆえに、いざというとき腹芸をせず剛速球な感じが。あるいは子供の素直さ?

狼の一匹と山猫の一匹

今のところ、尾形はどこまで行っても“個人”ですね。キロランケとソフィアにアシリパの異変を悟られないように隠した今回の行動で、パルチザンに協力する気はさらさらないってことも確実っぽい。
何かをさせたい思想家でもなく、金塊が必要だと追いかける選手宣誓もしない…群で取り囲んでアシリパに「ようこそ」とはしない(出来ない)人間。戦闘能力を抜きにした、"主張の強さ"という点において、尾形は常に50:50の立場でしかアシリパの前に立たない。
そんな尾形ならば、なんというか正義とか役目とかを抜きにした対等な素の会話をするんじゃないかっていう期待があります。
金塊を追う主体として“対象”のアシリパに何か言うのではなく、金塊に関わる“主体”としてのアシリパに問いを投げかける存在になってくれるんじゃないかって…つまり尾形の方がアシリパにとっての対象になる。観念的な話ですが。
あと単純に、そうして群れを持たない尾形が、それほど恐るるに足る存在なのかという疑問がある。
この作品における尾形の立場っていつも誰よりも弱いと思うんですよ。俺が正しいってスタンスで誰かと会話したことが一度も無い気がする。
尾形の強さっていうのは失うもののない強さであって、何か大事なものへの帰属意識のある押しの強さではない。いわゆる低みの見物というか…
尾形が他者に対して出来る主張といえば、精々「みんな俺と同じはずだ」くらいのもの。「テメエらだってお互いに信頼があるとでも言うのかよ」とか。
”お前らは正しくない。俺の方が正しい”とは言えない。”俺が正しくないように見えてもお前らだって正しくないんじゃないか?”としか問えない。尾形に正しいよって言ってくれる人はいない…何故なら彼自身が誰のことも正しいと言わないから。皆の言う正しさの正体とは、より大きなものに正しさを見出し、その正しさを己に仮託することだから。
何故誰かについて行けないのか。どうして群れられないのか。ウイルクに心酔したキロランケとソフィアのように、狼の群れの合理性に心酔してリーダーシップの手本としたウイルクのように。鶴見のカリスマに服従する第七師団のように、第七師団を運命共同体の手足とする鶴見のように。土方の道行きに命を預ける破落戸達のように、かつて同士と共有した志を貫こうとする土方のように。あるいは、アシリパに己を照らす光を見た杉元のように、仲間に信用されたことで生き方を変えた白石のように。そうした方が、きっと幸福なのに。“美しい時間”を過ごせるのに(出典インカラマッ)
でも、その尾形の孤立が、欠落ゆえの爪弾きではないといいなって…。確かに尾形は多くのものを持ち得ない。だがそれは流されているのではなく流れているのだと…迎合しない彼自身の正しさがあるがゆえの、選択した個であるのだと思いたいんすわ…
だって“正しさ”に理由はあれど、そこに帰属出来ることに理由はないから。運不運は理由たりえない。
俺が正しいと言わず、悪として立ちはだかる尾形はある種だれよりも無害なんですよ。他者を悪にしないもの。くっ…(何かを思い出したらしい)
群で生きる狼が一匹になることと、個で生きる山猫が一匹でいることの意味は大きく違う。彼の往く“我が道”の孤立が、山猫の孤高であってほしい。そして願わくばその結末に、悪人である彼だけの正しさがあればいいなと思う。
いや、まあ来週満を持して帰属先の群れが大公開される可能性も無くはないですけど。でも私が言ってるのは魂の帰属先の話だから…ッ。尾形が“われわれ”こそが正しいと主張できる群のボスなんて、有坂閣下しか認めないから…ッ(偏った意見)

アシリパの行先

この物語においてアシリパの目指す先は常にアチャだった。父を殺したのっぺらぼうを追い、父かもしれないのっぺらぼうを追い、父だったのっぺらぼうの足跡を追い。父へのその愛情の中には、きっと憧れもある。ものの考え方、自然との付き合い方、すべて教え込まれて育てられたわけですから。
アシリパは一人の人間として浮かび上がるウイルクという男のことをどう感じているんだろう? 目的に対する狼の合理性、非情さ、群を守るという目的自体…その生き方…ソフィアとキロランケはそれを美と称した。中尉の言う“機能美”にも通じる思想。武器か獣かの違い…つまり非人間性。人間を超越したところにある牙であり、弾丸が、彼らを心酔せしめる…
キロランケ曰く後々変わってしまったそうですが、樺太が語る父のかつてのその正義は、アシリパにどう響いているのか。極東連邦国家の構想を聞くアシリパの表情は、非常に静かでしたが…
彼女は作中、ずっと目的と感情の間を揺れ動いているんですよね。
人を殺したくないと言った。けれど杉元のことを赦す。殺さなくていい人間は殺すな(=殺すのも仕方ない相手も存在する)と歩み寄り、何があっても助けると言う。
のっぺらぼうが本当に私の父なら連れ出す必要はないと言った。アイヌを殺したことをどう受け止めればいいか分からないと後に言っていた通り、それは重大な罪だった。けれど父を前にして涙は流れ、立ち尽くす。
父のことを知りたいと思っていた。娘として、金塊を託された者として知る義務があると考えた。けれど喪失の辛い記憶を、心は忘却させていた。
叔父のマカナックルが言っていた、「大人びてはいるがアシリパは寂しがり屋のいたいけな子供なのだ」という言葉の通りに、何かに成り切れない。善たらんとする目的、一緒にいたいという感情の間で止まっている。
でも人間であろうとするそのアシリパの善性と葛藤は正しいと思います。父の在ろうとした姿と反するその正しさに生きるためには、父への憧れから巣立たないといけないんだろうな。
ところで、「狼に追いつく」とはつまり“狼のようになる”という意図が込められていると解釈していいのですよね。
狼のように…合理的な、自分たちが生き残るために余分な優しさが削ぎ落とされている状態。たとえば、人の皮を剥ぐようなことでも、目的のためならばやり遂げるような?
村一番の長の娘であり、"ウイルク"の由来を知った上でその名をつけたアシリパの母親が、彼の目論見を何も知らずにいたとは思えなくなってきましたが…ウイルクを変えたのはやはりアシリパの母なのだろうか?
あとやっぱインカラマッが気になるんだよな~「確かに綺麗な人でした」ということはアシリパの母の顔を知ってるんですよね。樺太から来たばかりのウイルクと共に過ごしたのだという話ですが、その時既にアシリパの母とも出会っていなければその顔を知る機会が無いですよね。別れてから一度も再会していないのだから。そして「彼と毎日過ごしました」というインカラマッ…後々添う相手であるアシリパ母がすぐ近くにいながら? すべてが怪しい…横恋慕のにおいがする…

再会

いやあそれにしても白石の死亡フラグが早々に気持ちよく折れて一安心ですわ。一貫して占いを信じちゃうタイプの男だった白石ですが、らしくない行動をとったことで運命を変えられたということなんでしょうか。
でもらしくない行動とった途端に骨の亀裂が“死”に変わったんすよね…あれか、"インカラマッにとっての谷垣"が"白石にとっての杉元"だったのか(靴下が入れ替わってると知った時のアシリパの顔で)
杉元と白石の関係は、凍死から生還して以降親友のようでもあり、しかし杉元への白石の恐怖は本物であったり、白石を信じてねえと言いつつ助けたいと言ったり頼み事をしたりするようになった杉元がどこまで気を許しどこまで許してないのか読めない部分があったりと、変遷が読めなくてなんか複雑だなあという印象なんですが。ただ私が人情を理解していないだけなのだろうか。
しかしこれで白石が尾形とキロランケのことをどう思ってたのか言葉で聞けそうですね。網走を出てから、少なくとも白石だけは二人の行為をほぼ確信してたと思うんですけど。
ここが再会して、尾形とアシリパは一対一の問答中で、流氷の上で…一体今後どうなるんでしょうね!?
どうしようパーティーシャッフルでキロランケ&ソフィアと杉元&白石が合流し、アシリパ&尾形と杉元抜き先遣隊が合流したら。第七師団Withアシリパになるな。
まあ尾形はどこ行っても四面楚歌だから逆に安心だね(?)アシリパもどこ行っても大変そうですが…鍵を思い出した今、アシリパが今一番向かわないといけないのは、フチのところだと思いますけど。
ただしんみりエピソードだった凶悪夫妻の赤子がフチのところに預けられた事実が、鶴見がフチに接触持てる糸になりそうで若干怖い。肩を揉まれながら人質にとられるフチという構図が再び来てしまったらどうしよう…鶴見はたぶんバアちゃん子じゃない…
ところでなんで鶴見がフチのこと把握してんだろうと思ってましたが、今考えると普通に二階堂が教えたんでしょうね。観測手を一人雇うだけでも代償の大きい孤高の山猫…もう一人でスナイプしていくしかないね…

人斬りの末路

16巻の特典オマケカバーはスケベマタギでした。うれしいけどレジの時すごい羞恥だった。淫乱テディベア的な嗜好の女だと思われるだろ!
しかし16巻、加筆がいつにも増してすごい…きっと絵というより演出にこだわる人なんですね。全体的に描写が増えて演出意図がめちゃくちゃ分かりやすくなってて、特に用一郎編が本紙の1.5倍くらい面白く感じました。主観と客観が別の世界になるこの描写大好き。
しかし金カム中でも屈指の切ない話ですね。鬼の副長土方歳三のセンチメンタルが覗けて、ぐっときてしまいます。過去を否定したくない土方歳三と、過去を悔いる人斬り用一郎。「私はこの地で人間として生きた。自分だけ申し訳ない…」かつてと変わらぬ情熱を持ち続ける土方さんが用一郎の負い目に触れて、一瞬思わぬ傷を負ったような表情を浮かべる場面がね…。
金塊を追う罪人たちの行き先のひとつを示唆されるようです。走っている人間はゴールを目指しているが、人は静止して初めて疲れを知る。走ったまま死ねる方がある種、不幸ではないのかもしれない。過去を捨てた地で安息を得た用一郎は、重くなりすぎた身体と精神を抱えて、ただ一人疲れ、生き永らえていた。
罪すら忘れる前に自死しようとするしょぼくれたお爺さん、それを助けるのは縁もゆかりもない人間の優しさ…かつて斬り捨てた人間にもあったかもしれない人情…嗚呼。
扇状の岩肌がまるで舞台のように見えます。自然のすべてが舞台装置と化して、用一郎に在りし日の京都を見せる。その幻影から戻したのは、根室を忘れないようにと妻が渡したエトピリカ…。ひしひしと伝わる亡き妻への愛が切ない。
人は何のために生きるのか…役目のためか、それとも役目を持たぬただの人としての幸せを得るためか…
しかし犯した罪をいつか償う日が来るとして。役目のために払った犠牲と、役目を果たさぬ無為、どちらがより重い罪なのだろう?
きっとそれは終わりまで分からない。しかしこないだの関谷といい、土方さんは良い引導の渡し方をしますね。めちゃくちゃかっこいい。若い時もめちゃくちゃかっこいい。すごい。

オロチックウラー

フレーメン反応のコマ大好きだから単行本化して嬉しい。くさいにおいを嗅ぐといつも無言でこの顔してるんだろうな…かわいいなコイツ…
少数民族生活様式や文化が大国の支配で塗り替えられることに、キロランケが深い憤りを感じていることが分かりやすくなっていましたね。
あとオロチックウラーに行くくだりが、初めからキロランケの計算だったことがニヤリ顔によってはっきりしました。
これ、尾形は「エゾシカっぽいの居るはずだから見つけたら撃て」とだけ言われてたんじゃないだろうか?
「言われた通り撃ったけど」と頭ナデナデしてたら、それ人んちのもんだよって言われて「マジかよ」ってナデナデしてたのがあのドンマイされるコマなのでは。その後白々しく「だってよ」って通訳されて全部計算通りだったと知り「よく言うぜ…」とあの真顔。いいように使われてるう!
それにしても「一緒に行くか?アシリパ…」のコマは読んでるこっちも照れるっすよ…何なんすか突然…なんかキラキラしてるっすよ…
オロチックウラーして密入国する計画を話してるとこの加筆では、さっき気に入ったベルダンをまた手に取って眺めてる尾形にゃん。この既視感は気球で38式を嬉しそうに眺めていた時の…やっぱ単純に持ちたくて持ってたんだろベルダンを!?
アンマーが38式持ってたってことは、「気に入ったから少しの間交換して」ってわざわざキロランケに通訳してもらって頼んだんだろうか。それともジェスチャーか…あるいはそれを横からキロランケが通訳してくれたか。銃好きすぎだろ。まあ銃は尾形の唯一の味方だからね、仕方ないね(恵比須顔)
遮蔽物も何もない雪原で狙撃手が狙っていると分かっている中、立ち往生してしまう状況って、自らも優秀なスナイパーである尾形はかなり嫌でしょうね。舌打ちしつつ伏せろアシリパッと即座に対応できる上等兵殿頼もしい。作画崩壊気味だけど。
でも「手練れの狙撃手だ」の横顔は最高にかわいいッ。いや美しい…?獲物を狙う猫科の肉食動物の顔っぽい。そして丸々一ページ加筆のヴァシリさんはカッコイイ!!次の巻楽しみだなあ。スナイパー対決が一番好きです。

そしてサーカス篇めちゃくちゃ面白いんだけど笑いしかないので特に話すことがなかった。月島軍曹の顔見てるだけで笑える。悲しくなってきますね…まともなのが一人だけだとただ浮いてるだけの人なんだよな…そして今回のオマケカバー三種の内一つが「月島はつらいよ」という。男の哀愁、見せてもらいました。