8番倉庫

長文置き場

金カム15巻感想

なんてむさ苦しい巻だ…

なんかもう汗臭い。視覚情報なのに汗臭さ感じる。
それでいて最後は息苦しい月島軍曹の回想で胃が痛くなって終わるという。男の巻だ…女の身ではちょっと入れない…オフィス街昼時の吉野家みたいな感じ…(偏ったイメージ)
ていうか加筆がすごすぎじゃないですか? 分かりやすくなってるのは勿論だし、ガンソクさん辺りなんかは丸々一話分くらい増えてる感覚でした。このページ無かったよね…? あれっこのページも無かったよね…? みたいな。
ガンソクさんがよりフューチャーされて更に魅力的に。好人物ですよね。思想だけなら普通にボクシング漫画に出て来そうな人ですが、このキラキラお目目で殴ってくるノリは中々お目にかかれなさそう。こわい。
しかしそんな哀しきモンスターに対峙する杉元はもっとこわい。不死身のバーサーカーとかもはや厄災では? スタンド要らずのオラオラ繰り出せる天井知らずのポテンシャル…迷わず武器装備するし…タチ悪すぎる…
「第七師団…」とスリラー映画のボスみたいになってたとこですが、経緯とかしがらみとか忘れて素になると、やっぱ杉元の中では依然として第七師団は敵なんだなあと。網走からここまですごい冷静に行動を共にして来ましたが、杉元のこういう、誰にも言わない自分の考えをしっかり隠し持ってるところが一番おっかない。しかも作中でもかなり頭脳派というか、頭使ってる男ですよね。脳筋と見せかけて。
でも手を組むけど心の底では信用してないっていうのはずっと一貫してますが、そうやって杉元が他人を信用しないのは、何よりも自分のことが信じられないからなんだろうな。
完全に杉元という名の猛獣となってグズリとタイマン張る画とか最高です。ガンソクさんと哀しきモンスター同士で殴り合う姿は痛々しく、そしてやるせない。
なんか最近杉元のことを深く考えると、これほど優れた一人の男でありながら、どうあがいても不器用にぬかるみを歩くその生き様を思って好きッ…ってなっちゃう。生きろ杉元そなたは美しい。

ガンソクさんからは刺青の写しを貰えたばかりか、アシリパさんの情報までGET。
えっ! アッッ!!!
トドを仕留め損ねた尾形の顔が本誌よりかわいくなってるうううう!!!!!
本誌の時の絵は丁度今15巻記念の壁紙として公式サイトで配布されてますが、どっどういうことです!? じゅうぶん可愛かったのによりかわいい!!!! 神よ!!!!
トドさんの額に銃弾ぶち当てて逃げられて「む?」ですよ。なにそれカワイイ。「あれっ死なない」みたいな。百之助ちゃん…!
しかしアシリパさんは荒波が似合いますね。益荒男ですわ。
エタシペを与えられ「ヴェッ」と衝撃的な顔を見せる尾形。この顔この漫画で一、二を争うほど笑える。瞳に溢れる闇がやばい。
そして「ヒンナか?」って訊かれてゴックンするとこ、本誌だとコクリ…と頷いていたんですがその二重線が消えてますね。反動をつけて飲み込んだのか、それとも明らかにまずそうなのにアシリパさんに気遣ってるのか…? と尾形の意外な一面にペット感MAXだったんですが、ヒンナ関連は170話に持ち越しになった模様。
代わりに震えの線だけが残って、改めてこいつ…震えて…?ってなりました。
震えの走るほどの味わいだったんでしょうか。銃が凄腕でも内臓は無力ですからね。
「頭に命中したはずなのに…斃せなかった」
杉元を彷彿とさせる言葉で、仕留め損ねたトドを見つめる尾形にゃん。
トドはヒグマと同じで頭の骨がかなり頑丈なのだという。
「今度強い奴を倒す時は頭を狙わないことだな」
脂身ですごい事になってるアシリパさんの顔をまっすぐ見て、アドバイスをちゃんと聞いてる模様。
もしかしてヴァシリさんへの銃弾の当て方がああだったのは、このアシリパさんの忠告を真面目に聞いたからだったりするんでしょうか? 素直か?
そんな何だかんだ和やかな三人を遠巻きに見ているキロさん。そろそろ本誌ではこの複雑そうな男の内面も詳らかになってきそうな気配ですが。それにしてもやっぱキロさんが父、白石が兄(あるいは親戚のおじさん)、尾形がペットって感じのイメージあるなこのパーティー。
あれっ、狐の飼育場に訪問したとこ、尾形の銃の持ち方がわざわざ描き直されている…!? なんかより大事そうにしっかり持ってる形に変更されましたけど、元の絵でも全然違和感なかったのに何故そこまでして…!? わからない! すごい! どうして!? こだわりなの!? どういう!?
お腹あたりに添えられた左手が妙にカワイイですね。警戒してるみたい。
「のっぺら坊がウイルクであることは~」から「暗号を解くかぎがあるはず…でいいな?」までの言葉そのままに、尾形はキロランケから勧誘されたんでしょうか。尾形がキロランケに同行すると決めた理由より、キロランケが尾形を信用して連れてきた理由の方が気になる。どの辺で尾形もーらいって決めたんだろう?(花いちもんめかな?)
「刺青人皮が全て集められても~」の言葉は、今まさに暗号解読に着手しようとしている鶴見の動きを読んでいるような発言。果たして尾形は鶴見の上を行っているのかどうか? 鶴見を出し抜く、というのはやっぱり尾形の中で大きいウェイトを占めてる狙いだったりするんだろうか。
しかし「この樺太が彼女を成長させれば…」というキロランケの言い回しは恐ろしいですね。自分の考える思想が絶対に正しいと思ってなければ出てこない言い回しだと思います。人間的成長=キロランケの思想に同意してアシリパさんの方から協力しようという考えに至ること、と定義してるわけでしょ?
用一郎曰く「アイヌ」とは「人間」という意味だということですが。ううん…キロランケの考えってなんかこう…暑苦しいんだよな。
とりあえず発言上は完全に、アシリパという存在を鍵として利用しようとしている尾形。対して、キロランケは彼女を利用しようとしているわけではない。それが逆に厄介。
キロランケの話を真面目に聞きつつ、アシリパさんはその誘導をちゃんと冷静に考えて受け止めてる様子ですが。もしこの先アシリパさんの選択が狙い通りにならなかった時、キロランケはどう出るのだろう。確信犯はそういうとこ、おっかないですね。

二階堂のくだりもいっぱい加筆。有坂閣下も描き直されてるゥ!? どうしてぇ!? 元の閣下もじゅうぶん素敵だったのによりチャーミングに!? なに!? こだわりなの!?
ところで茨戸の時の「尾形百之助は軍人の家系で~」的な話とか、こないだのキロランケの過去の話とか、鶴見中尉はわりと込み入った話を二階堂相手にだけする傾向がありますね。共有しても問題ない相手だという認識から? もしかしたらこうして壊れた相手だからこそ鶴見中尉は信用し、だからこそ手厚く面倒をみるのでしょうか。嫌な想像ですが。
そして巻のしめくくり、表紙のナイスガイ月島軍曹の過去話へ。
ガンソクさんに手厳しい発破をかける軍曹シブ~い。キラメキを残し去っていく最後までサワヤカなガンソクさん。きっとこの人青年時代は江渡貝くぅんみたいな好青年だったんだろうな。そのナリで殴りかかってくるんだろうな。こわい。
本当に、心の痛む回想です。月島軍曹はとても真っ当な人で、抱く感情も犯す罪さえもひどく真っ当だからあまり語れることは多くありませんが。
死の淵で蘇る一番美しい思い出の後に過る、鶴見中尉との一場面。「満州が日本である限りお前たちの骨は日本の土に眠っているのだ」「お前たちの骨を守るために我々は狂ったように走り続けるぞ」
きっとその言葉、その思想が、鶴見中尉に従うことに対して月島軍曹が一番意味を見出した瞬間、姿だったんでしょうね。
追加された台詞、「そして死んでいった者たちのためにも」。思えば江渡貝邸で出くわした尾形にも、よくも戦友を殺せたものだと軍曹は怒りを露にしていました。基本的に情が深い人なんでしょう。そしてその捨てられない情が、軍曹に多くのものを棄てさせる。網走で機関銃の補助をする軍曹の姿は印象的でした。この巻の表紙もそうですが。
金塊が戦友のためになるという、中尉のその言葉だけをよすがに忠義を尽くす。軍曹も薄々は分かってるんだろうと思いますが。そこには欺瞞があるということは。
しかし軍曹にはもうこの弄ばれた九年間と、地獄のような戦場で夥しい戦友を失くしたという胸の痛みしか残ってないわけです。歩んだ道は過去となって変えられない生き様になる。
せめてあの戦友たちの遺骨を前にした中尉の言葉だけは本心であって欲しいと軍曹は願ってるでしょうし、私も願ってます…絶対悪い人だけど…でも目的の中の一部ででも、戦友たちのためっていう大義は本心としてあったらいいなって…まあせっかく生き残った戦友たちを貧しい環境に陥れたりとかしてるのも中尉ですけど…でも、そこが少しでも本当じゃないと、軍曹が浮かばれないから…。
しかしこうして考えるとやっぱり花沢中将の件は軍曹も知らなそうな気がしますね。だとして、二人だけの秘密をどちらかが明かす日は来るのか? まあそれは置いといて。

煙に巻くような鶴見中尉のいご草ちゃんへの介入ですけど、個人的には死んでないというのは本当なのかなと思います。最後に言った事は、本当なんじゃないかなって。
どうしてあのタイミングでわざわざ佐渡出身と名乗るサクラみたいな奴使って一旦“いご草ちゃんは生きてる”って話を翻したのかというと、終戦間近の奉天で、いご草ちゃんが死んだ自分を想ったまま生きているという情報だけを持っている月島軍曹が、終戦後万が一いご草ちゃんの所へ行って離脱しないよう仕上げにかかったんじゃないのかな。
撃たれたのは予定外だけど、月島軍曹がやっぱりこの上なく重用できる部下であることを再認識できたから結果オーライ。そしてシメに月島が死刑を免れたのは本当に鶴見の計略の賜物であることをネタばらしで理解させ、同時に一度生まれた自身の工作に対する月島の不信を無かったことにする。己に瑕疵はない。必要なことだった。そして致命的な恩と、生きてる一人の優秀な軍人だけが残る。
月島軍曹は、ただただ「敵わない」ということだけを解らせられた。命も人生も掌の上。この人は強く、己は救われてここに存在する絶対的に下位の立場の人間で、この人にとっては自分などどうとでも出来るものなのだと。
戦争は終わり、一人佇む川縁、手をすり抜けて闇に落ちていく良心。
本誌掲載時のアオリ、『そして悪魔は仮面を被る』を可視化したような、加筆されたラスト。
つらい。
悪魔ですわほんま…悪魔のドヤ顔ですわ…
情深さをつけこまれる軍曹やゾッコンの江渡貝くんなんかを「若者」と称して皮肉気に笑った妖怪尾形にゃんは勝てるんでしょうかこの悪魔に? きみは若者どころか赤ちゃん的なとこあるじゃん?
しかし今の所倒せる可能性があるのは師団長殺しの尾形しかいない。いやでもわりと端々で中尉の影響受けまくってるのが見受けられるしな…不安だなやっぱ…でも軍曹が覚悟キメてしまってることがハッキリした今、頼れるのは山猫ちゃんだけだから…いつかこの悪魔をギャフンと言わせてやってくださいよ! 頼みますよお!