8番倉庫

長文置き場

金カム169話「メコオヤシ」感想

ううっ…(顔を覆って突っ伏す)なんなんですか今週号の余韻は…切ない…真夏だというのに吐息白く煙る雪景色に一人佇んだような寂寞感をかんじる…ううおお…今回のおはなしトッテモ…スキ…

ところでこのブログはツイッターには適さないような長い感想文になった時なんかに放り込むため設けたんですが、尾形が出ない時は全く更新されないという分かりやすすぎる現状に自分で笑ってます。いや違うんすよ、感想書いてない時でもすごい楽しく面白く読んでるんですが、ただそういう時は「おお~~~」っていう感嘆の吐息だけで満足するんですよ、感情のキャパシティに収まる範囲で楽しめているのでそのまま飲み込めるんですよ、ただ尾形は感情のキャパシティを越えてくるんです、尾形が出てくると精神が不安定になるんですよ。飲み込めない大きすぎる感情を言語化して細かく刻んで消化するプロセスが必要になってくるんです、分かっていただけますか(勝手にしろよ)

アシリパさんと、先週引き受けた行方不明の女性の写真を使って彼女らの行方を聞いて回りつつ、樺太アイヌの集落に滞在している杉元一行。村で“メコオヤシ”が出たという話を聞いたエノノカちゃんが、チカパシにそのオオヤマネコの昔話について教えて聞かせます。怖い話っぽく顔を険しくして話すエノノカちゃんが可愛すぎる…迫真の表情で怯えるチカパシもかわいい…話の内容もかわいい…子どもたちかわいい…
オオヤマネコさん、その呼称だと分かりませんでしたが別名の「リンクス」だとどっかで聞いたことあります。改めて画像をまじまじ見ると、すっごい賢そうな生き物ですね。瞳に理智が宿ってますわ…口元の線がはっきり黒くてちょっと微笑んでるみたいで、風格感じる…
でも化け物として昔話になるくらいだから、あまり遭遇しない生き物なんでしょうね。特徴聞いてオオヤマネコって分かる軍曹物知りィ。
そしてオオヤマネコと聞いた鯉登が不敵に微笑む。「ふん…尾形百之助じゃないのか? いよいよ奴らに追いついたか」
ヒエエエエ急に尾形の名前出されても心の準備が出来てないよおッ! 名前が出ただけで息を呑むこの感覚、私は尾形を恐れている…? と一瞬思いましたが早い再登板に喜びすぎなだけです。
「なんで尾形なんだよ」呆れたように、ちょっと笑って言う杉元…このあと「本当にくだらねぇな…」と渋く切って捨てるところまで、尾形のことに対する杉元の態度がまるで何事もなく、ただ一緒に旅してた状態から今別行動とってるだけみたいな自然さで、なんか目の覚めるような感覚を味わいました。
というのも、杉元の中の尾形の存在ってものは今揺らぎの状態にあるんだなと思って。杉元のキルスイッチって非常に強力かつ鮮明ですが、その分どこで入ったのかってこともよくわかるじゃないですか。第一は殺される前に殺すため、二階堂兄弟に立ち向かった時やキロランケと初対面時に第七師団出身と聞いて軍刀に手を掛けたような。第二は刺青人皮のため。対辺見や、親分と姫騒動で囚人疑いがあったオッサンと話してる時の「へえ~~~(銃用意)」みたいな。刺青人皮の時ほどじゃないですが、ナメた態度に対してスイッチに手をかける素振りを見せる、というパターンもありますね。ダンさんに対してや、門倉に威圧した時とか。それと裏切りに対して。そして、第三にアシリパさんを守るため。
尾形とキロランケに出し抜かれ、杉元にぶっ殺すスイッチが入りましたが…不死身だった杉元が死一歩手前まで追い詰められた転換期に、私の中で色々考えさせられるものがあったんですよ。杉元は死なないために多くの敵を殺して生き残ってきた男じゃないですか。そしてその殺した屍の山が杉元の心を殺し続けているわけです。
尾形&キロランケと言いつつ、キロランケは杉元のことはどうでも良かったみたいだから、実質その“転換点”は尾形の狙撃vs杉元の悪運という一対一の構図。かなり遠くから、暗闇の中で正確に頭を撃ち抜けるチート性能だからこそ殺されかけた杉元。何故今まで杉元は不死身だったのかというと、天からの役目云々を抜きにすれば、単純にただただ強かったからですよね。幼い頃から寅次が一度も勝てなかった天性の格闘センス、天性の靭性ある筋肉、スイッチ式によって最適化された精神。それをとうとう追い詰める者が現れた、でも助かった、だからその相手を殺す…そこには終わりがない…ということを、最大のピンチによって改めて実感させられたというか。積極的に生きているようで、それは悪運という条理にただ生かされている生の気がして。追いついて殺して、それで杉元はどうなっていくんだろう? 死なないために殺してきて、そうして続いた生で、生を肯定するには与えたという実感が必要で、それを得るために金塊を手に入れようとやっぱり死の危機に瀕しながら殺し続けて…“我”に返っていない…つまりそれが戦場から帰っていないということ…
干し柿を食べれば帰れるのかとアシリパさんは訊いた…しかしそこに今のままでは帰れないから、帰るため杉元は金塊という大義名分を欲している…新たな屍を増やしながら…じゃあ金塊を手に入れるまで、そうして過去に帰るまで、杉元は変わらないのか? むしろそれで変われるのか? その過去から現在に至るまで続いてきた生は変えられないのに? 傷は結果として残り続けるのに? それは本当に、帰っているのか? “我”に?
そういうことをくどくどと考えていました。先々週で「生きるために食う」アシリパさんの眩しい存在に杉元は救われていたんだってこともよく分かったんですが、でもそれはそれとしての光であって、未だ遠い道標、あくまで帰った先の理想の人間の姿であり、生きるために殺し続ける業という現在この旅路で自身が背負っているものの直接の解決ではない。
己と違う尊いものへの崇拝、無私の奉仕、その先に報いがあったとして、その瞬間から先に許しというものが見えるかもしれないけれど、しかし人生が一続きのものである以上は今生きている己もまた許されるべき生きた人間であって、或る何かを達成した瞬間生きることが許されるのではなくて、あくまで己が“この己”を許すのでなければならない、清いと感じているその存在に同じ存在感をもった人間として同じ時間を並んで生きていくためには、汚れたその手を己で拭ってからでなければならない…
そういう、なんというか私の中で杉元という男の落としどころがあと一歩分からなかった所があったんですよ。ガンソクさんのお陰で“己で己を許せ”という示唆は得たけれど、まだ何か足りないと。“己を許してくれる綺麗なもの”であるアシリパさんとの関係性だけでは、どうにも昇華し切れない個の人間としての弱さが残るんじゃないかって。
でも鯉登に“人を化かす”山猫と言われ顔つきが険しくなり、「泥棒猫は撃ち殺せ」でスイッチの入った顔になった今回の杉元を見て、腑に落ちたというかちょっと感動したんです。杉元の今の尾形ぶっコロ理由が、アシリパさん連れ去り>(越えられない壁)>裏切り>己への狙撃って分布になってて、そして己への狙撃、つまり己の命を脅かしたことへのキルスイッチは既に解除されてるように見える。なんで尾形なんだよ、って笑って、出自への嘲りをくだらないと吐き捨てる杉元の心は、一人の兵士として一人の兵士を殺そうとした“尾形百之助”を許しているように見えるんです。
で、杉元は「一度裏切った奴は必ずまた裏切る」と言って、“裏切り”に対して強い反感を持ってもいた。多分白石が自身の裏切りに対する杉元の報復をああまで恐れたのは、競馬場での「俺があの子に言うと思ってんのか」という杉元の絶対アシリパさんを裏切らない決意を聞いていたから。実際白石を気球で許した杉元は「白石は俺たちを裏切ってなかった」から許した。裏切りを許したわけじゃない。
でも今回、お前は山猫にだまされたじゃないか、つまり裏切られたじゃないかと言われた杉元は、険しい顔になったけど、絶許というまでの表情の変化には見えなかった。「まあな、許せねえな」ぐらいの、スイッチONとまでは行かない余裕があるように見える。
そして、泥棒猫…アシリパさんが絡んだ事柄に聞こえる中傷になって初めて、スイッチ入った顔になった。
この、どういう温度差で今尾形への殺意を持ってるのかってことが見えるような描写で、えっ杉元成長してんじゃん…!と初めて杉元の道筋に光明が見えたような気がしたんですよ。
アシリパさんと杉元のツーショット表紙で「別れなければ再会できない」みたいなアオリがついてましたが、これは相棒同士一旦距離を置いての各自のレベルアップ期間なのだという意味だと思ったんですけど、でも杉元の方が成長しなきゃいけないのにハラキリショーしてる場合じゃなくなぁい!?アシリパさんは成長たくましいよぉ!?と、もどかしく思っていた部分が、でもそう言いつつどこを成長させればいいのかは分からなかった私のモヤモヤが、あああ~~~~!!!つって。これか~~~~!!!つって。
つまりキルスイッチの破壊。不死身の殺戮マシーンからただの杉元へ。「自分を制御できなければいつか取り返しのつかないことになる」取り返しのつく自分へ。
いやそうなると死亡フラグビンビンになるじゃねえかって、私もそれは恐ろしいし絶対嫌なんですが、でもそこを通らなければ杉元は救われないんじゃないかって…未来に進めないんじゃないかって…!
そしてその破壊に必要なのが、許してくれる光ではなくて、許せなかった闇なんじゃないかって。杉元が己を許せるようになるには、己に許せない行いをした山猫を、許す必要があんじゃないかってね…思ったんすわ…
まあ今は前述の通り“揺らぎ”の段階ですから、どうなるかは全然わかんないですけど…。そして尾形の方がどう出るかって問題もあるし。でも尾形の方は尾形の方で、亡霊を背負いながら、何かを見つけようとしてる途中だと思うから…
最終的にこのライバルっぽい因縁の二人が、お互いの存在をお互いに役立てられればいいなって、今回しみじみ思いました。

それにしても「本当にくだらねぇな…」と目を伏せる杉元さんマジで渋いすね。かっけえ。普段恐れられてるガキ大将がいじめられてる仲間をたった一人庇うみたいな男気感じますわ。
そして山猫の話題になった時に痛ましそうに目を伏せるゲンジロちゃん…! くっ…!
ゲンジロちゃんに対して、金塊全然興味ないし皆の思惑とか全然察知しないしマクロな視点ゼロだしどんくさいしどうしてこんなに女性から一人モテモテなのよォ!?どこがいいのよォ!と言いつつ、それはそれとして抱かれたい気持ちはメチャクチャ分かるという複雑な思いを持て余しています。ほんとに朴訥な男なんだよな…きっと師団でこういう話になった時もこういう顔で黙り込んでいたんだろうな…確かに女に本当に愛されるのはこういう男なんすよね…わかる…(だまれ)
そして一人で尾形をdisりまくる鯉登少尉。小気味よいほどに真っ直ぐ見下した嘲り。鯉登を見てると「金持ちになりてえな~~~」っていうすごいポジティブな気持ちが湧くんですよね。ボンボンっていいよな…生まれた時から特権階級なんだよ…もはや不公平だなんて気持ちも起こらないよね…“嘲笑というものは何と眩しいものだろう”という金閣寺の一節を思い出しました。
多分この四人の態度の中で、尾形が一番気に入るのはどの態度かっていうと鯉登の態度なんだろうなって思う。変に同情されるよりめっちゃdisってくる鯉登の方が好ましそう。そしてそういう所が鯉登は大嫌いだと。鯉登の言う「あの性格」っていうのはつまり「生意気な性格」ってことなんでしょうね。
私鯉登と対面した時の尾形のナメくさった態度が大好きなんですよ。フード取って見せた笑顔がね。あの状況あの立場で「おう元気そうだな」みたいな感じの。そして「相変わらず何を言ってるのかサッパリですな。興奮すると早口の薩摩弁になりモスから」ですよ。煽りスキルたっけえ~~~~!!!
多分尾形の鯉登に対する印象って「草」って感じだと思う。キエエエっつってアクロバット披露した軽業の神の御姿を見たらめっちゃ笑顔になりそう。心底馬鹿にしてそうなイメージある。どんだけdisられても一片もムカつかなさそう。水と油…

それにしても大変な事実を明かしてくれたものですね。「山猫の子供は山猫…」ど、どうなんでしょうね? 説明の通りだとしたら「人に取り入ってたぶらかす」ぐらいの意味どまりなのかな? エロい意味はないですよね? ないですよね軍曹???(軍曹にきかないで)
単なる芸者の意味なのか、それとももっとひどい「芸よりも枕に長けた芸者」の意味なのか。噂ですから、きっとどっちの意味合いでもとる人間が居たんでしょう。それで単なる芸者の意味だと思ってた人が、ちげーよ枕芸者って意味だよwwwとか言われてマジかよひくわ~みたいな、逆に枕芸者とナチュラルに思ってたけどいやそれはないでしょwwwとか言われて無意識にそういう目で見てた自分を恥じるみたいな、いま今週号を前にしてこの現実世界で起こっているような下世話な光景が師団内でまことしやかに繰り広げられていたわけですよね、うわ~~~~死にて~~~!!!!(感情移入)
ヤバくないすか、サノバビッチ的な所謂「ビッチの息子」じゃないんすよ、「ビッチの子供はビッチだな」って意味に受け取ることが可能な悪口が公然と囁かれていたんでしょ? いやらしすぎる。初めに言い出した奴がどういうニュアンスのつもりだったかはともかく、噂が広がった後は尾形を淫売呼ばわりしてた人間が確実に一定層居たということでしょ!? なんて想像をしてんだよ!!!! 尾形にゃんはラッコ鍋で頭くらくらするっつって気絶しかけた性欲絶滅危惧種なのに!! 兵営でも横になれ今すぐにッとか全部脱がせろッとかそういう目で見られていたんですか!? 尾形の人生はどこまでハードモードなんですか!!!???
何が辛いって絶対これ勇作さん尾形のこと哀れんでたじゃんやっぱ…尾形的にはそれ超嫌でしょ…でも哀れんでも仕方ない状況だったんだよ…勇作さんは心優しく高潔なお人柄で、それでいてまだ年若い青年に過ぎないから、放っておけないと思ったんでしょ。私は味方ですって、態度で示したかったんでしょ。あなたはそんな風に思われるべき人じゃないと、もどかしい思いを抱きながら、兄様と慕う様子を周囲に見せつけて、せめて何か伝えることが出来ればと思っていたんでしょ。それが完全に逆効果で状況を悪化させているだけであること、そもそも己の存在そのものが山猫が捨て猫になった原因であることなんかは目に入らずに。死にて〜〜〜〜(感情移入) もうやめてほっといて!どうしようもないの!大体の人間は醜いの!何もかも持っているからといって何もかも出来るわけじゃないの!思い上がらないで!こっちに来ないでぇ!
ていうか、勇作さんを誑かそうとした遊郭事件の時の「たらしこんでみせましょう」って、笑顔でなんて大胆なことを言うんだ…いやらしい…とドキドキしてたんですけどそういうことだったんですか!? 「アイツは山猫の子供らしく上官をたらしこんでるんだ」って噂されてるの知ってる上で「マジでたらしこんでやりますよ(笑)」っていうハイパー自虐ジョークだったんですか!? 笑えね~!!!!! 片腕だけにといい、冗談のセンスにすら恵まれなかったのか!!??? 笑ってる場合ちゃうぞ!!!
それに対して「あっちは高貴な血統のお生まれだからな」って煽る鶴見中尉も言葉責めに過ぎるよね!? 言われた尾形の「血に高貴もクソもそんなもんありませんよ」って言葉もより重たくなるっ…! 何も思ってないわけじゃない、当たり前だよ、嫌じゃないわけが無いんだよ…
つーか一番気になるのは鶴見中尉の心境ですよ、「尾形にたらしこまれてる上官」という存在が噂に上るとして絶対その筆頭に挙げられてるじゃないですか!? 周囲にそういう関係に見ている目があると確実に把握しているであろう鶴見中尉はどう思ってたんですかその件について!?
鯉登少尉のシメの言葉も意味深なんですよ、「泥棒猫」って。それがもし荷物を取ったメコオヤシに対してだけでなく、山猫たる尾形に対しても称された言葉だとしたら、そして言葉から連想される俗なニュアンスを含んでいたものだったとしたら、鯉登少尉が「この泥棒猫!」って言う“盗られたひと”なんて鶴見中尉しか居ないじゃないですか?
マジで鶴見中尉と尾形ってどういう関係だったんですか? お膝ナデナデにはどういうニュアンスが? お二人はどういう出会い方を?
人をたらしこむ性悪呼ばわりしながら「泥棒猫」というのもジワジワきますね。盗られた意識があるのかっていう…

江度貝邸での月島軍曹の「飼い猫」という特殊な呼称もこれで納得です。さすが実は一番オラオラ系の軍曹、「てめえ前山殺しやがったな裏切り者のビッチが、今は山猫らしく本部に取り入ってたらしこんでんだろうがおぉん!!?」という煽りまくりのブチギレだったわけですね! その上で、そんな事言われ続けてきた原因である父上へのコンプレックスを解消したいだけなんだろうがお前はっていう罵倒だったんですね!
キッツ〜〜〜!! 同じ父親殺しの猛者だけあって言うことエグ〜〜い!
それ聞いて「相変わらず若者たらしこむのお上手ですね鶴見中尉殿(笑)」みたいなこと呟く尾形。強〜〜〜〜い!!!
「現在進行形でたらしこまれてるテメエが言えたことかよ(笑)さすがっす鶴見中尉殿(笑)(笑)」ってことでしょ? スルースキル高すぎる。どっから来るのそのメンタルの強さ??

私、温泉回で尾形が股間を三八式でさりげなく隠してるシーンが大好きなんですよ。こんなにカッコイイ隠し方初めて見たとか勿論そういう絵的な面白さもありますが、あれアシリパさんが来たから隠してるんですよねきっと。戦闘後にゲンジロちゃんたちと合流する時は物凄い堂々としてるし。
小さい女の子に見せるべきではないっていう意識が自然とある、その慎ましさがステキだなって。遊女にも敬語だったし、普通よりも根が貞淑な男なんだと思うんです。
それなのに普通よりもふしだら呼ばわりされてるなんて…かわいそす…ラッコ相撲にも全然参加せず寝転がってるだけの本マグロなのに…
潔癖ではないというか、そういう世界にこだわり自体が無いから、言われてもそんなに気にせずいられるんでしょうけど。

そして視点は渦中の人へ。
遠く離れた杉元の殺気を察知したように一人振り向く尾形。わりとテレパシーするんだよなこの二人…殺気と殺気でつながる絆…(?)
メコオヤシ、アチャに聞いたことある!!ってテンションぶち上がるアシリパさんかわいい。「そうかネコお化け美味しくなかったか」ってホンワカしてる表情といい、どんな知らないやべえ一面があろうと大好きなアチャはアチャなんですよね。めっちゃくつろいでるアチャと、その腹をすごい勢いで殴ってるちっちゃいアシリパさんの回想コマ和む。
キロさんの「アクがすげえ多くて参ったよ。お前の親父はマズそうな顔してた」という言葉に滲む気心の知れた親しみが、何とも言えず不気味。狙撃させて殺した事実と、昔のウイルクのことをアシリパに語る懐かし気な様子との乖離がヤンデレみを感じさせてならない。それだけ“変わってしまった”ことがキロランケの中で絶対的に許せないことなんでしょうね。変わる前のウイルクへの情が見えれば見えるほどそう思う。
そうして件の皇帝暗殺テロの首謀者に会いに行こうと誘うキロさん。変化した後のウイルクを全否定するキロランケを、この強烈な女傑はどう捉えるんでしょうか。あと首謀者だった頃からこんな感じの女性だったんでしょうか。これがキロランケさんの挙げた魅力的な女性の条件である「肉付き」ということ…?
もうとりあえず言う通りに進むしかないんじゃないのという感じで吹っ切れてる様子の白石に比べて、アシリパさんにはグイグイ進ませるキロランケに対する「ええ…」って感じの躊躇が見える。恐れ…というよりちょっとずつ違和感を感じてんのかな、キロさんへの。
尾形は最早キロランケの話聞かなくなってて好き勝手な方見てる。その尾形を、遠目でアシリパさんがこの時見てるような気がするのは穿ちすぎでしょうか?
小さい引きのコマなのにアシリパさんに目が書き込まれてるから…ただの風景的描写なだけで、このコマにそんな意図はないのだろうか。
どうしよう…って迷った時にアシリパさんの中で尾形がちょっとした安定剤になってたらいいなって。信用するとかじゃなくて、無言でついてくる無所属の一匹猫が、何度も言うようにちょっとしたアニマルテラピーみたいな感じで役立ってたらいい。よくわからんし、意見を聞く必要もないそこに居るだけの無口な男…「とりあえず尾形は…よし居るな」って感じで冷静になれそう。

そんな尾形、皆が名を口にしながらも誰も今回姿を見ていない“猫の化け物”メコオヤシとただ一人遭遇する。
フリとか大ナマズとかサクソモァイエプとか、色々伝説っぽい生き物と遭遇してきましたが、一人だけが見て誰とも共有されないというのは初めてのパターンですね。
こちらを見つめる大山猫と、無言で見つめ合う山猫。静謐……天葬の棺の時もそうでしたが、尾形の物語は質量のある静寂が取り巻いているな…
何か違う生き物を一方的に見つけたというより、意思の通じる同格の存在の目と目が合ったという風情。
こないだ、飼い猫が失踪したら近所のボス野良猫に「ウチのに会ったら帰ってくるよう伝えてくれ」って頼むと戻ってきたり連れてきたりしてくれるっていうネットの伝聞を読んだんですが、言語を発する生体器官を有しないだけで動物は人間の言葉を判っているというのは普通にありそうな話ですよね。
この場合、逆に尾形の方が動物の意思を理解しそうな生き物な感じ。
“出会った”という雰囲気ながら、毛皮がすげえ高く売れたというキロランケの話は聞いていたのか、おもむろに銃を肩から降ろす尾形。この肩紐抜いてる尾形の絵めっちゃかわいい…祖父ちゃんの銃で鳥撃とうとする百之助ちゃんもこんな感じだったのかな…
しかしアシリパさんが行くぞって迎えに来てくれて、目を離した隙にオオヤマネコは姿を消した。雪が積もっているとはいえ、一瞬で音もなく。呼びに来たアシリパの目にも留まらぬ速さで。
本当にそこに居たのか?と化かされたような、ちょっと険しい表情で誰も居なくなった雪の上を見つめる尾形。
「なにかいたのか?」いたような。いなかったような。
それには答えず、前を見て…固まった一行の足跡とも、残っているオオヤマネコの足跡とも違う、たった一人の道を真っ直ぐ歩いていく、孤高な背中。
『我が山道を往け。堂々と。』

泣きそう。
かっこよすぎるでしょ…なんなんだよもう…胸が一杯だよ…
少なくともアオリは尾形を祝福しているよね…そして尾形の前にだけ現れた山猫も、祝福のような何かの気がします。
「まあいいか」という感じで顔を上げる尾形の表情は、「あれが山猫か」と悪くないものを見た清々しさが感じられるようでもあり。
選ばずついて回った呪いを多く受けてきた中で、広い世界に出れば、本物に出会うこともある。
生きてるのだから生きてていい。
うう。なんていい話なんだ。今回尾形一言も喋ってないのに。
心っていうのは、言葉そのものじゃないんですよね…。猫が喋んないけどお願い聞いてくれるみたいにね。
尾形の心っていうのは見えにくいし聞こえにくいけど確かにそこにある。それを見通していそうなオオヤマネコさんの眼。
ああ~~~。尾形~~~~。生きろそなたは美しい。ものの~け~たち~だけ~~~~(エンディング)