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長文置き場

金カム165話「旗手」感想

なんのために生まれて 何をして生きるのか? 答えられないなんて そんなのは嫌だ…

http://j-lyric.net/artist/a04bc64/l006900.html
上記はアンパンマンのマーチの歌詞です。愛と勇気が友達の勇作さんにピッタリだと思いました。ご査収ください。(死んだ目で)

勇ましく皆を鼓舞する勇作殿。勇気を作る、ぴったりな名前だったんですね。「勇作殿のおかげか弾に当たらんわ」と、彼の姿を頼みに前進する兵たちはみな、本当
は恐ろしい。冷や汗をかきながら、死と隣り合わせの戦場を狂ったように走り続ける。目前に迫る敵を殺し続ける。殺されぬよう祈りながら。祈る先の偶像を求めながら。
その中でひとり、汗一つかかずに…旗手の姿を見ている男。

周りに誰もいない塹壕に居残り、黙々と“作業”する尾形。遠くで動いているものを淡々と撃っていく表情に滲むものはない。目標をセンターに入れてスイッチ!目標をセンターに入れてスイッチ!
きっと撃たれた方は何が起こったのかも分からず死んでいる。尾形の射撃性能というのは本当にチートなんでしょうね。夕張で「少しでも身体を出せばそこを撃たれるぞ」と、軍曹含め兵全員を恐れさせた腕前。相当遠くで様子を見に顔を出しただけの狙撃手も容易くヘッドショットされる。味方にいればこれほど頼もしい存在はいない。一体尾形は何人日露戦争で殺して、そのお陰で何人の戦友が助かったのだろう?

「勇作殿は思った以上に勇敢な人物のようだ。皆の心が掴まれている」
鶴見中尉の負傷前って、なんかモロに政治家って感じの雰囲気がありますね。勇作殿の影響力の強さに対し、厄介そうな表情です。
確かに勇作さんがもし生きてたら、鶴見中尉のクーデターに乗ってくる兵はもっと少なかったでしょう。まず確実に勇作さん自身が乗ってこないし。そもそも生きていれば何としても父親を殺させまいとしただろうし。
「では殺さない方向でということですか……分かりました」
冷淡~~~~。ボルトを操作しながら答える妖怪。この尾形にゃん幼げで少年兵のようだな。というか今回はもう全編にわたって、鳥撃ってた頃からちょっとおっきくなっただけの百之助ちゃんにしか見えなかったですが。
尾形にゃんの理解力が良すぎて、なにが「では」なのかこちらはサッパリ分かりませんけど、たらしこむの案の定失敗→操れない人間が無駄に地位あって発言力持ってるの邪魔だから殺そう→なかなかやりよるわあいつ。人心掌握の資質ある。使えるかもしれんからまだ様子見よう…という流れでしょうか。
そして聞き分けのいい百之助ちゃん。弟の進退の話も「はーい。ころしません」という感じで中尉の仰せのまま。イイ子だな~~~(白目)真面目に一人で黙々とお掃除するしな。こんなお利口さんな子を鶴見中尉はどうやって手懐けたので?

時は現在に戻り、先週よりは少し穏やかな顔になった風邪っぴき尾形。目閉じると奥二重なんですよね…いたいけな寝顔だ…ヴェポラップ塗ってあげたい…と思ったら、え、これ包まれてるモコモコ、アシリパさんの着てたレタラさんのご親族の毛皮じゃないっすか? や、やさしい…アシリパさんやさしいよお…。尾形にこの毛皮が似合うかどうかは審議中です。
おでこに巻いてるのは、氷とかじゃなくて、ありがたい鉢巻きですか。うわ~効きそうだな~。……。
「尾形がさっき頭が痛いと言っていたから」
ほらぁ!!!絶対タイコが頭に響いたんだよぉ!!!(顔を覆う)
でもトランスに入るような異様な雰囲気によって心拍数が上がり、血の巡りが良くなって早く治るとかいう副次的な効果もありそうな気がするな。
シャーマンの人に幽作さんが憑依するのでは!?とか勝手に盛り上がってドキドキしてたんですが、そういうのじゃなくてもっとこう神的存在との交信を通じたお祈り的なソレだった模様。
ここでセワ(偶像)をアイテムとして出してくるこの構成のおそろしさ。痺れるう…
そしてシライシにあげるとしてフィーチャーされたのが“子供の男性器”のセワというのが意味深ですね。お守り(偶像)としての童貞そのものじゃないですか。このセワも持ってたら撃たれなかったりするのかな? 妖怪には効きませんがねハッハッハ。

「兄様大事な話とは何ですか? もうすぐ夜明けの時間に…小隊長殿に見つかったら大変ですよ」
夜明け前の密会とはロマンチックな。宵闇の荒野、辺りは死体の群れ。地獄の底という雰囲気を白ずきんに導かれて歩いていく勇作殿。
「ここです」
え、獲物だ~~~!!!尾形の十八番、“どんなもんだい”だ~~~~!!!!
「勇作殿… 旅順に来てから、誰かひとりでもロシア兵を殺しましたか?」
“ロシア兵を殺しましたか”という丁寧な言い方がいいですね。露助、と称した杉元のように、相手を無条件に貶めることによって自分より下の“モノ”とし、罪悪感を軽減させる心理は前週で触れた遊女に対するモノ扱いにも通じるところがあると思います。ヒトを壊せない人間も虫ならば潰せる。人は人を虫のように殺す。罪悪感があるからこそ相手を見下さなければならない。それが新たな罪だとしても。
ならその仮初の傲慢さが要らない人間は? 自分だけは殺されたくないと願わない人間。

旗手はあくまで味方を鼓舞する役割で銃こそ持たないものの、軍刀を抜いてみな戦っている。しかし勇作はそれすらしていないことを尾形は気付いていた。
「旗手であることを言い訳に、手を汚したくないのですか?」
無垢な闇が問いかける…
「そんな…違います!!」
「ではこの男を殺して下さい」「自分は清いままこの戦争をやり過ごすおつもりか?」
「…………」

「勇作殿が殺すのを見てみたい」

尾形が初めて他人に何かをねだった…
なんて無欲なおねだりだ。無欲と言い切るけども。自分がいつもしていることを一緒にしようよって誘ってるんですよ。自分はできないけどやって、じゃない。“狩りの仕方を教えるよ、鳥を仕留められたら一緒に食べよう”と構造的には同義だよ。
男兄弟というのは一緒に悪さもするものなんでしょう?と遊郭で官能的に誘ったのはちょっとムリして演技していたんだけど、今度はほんとう。自分の軍刀を差し出して、殺してみせてくださいと乞う顔は、手を差し出し菓子をねだる子どものように幼い。それでいて尾形の望みは貰うことではない。あげたものを、受け取ってもらうこと。
“用意しました。どうぞ召し上がってください”
本当にごんぎつねだなお前は…。もし勇作さんがここで願いを聞いていたら、尾形はきっと勇作さんのために何だって出来たんだろうな。

「出来ませんッ」「父上からの言いつけなのです『お前だけは殺すな』と」
…………
「軍旗はまわりの兵士にとって神聖なものであるから旗手はゲンを担ぐために童貞であり…」
「なおかつこれは、軍のしきたりでも何でも無く、あくまで父上の解釈ですが…」
「敵を殺さないことで、お前は偶像となり、勇気を与えるのだと…」
………………………
「なぜなら誰もが人を殺すことで罪悪感が生じるからだと…!!」

………………………………………………………。

「罪悪感? 殺した相手に対する罪悪感ですか? そんなもの…みんなありませんよ」
百之助ちゃん心なしかポカンとしてる。
「そう振る舞っているだけでは?」
だってみんな実際殺してるじゃん。バックにはその証拠の死体の山。いっぱいあるんだよ。みんないっぱい殺してるんだよ。だから。
「みんな俺と同じはずだ」
無垢………。

自分の弱い部分を守るために、自分で自分に嘘をつく人間のエゴが、尾形には分からない。
殺すぜぇ~?皆殺しだぜぇ~?とか言ってる男が隣に居たとして、その膝が本当は震えていることなんて尾形は知らなかった。
虚飾というものを“人間”はいつの間にか自然に身に着けているけれど、尾形にそんなものはない。
きっと全ては“教えられる”こと。
“何”の話をしているの?

だ、抱きしめた……。泣いてる………。
めっちゃ抱きしめたいしめっちゃ泣きたいと思ったタイミングで勇作さんがやってのけた。やるじゃねえか童貞。しかし体格差が…えぐい…。
旗手は長身が要件。それにしたって半分同じ血から出来ててこの差よ。やっぱ栄養状態の差なのかなあ…
鼻筋がしっかり通り、角ばった男らしい輪郭にガッチリした長身の勇作さんはとても男らしい立派な青年の佇まいです。まるで置いていかれた兄を、遠く追い越してしまったように。

「兄様はけしてそんな人じゃない」
「きっと分かる日が来ます」

「人を殺して罪悪感を微塵も感じない人間が この世にいて良いはずがないのです」

そうして包むように抱きしめられた尾形の顔は、広い肩で髭も隠れてしまい、まるきり子供の百之助ちゃんの顔でした。
ずっと父親を待っていた、あの小さな子供。
母の葬式がはじまります。
急いでください。父上。
………。

これは殺しますわ。

しゃあないすわこれは。ページめくったらいきなりシュパァァもやむなしですわ。
静かに硝煙を上げる銃口を向けた尾形は美しい。人を殺す尾形は美しい…。
けど、この殺しは“いつも”と違ったんだね。振り向いたあの瞬間の勇作さんの、夢。きっと本当は振り返ったりはしなかったのでしょう。すっくと立って、高みからこちらを見据える彼の“魂”の幻を見ている。
罪悪感、というハッキリした定義がそこに当て嵌められるのかどうかは分からない。
ただ、“何か間違えたような”気がずっとしているのでしょう。あの日からずっと。
だから忘れられずに、こうして不意にその幻が現れて微笑む。歪みのない変わらぬ高潔さで。
尾形が何かのためじゃなく、自分だけのために人を殺したのはこれが初めてだったんじゃないか?
そうしてその殺しが、未だに憑りついて離れていかない。
“きっと分かる日が来ます”
そう言って抱きしめたその人自身の存在によって。


ムカつくぜ。
な~~~にが偶像だよ。要するに“違う存在”たれって事でしょ? 階級なんだよ!階級階級!
自分では叶えられないものを偶像に見るため、どこまでも穢れていく兵士の信仰の対象として、どこまでも清い存在でいなければならない。
絶対的な存在。皆と違うもの。勇作は自身が周囲と差別化された偶像であること、そのことが周囲を勇気づけるということに意義を見出して愚直に言いつけを守った。
けど父上の狙いはきっとその“差”そのものだよ。デザインした息子。勇気づけるという構図が肝なんであってそれが“善”であるなんてことはきっとパパ上はどうでもいいの!!機能美なの!!
罪悪感云々はシステムの話であって倫理道徳のお話じゃないの!!それが兵士として厄介な感情だから排除する機構が必要だったの!!
それを“この世にいて良いはずがない”とか飛躍させたのは君なの!!綺麗ごとでものを考えてしまう童貞野郎の君なの!!!!

この辺は完全に私見に過ぎないってことを前置きさせてください。その上で、花沢幸次郎参謀長殿はけして“息子だけには人殺しをさせたくない”なんて甘ったれた理由で勇作に不殺を命じたのではないのでは?
偶像として機能するための要求。「一切殺さずに最前線で旗手努めろなんて無茶だし諾々と従う勇作もおかしい」という感想も散見されます。勇作さんの従順さは置いといて、花沢中将の要求の無謀さは“童貞守ってれば被弾しない”なんてゲン担ぎをマジで信じてたわけじゃなくて、“死んでもともと”だったのでは?
この人でなしな憶測の根拠はひとつです。あの鯉登少将に送った手紙、やっぱ本物だったんじゃないのか、って。
手を汚さずに綺麗なまま“生きて帰って来い”なんて思ってなくて、手を汚さずに綺麗なまま“死ね”と思っていたんじゃないの? あの手紙に書いてあった“免罪符”のために。別に生きて帰ったのならそれはそれでいい。ただ、死んでいい。
少将はのっぺらぼうに関し「娘ば利用しようとして育てたんとは絶対違どと思うちょります」と言っていましたが、中将どんは息子ば利用しようとして育てたんじゃないモスか? 生贄だったんじゃないですか、この戦争への。処女童貞の生贄。
もう一つ可能性の材料としては、あんこう鍋で尾形が言ってた「当時…父上は近衛歩兵第一聯隊長陸軍中佐 近衛は天皇に直結する軍ですからね…」という台詞。その後に続く「世間体を考えれば」ということへの説明として一見機能してますが、花沢中将と明治天皇との近さを示唆する台詞だったとすれば、天皇陛下より親授された軍旗、その神聖さを穢さないための潔白の厳守命令にも説明がついてくる気が。
そして勇作さんがその言いつけに、あくまで彼個人として納得のいく理由を見出したのが、父の言った言葉の中で強く印象に残った“罪悪感”という概念の拡大解釈だった。
自分だけ清いまま人殺しを免れることへの“罪悪感”を勇作さんは感じていたのでは? それを、清いままでいることで周囲の“罪悪感”をむしろ救済できるのだという発想の転換、その思想に救いを見出したからこそ、父の言いつけを守ることが出来た、いやむしろ固執したのでは?

“罪を犯させる罪悪感”を勇作さんが持っていたんじゃないか、ということに関してはもはや僅かな根拠すらない、完全に私の解釈ですけど。でなければ階級社会にムカついて終わってしまうんで。
突然自分語りしますけど、私が人生で一番罪悪感を持ってる思い出は、大学時代兄に金を借りた事なんですよ。出身北海道で、進学のために東京出てきたんですけど、家が貧乏だったんで仕送りゼロ、奨学金とバイト代しか収入が無くて、通う内に学費の納入期限なのに金が足りないという状況が来た。
"天は人の上に人を作らず。しかし実際は富めるもの貧しいものとの差が開いているのが世間であり、その身分差がどこから来るかというと職業の差である。要職に就いているものは社会的地位も高い。そうした職に就ける就けないの差は、すなわち学問の差である"というような事を福沢諭吉は仰いました。
実際今の日本も学歴社会です。しかし学問を修める機会を得るのにも貧富の差が付いて回るのが現実で、高等教育以降からその影響は如実に出てくる。
明治5年から刊行された学問のすすめの影響力というのは、一番高い紙幣の顔になってるほどですし相当大きかったんでしょう。寅次が第一話で、「俺は学がねえから子供は大学へいかせたい。貧乏から抜け出して欲しい」と言っていた台詞は、きっとあの時代から多くの人が願っていた事だったんだと思います。梅子の眼の話はその後、なんですよね。父として、夫としての願いだった。だから後半しか頭にない杉元は“父親”になる気は無いんだ。そういった端々に滲む無意識のエゴが杉元の好きな部分でもあり、軽蔑してしまう部分でもある。

で、私は三兄弟で2歳ずつ違いの兄が二人いるんですが、二人ともが先に東京に出ていたんです。上の兄は私同様進学のため、二番目の兄は働くため。二人の偉大な開拓者が居たから私も進学という選択肢が持てた。実際大学生活の最初の方しばらくは兄の所に居候させて貰って通いました。
もうその時点で厚かましいことこの上ないですよね。兄からすれば下宿にするために家賃払ってんじゃねえんだよって感じじゃないですか。あの日々のことはもう思い出したくないです。家に居るのが申し訳なくて、遅くまでいつも外で星を眺めていたな…
私と違って“兄”という後ろ盾も何もない兄自身がどうやって暮らしていたのか、私には想像もつきません。二番目の兄も早い内から揉めて、そんなに長くは上の兄の所に居なかったようですし。とにかく死ぬほど苦労したのは確か。
私より遥かにハードモードをクリアして、ようやく独り立ちしてる兄たちの苦労を利用する罪。で、先述した通り学費が足りなくなった時、生活で世話になるばかりか、足りなくなった費用すら貸してもらったんですよ。何度か。
「貸してくれた」と言えば聞こえはいいですが、要するに「貸させた」んですよね。というか出させた。“妹が詰んでる。援助の手段を全く持たないわけではない”そういう状況を私が作ってしまった。血の滲むような苦労をして得た少ない金という手段を私に使わせた。兄たちはいい人なんで…。
おそらく私の進路選択そのものが分不相応だったんでしょう。大学の周りの友人は実家住まいだったり、上京でも仕送り月十万が普通だったり、ましてや学費を自分で用意する人なんて居なかった。人間には本当に“分”というものがあるのだと、そして私はそこを間違えたんだと、相応しくない場所に来て初めて理解しました。でもそんなの誰も教えてくれなかったじゃん!?と川を眺めながら憤っていた記憶があります。でも地元に留まったところで未来なんて無かったんですが。
で、金に困ったとき死ぬほど迷って見てたのが風俗の求人広告でした。もうこれしか無くないかと。金もない、時間もない、体力もない、しかし若い女にはひとつ強力な手段が残されている。頭を抱えながら大学のネット使用可パソコンで求人募集を眺めた日々。よくできてるのは、ああいうとこって電話不要でいきなり面接に来てオッケーのシステムだったりするんですよね。勢いで行けるようにハードルをうまく低くした設計になってる。かしこーい。
ただ、私はどうも異性に好かれるのが苦手で処女だったんですよ。この平成のご時世に、借金苦でもなくただ学費のために身を汚して金を作るとか惨めすぎでは?という躊躇いが二の足を踏ませていました。ましてや周りはそんな苦労必要ない人間ばかりでしたしね。
あと私に金が無いのは家族も知ってるんで、いきなりその問題が解決した時に、ならその金の出所は何処なのかってことがいずれはバレると思いました。資金洗浄システムなんて持ってないですし。で、そんな事するくらいなら大学やめろって話になるでしょう。私も詳しくシミュレーションするとそこまでする意味あるか?と思ったしそもそも死にたくなりました。ただ、途中でやめたらそれまで大学に払ってきた金や苦労も無駄になるわけで…中退だとしても学べただけ価値はあったじゃない!と思うには、払った犠牲がでかすぎた。少なくともこの先十年生きていけるような保証が欲しいんであって、思い出が欲しいわけではない。
マジでもう金が必要、誰にも頼りたくない、となった時に、実際面接に行く気になった事があります。ただそのために電車乗ってる時ちょうど友人が一緒にいて、そういう予定でいることを正直に話したら、引きつつ止められたんですよ。風俗は…やめなよと。お金が本当に無いなら休学とかもあるし…と。そっか…?そうだね…?と、面接行きはやめてしまったんですが。ただ、その子も最近おじいさんが死んで五千万くらい相続が入ってきて、大学院進んで27くらいまで学生やる人生設計の子で、まあ金持ちだったんすよねえ~~~
納得してしまったものの、休学したら復学なんてまず無理だと思いました。奨学金も打ち切られて、生活を保ちつつ学費を貯めるのに何年かかるのか、そもそも可能なのか?ということを考えるとまず自信がなかった。
そして結局その最大級にヤバい時も、確か兄に助けてもらい…色々バイトを転々としつつ、無事卒業して、就職して今は奨学金返しながら何とか生き延びてるわけですけど。
未だに申し訳ないと思うんですよね。兄は上の兄弟に生まれたくて生まれたわけじゃない。後に生まれたというだけで、構図として踏み台にしてしまった。
ただ単に時が全てを解決したけど、結果オーライと言い切ってしまうことは今も出来ない。あの頃の私は屑だったし、兄に身銭を切らせるぐらいなら思いつくこと何でもすべきだったんじゃないかと。それこそ貞操くらい売ってしまった方が“倫理的”だったんじゃないかと今でも思う。親は嘆くだろうけど、親よりも兄に申し訳なく思う気持ちを優先するべきだったし、何より私自身の在り方をもっと私は考えるべきだった。自分クソじゃん…死ぬべきでは…?とか頭を抱える前にやる事はいくらでもあった。弱い人間でした。
兄二人とも今も変わらず仲良くしてくれますけどね。偉大な男だ。一生頭上がりませんわ。そしてあの時の金まだ返してないけどね。兄ちゃんゴメン。

だからさ、どうなんだろうと思って。この勇作さんへの感情。同族嫌悪なのだろうか?
もはやエゴなしに善悪を語ることが出来ないので流れるように自分語りをしてしまいましたが。
あんこう鍋からずっと、勇作さんだけは尾形を一人の人間として、家族として見てくれていたのに、尾形は父親しか欲さずにその手を拒んでしまったんだと思っていた。
違ったんだ。逆だったんですよ。
尾形は一人の人間として向き合おうとしたんだ。二人きりで本当の話をした。けどそれを拒んだのは、勇作さんの方だった。己と己を作った父親の正しさしか信じずに、目の前の尾形を違う側の人間と退けた。
規律が乱れますからと何度注意しても頑なに兄様と呼んで、我々は対等なのだと、この世にたった二人の兄弟なのだという顔をして微笑んでいても、尾形の在り方を認める気なんて初めから、端から無かったんだ。どうしてまとわり付いた? 今は間違っていても、いずれ正しい道に帰る。その時に己が支えになるのだとでも思っていたのか?
死ねよ…。(直球)
あるいは殺してくださいよ。
どちらもしてくれないなら、殺すしかない。存在ごと認めてくれないのだから。絶対的な存在として世界に収まりながら、絶対的に許容してくれないのだから。

上から、なんですよね。基本的に。
そこには行けないし、行ってはいけないし、あなたも居てはいけないんだと根を張った土からぶちぶちと引き抜こうとする。
尾形にとって、初めてこっちを見てくれた家族だったけど。それはガラス越しの哀れみだった。
巣立ちと思って尾形は親を殺したけれど、巣立ちの本質を間違っていたのでは…と思っていました。だけど、この時、あの言葉を言われるまでは、尾形はちゃんと真っ当に巣立とうとしていたんじゃないだろうか?
己で己の在り方を規定しようとしていた。
頑張ってたんじゃないのか…。戦場で、ひとりで、黙々と…尾形なりに…。

勇作さんのこと、嫌いにはなれません。だって抱きしめた時のあの涙は本物だから。勇作さんは勇作さんなりに、本当に尾形が好きで、尾形を想って泣いたんだ。哀れみでも本物の愛だった。
だから尾形もどうしていいかわからない。心に残り続けてる。きっとああして尾形を抱きしめた人も、涙を流してくれた人も今までいなかったから。
やりきれねえよ…。尾形が憎めないんなら代わりに私が憎むよ…。クソ野郎なんすよあいつは…。カースト上位のクソお坊ちゃんなんだよ…。無意識に見下してんだよ。そしてそれが自然なんだよ。上位者さまだから世界がそうなってるんだ。仕方ないんだよ。もういい、殺そう殺そう(突然の玉井伍長)

あんこう鍋の父上との対話、あれは、愛の存在を確かめていたんじゃない…。
人生最初で最後の「俺が必要ですか?」という問いかけなんだと思っていた。多分否と返ってくると分かっていても、まだ生きている内にそうしておかなければならなかったんだと。通過儀礼なのだと。
でももっと切迫した意味合いがあった。むしろ“愛の不在”の確認だったんだ。
「仕方ないですよね?」って。

あなたの息子に、何かが欠けていると言われたんです。それは多分あなたのせいなんだ。だって俺もあなたの息子なのだから。
彼にあるものが俺にはないから、俺には大事なものが欠けている。でもそれってどうしようもないですよね? 勇作さんがいなくなっても、俺を勇作さんのように愛したりはしないんですよね?
母を殺してしまった。良かれと思ってそうした。ロシア兵もたくさん殺しましたよ。けれど人を殺して罪悪感を感じない人間なんて居てはいけないモノなんだそうです。そんなの知らなかった。勇作さんはあなたからそれを聞いたと仰っていました。俺を勇作さんにしたように愛するとしたら、同じことをあなたは俺に求めるのでしょうか? そんなの困ります。俺がしてきたことは真逆だった。できる自信がありません。俺は殺すことしかできない。勇作さんも殺してしまいました。
大丈夫ですよね? 俺は彼のように、祝福された清い道を歩く必要なんてなかったんですよね?
不安なんです。

そして父上は答えた。「貴様の言うとおり何かが欠けた人間…出来損ないの倅じゃ。呪われろ」と。
あれは、唯一自分を肯定してくれた弟を殺してしまった男が、唯一求めた父から全否定された瞬間なんかじゃなかった。
唯一求めてきた弟に抱きしめられながら己を全否定された男が、唯一この世で己のことを規定できる父に、肯定された瞬間だったんじゃないだろうか?
お前の言う通りだと。お前は勇作とは全然出来の違う倅だと。呪われて生きろと。
尾形の笑顔は、安堵だったんじゃないのか。よかった、って。

あれ…? この親子お似合いじゃない…?
なんてことだ。一周してファザコンルートに戻ってきてしまった。父上に会いに行って良かったね百之助ちゃん…?
いやわかんない。この解釈がどの程度ぶっ飛んだものなのか自分で判断がつかない。でも偶像とか言っちゃうのもそれはそれでぶっ飛んでるから…
まっすぐ見つめ合って言う遺言。父上の今わの際に目の前に居たのは百之助ちゃんだったんだなあ、と思うと改めてこう…来るものがあるな…。

それにしても、哀れだ。尾形の内心を考えると、そこに広がっているのはただただ虚しさ…子どものころから今に至るまでずっと。常にどこかにぽっかりと開いた風穴がある。
今週は読んでしばらく本当に悲しいきもちだった…。日露戦争もわりと後半戦の奉天で、月島軍曹が鶴見中尉に殴りかかったコマの後ろの方で「うける(笑)」って感じで笑ってる尾形を思い出して心を落ち着けるほかなかった。
いつも双眼鏡で遠くを眺めてるけど、空をきれいだなって思ったりすることが、尾形にもあるんだろうか…。ちょうちょを追いかけていたのは、どういう気持ちだったんだろう…? そんなことが今すごく気になるんだ…

そして最後のページですよ。お前ええええええ!もうそんな男のことは忘れなさいよォーッ!!!?
まさかマジでアシリパさんと勇作さんをダブらせてるとは恐れ入ったな。最近の尾形のアシリパさんへの心なしか優しい対応に、なんか「お兄ちゃんみたいだな」と思っていた自分の感覚が今ブーメランとなって自分に突き刺さる。「行こう…勇作…」「一緒に行くか? 勇作…」やめろォ!叶わなかった夢を見るような悲しい意味深な素振りはやめろ!!!
橇に乗る白ずきん尾形の裾に頭突っ込んで、二人羽織状態だったアシリパさんと尾形の図にカワイイ~~~仲のいい兄妹みた~~いと萌えたんですよね。それ今思い出して、一緒に橇に乗る兄弟…と想定した後、そういや先週乗ってたわと思い至り真顔になった。勇作お前…お前何負けじとソリ乗ってんの?降りなさい!!!!
勇作の存在が尾形に重く影を残しているのは確実ですが、やっぱ先週登場したのはユーレイなのかなあ~。本当に幽霊だとしたら腹立つんですけど。何なの!?未練なの!? たとえ優しく気遣う幽霊だとしても許さんぞ!お前は兄様の傍に居ていい人間ではない!!悪霊よ去れ!!

それにしても尾形は“アシリパさんの目的”を知りたいんだ、というのが現実味を帯びてきましたが。
多分鯉登少将が語った、己が指揮官であるからこそ身内を先頭に立たせる“将としての平等性”と、今回花沢中将が勇作に伝えていたことが明らかになった“将としての特別性”の対比というのは、そのまま網走でのウイルクと杉元の問答にも繋がるのかと思うんですよね。
ウイルクの意図はまだまだ謎ですけど、鯉登少将の言う平等性はのっぺらぼうについて語っている時に言った言葉ですし、ウイルクがアシリパさんに戦闘技術を仕込んでいたのは確か。一方杉元はアシリパさんだけは殺すなと思っている…己を救った偶像として。
尾形はその両方を殺そうとした。つまり、こうなって欲しいという理想像があるわけではないのでは?
「殺すところが見てみたい」のなら、杉元だけ殺すか…もしくはキロランケの“教育”に意味深な影を背負う必要はないんじゃないだろうか。
尾形自身も正しさが分からないから、勇作さんの言うことが忘れられない。アシリパさん本人が判断する正しさを知りたいんじゃないか。
ただ、先週アシリパさんは「人と人が殺し合う呪われた金塊ならば闇に葬るべきだ」という決意を抱いた。それはハッキリと殺人の罪悪を断じている。
そのことが、また尾形の否定になってしまうのだろうか。
そしてその時、尾形は…。
はあ…。(ため息)ただあそこで勇作さんが振り向いた幻影を見たのは、そこで殺したことが尾形の中に消えない染みとなっているから。
最後のページを読んだ時、「今度は間違えるなよ尾形…」と思いましたが、でも何が間違っているかなんて決めることはできない…。尾形のすることは理由のあること…。
アシリパさんは主人公なので間違っても尾形にシュパァされることはないでしょう。問題は、尾形は何を望むのかということ。
今回初めて口にした望みがあまりにも無欲だし、あまりにも救いがたいものだったから頭を抱えてしまう。

杉元に関して「もしかしたら生きてるかもしれんぞ。今頃怒り狂ってるかもな」と言った時の笑顔が超楽しそうで、絶対殺したいわけじゃなかったから死んでなくても構わないのかな? 状況を面白がっているのかな、と解釈していたけど、事実はもっとぶっ飛んでいた。自分に向けられる殺意が、快いんだな…?
死ねコウモリ野郎って言われて、鼻血出してわりとピンチなのに笑ってた、あの笑顔の意味も今ならわかる。人を殺そうとしている人間が見れて楽しいんだ。自分に向けられる殺意に「ほら、罪悪感なんてない」って実感できて、嬉しいんだ。くるってる…。
わりと辺見に近いヤツだったのかもしれないですね。辺見は「死にたくない」と足掻く人間の死ぬ前の煌めきが見たい男でしたけど、尾形はあれかな、「殺したくない」と拒否する人間が手を血に染めてしまう暗闇が見たいのかな?
満足した辺見の結末の逆…と考えると、殺されそうな人間を助けて死ぬ…しか尾形の救われる結末は無い気がしてきて頭を抱えた。
尾形のことが明らかになればなるほど可哀想だと思うのに、知れば知るほど死なない結末が遠のく。
過去、未来…勇作さんもアシリパさんも高みにいて、尾形はそれをいつも下から見上げている。尾形はいつも底にいる。人は平等にはなれない。
お前が偶像になれと言った鶴見を、尾形は拒否した。それはなりたくないからか。なれないからか。罪は赦されるのか? 赦されたいと願う事は傲慢の罪ではないのか。その点で言えば尾形はけして罪深くない。
とりあえず熱が下がって良かったね。アシリパさんにちゃんとお礼言うんだよ。狩りでお礼するんじゃなくてだよ。いつかヒンナも言えるといいね。